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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十一章
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百四十一駅目 メイドからの手紙

 カルロフォレストの中心部にほど近い場所にある広場。

 町の中心部にあるということもあり、昼間であれば相応に活気にあふれているであろうこの広場も夜中となれば、人影はかなり少ない。


 そんな広場の中心に全身を黒いローブに包み込んだ誠斗とノノンの姿があった。この格好を提案した人曰く“この服装なら目立たない”とのことだが、夜とはいえ、それなりに灯りがある町中……しかも満月の夜と来れば、闇に紛れきらない分、むしろ目立っているのではないのかと心配するのは的はずれなのだろうか?


「遅いねー手紙を出した人」


 誠斗の横でつぶやいたノノンの手にはしっかりと手紙が握られている。

 しっかりと握りすぎて、せっかくの手紙がぐしゃぐしゃになってしまっているのだが、それに関しては今頃指摘しても手遅れなので気にしないでおくことにする。


「まぁ差出人不明だし、この場所に来るっていう人の特徴も一切かかれてないから、気づいてないだけっていう可能性も否定しきれないけどね……最悪、ただのいたずらの可能性だってあるし」

「そうはいっても、無視するわけには行かないでしょ。改めて見直すと結構なことが書いてあるし」

「……なんというか、それがむしろ怪しいというかなんというか……」


 ノノンが握っている手紙を見て、誠斗は小さくため息をつき、ここに至るまでの経緯を思い出していた。




 *




 さかのぼること数時間。

 誠斗たちはこの町を発つ準備をしていた。


 この町の謎については気になることが多いのだが、それを追及してばかりでマーガレットやアイリスの救出がこれ以上、遅くなるようなことがあってはならないという判断を下したためだ。


 最も、その判断を下すのは少々遅すぎたかもしれない。現にこの町で様々なものを見てしまっているし、それを放っておくというのもどこかモヤモヤしたものが残るのだが、これを追求し始めると時間がかかりそうだったため、まずは第一の目標を達成するべきだという結論に至ったのだ。


 手紙を持った宿屋の主人が部屋を訪れたのは宿屋での支払いを終え、一通り荷造りが終わったころだった。


「よかった。まだいらっしゃいましたか」


 急いでやってきたらしく、若干息を切らしている宿屋の主人は手に持った手紙を誠斗へと差し出した。

 誠斗がそれを受け取ると、封筒には“ヤマムラマコト様、並びに御一行様へ”と書かれており、封蝋(ふうろう)で閉じられている。

 しかし、封筒の裏を見ても差出人の名前はない。誰からの手紙だろうかと首をかしげていると、すでにリュックに入っていたノノンが誠斗の肩越しに封蝋を指さした。


「……この封蝋ってシャルロッテ家のやつじゃない? ほら、これ」


 ノノンに言われ、改めて封蝋を見直すと、確かに赤い封蝋には斜め上を向いたマスケット銃が描かれていて、その下には何やら文字が書いてあるように見える。先のノノンの言葉を含めて考えると、これがシャルロッテ家の人間が出した手紙であるという証明になっているのだろう。


「ありがとうございます」


 手紙主の推測もなんとなく済んだところで誠斗は手紙を持ってきた宿屋の主人に礼を言って、部屋の中に戻る。

 封を解いて中身を取り出すと、銀色の時計と一通の手紙が入っていて、誠斗は銀の時計をそばの机においてから手紙を読み始める。



 ヤマムラマコト様


 突然の手紙にて失礼いたします。

 私はシャルロッテ家でメイドをやっているものです。サフラン・シャルロッテ様より火急での言伝がございますので今夜、月が時計の頂点と重なるころにカルロフォレスト中央広場の時計台前においでくださいませ。また、この件につきましては内密にしていただきたいと思いますので目印という意味も含めて黒い服を着てお越しください。


 以上。シャルロッテ家のメイドより



 誠斗とノノンは一通り手紙を読み終えたところで二人して首をかしげる。


「……なにこれ?」


 そんな中、先に口を開いたのはノノンだ。

 当然といえば当然の反応かも知れない。それは誠斗も同様で手紙を見つめたままどうしたらいいかと考え始める。

 そもそも、この手紙には差出人の名前がシャルロッテ家のメイドとしか書かれていないし、広場まで来いと呼び出している割には自分がどんな格好で来るのかなどといった要素が一切かかれていない。いや、まだこれに関してはメイド服だと考えれば納得できるだろう。

 しかし、一番の疑問は待ち合わせの時間を指定している一文だ。“月と時計の頂点が重なるころ”っていつなのだろうか? まるでどこかの怪盗が出す予告状のようだが、どうせ時計台の下で待ち合わせるのなら時刻を指定してもいいのではないだろうか?


