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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十章
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幕間 カレン・シャララッテと十六翼評議会(中編)

 要塞都市シャラブールの足元に広がる広大な地下通路のほぼ中央に存在しているとある部屋。

 薄暗くて、ジメジメしていて、どこか薄気味の悪いほかの地下空間とは違い、地上からの採光口があり、それが換気扇の役割も兼ねていることから、明るく、空気もどこか軽やかなこの部屋は、もともとこの場所にかけられていた強力な魔法の影響で防音性、気密性が非情に優れている。そういったことを加味すれば、ここは秘密の会談をするにはうってつけの場所といえるだろう。


 もっとも、なぜこんな部屋が存在するのかというあたりを追求し始めると、そもそもこの地下空間が何のために存在しているのかというところから始めないといけなくなるのでそこのあたりについては、一旦思考の外に置いておく。


「……………………それで? なんでその話をここで?」

「会談には必要な話だからですよーと、さーてーそろそろつきますねー」


 部屋の中で待っていると、外の廊下から二人の声が聞こえてきた。どうやら、二人が到着したらしい。

 飛翔は部屋の扉を開けて二人を迎え入れる。


「お待ちしておりました」


 そのまま飛翔は深々と頭を下げる。その出迎えが気に入ったのか、カレンはにっこりと笑顔を浮かべて飛翔の頭に手を置いた。


「ご苦労様ですねーさぁー一緒に部屋に入りましょうかー」

「はい」


 カレンは飛翔の頭をなでてから部屋に入っていく。それに続いてサフランが入室し、最後に飛翔が周囲を軽く見回してから部屋に入り扉を閉める。

 飛翔が入室する頃にはすでにカレンとサフランが向かい合うような形で座っていたので飛翔はカレン座っている椅子の斜め後ろに移動する。


 その一部始終を視線で追っていたサフランは飛翔が立ち止まるのとほぼ同時に口を開いた。


「……………………この