 いろいろな疑問が尽きないが、とりあえず誠斗は手紙と一緒に封筒に入っていた銀の時計を手に持ち、リュックを床に置いた。


「……仕方ない。とりあえず、この手紙を出した人に会うためにもう一泊するか……」

「こんなののためにわざわざ待つの?」

「そうは言っても、シャルロッテ家の関係者から出されてるんだから、無視するわけには行かないでしょ。わざわざ封蝋まで使って証明してるんだし」

「いや、まぁそういわれるとそうなんだけど……」


 なぜだか、封蝋まで使ってあるのにシャルロッテ家の関係者から出されたものだと言い切ることができない。

 そもそも、メイドが封蝋を使って手紙を出すのかということについては内容からしてサフランの許可があったとみて間違いないが、やはり一番の問題は手紙の内容だろうか?


「……とりあえず、宿屋の人に事情を話してもう一泊分料金を払いましょう。たとえ、これがいたずらで誰も来なかったとしても出発は明日の明朝になりそうだし」

「……おやおやぁ私たちのー意見も聞かずに残留決定ですかー? まーあー私は反対しませんけれどねー」

「えっと……私も誠斗たちの判断に従うわ」


 ノノンと誠斗の決定にオリーブとココットも賛成の意を表明する。

 最も、受動的な反応を示すココットとどこか楽し気な表情を浮かべているオリーブとでは内心は随分と違っているのだろうが……


「それにしても、思いもよらない形で足止めをされてしまったわね……もっとも、ちゃんと歩を進めてなかった私たちにも問題があるのでしょうけれど」

「まぁ仮にサフランの話がそれに関連したことだったら、本当にそうなるよね」


 二人してため息をついた後、誠斗は宿屋の主人に会うために階下へと降りていく。

 部屋に残された三人は必要最低限のものだけをカバンから取り出して各々の時間を過ごし、そのまま夜を迎えた。




 *




 頭の中で今日の朝からの出来事を振り返った誠斗は小さく息を吐く。

 春に近づいているとはいえ、陽が落ちれば寒いという事実には変わりなく、吐いた息は真っ白になって夜の闇へと消えていく。


「……はぁ今日は一段と冷えるわね……というか、この調子だと月が時計台の頂点と重なるなんていつになるかわからないわね……」


 ノノンの視線の先にある月は時計台と少し離れたところで輝いている。

 陽が暮れるころからずっとこの場所にいるのだが、通りを行く人たちからちらちらと視線を送られるだけで月が目的の場所に到達する気配が見当たらない。

 こうして、ゆっくりと月を観察する機会などないのだが、こうして見上げているとこの世界の月も日本の月も大して違わないように見せる。


 そうして、月を観察した後に時計に視線を戻すと、誠斗はあることに気が付いた。


「……そういえば、手紙と一緒に時計が入っていたよね?」

「えっ? あぁでも、時間を見たいなら目の前の時計台を見ればいいじゃない」

「いや、ボクが言いたいのはそういうことじゃなくて」


 手紙の内容ばかりが気になって、まともに時計を見ていなかったのだが、よくよく考えれば何の意味もなく時計を同封することなんてないはずだ。

 今回、呼び出されている場所は時計台の前だし、時刻もはっきりと指定されているわけではない。そうなると、この時計に残された役割は少々意味深な手紙の内容を正確に読み解くための手がかりであるとも考えられる。


 誠斗は持っていたリュックから時計を取り出すとそれを改めて観察する。


「……これは」


 約五分ほどの時間をかけて、時計を観察していると誠斗はようやくその事実に気が付いた。


「何かあったの?」


 誠斗の反応でようやく時計に興味を示したらしいノノンが誠斗の背後から時計を覗き込む。それと同時に彼女はどこか納得したような表情を浮かべた。


「……なるほど。そういうことね……」

「こんなに単純な仕掛けなのに気が付かないとはね……」

「まぁよく見ないとわからないでしょ。ほら、あの手紙だとそんなにこの時計なんか見ないでしょうし」

「……だろうね。実際、ボクたちもそうだったし……さて、このまま待っていても寒いし、時間になるまでどこかで温かそうなところで待ってようか」


 誠斗は時間を示す時針の先に三日月をかたどった飾りが付いている銀時計をポケットにしまって広場を後にする。

 ノノンもそれに続いて広場を後にした。

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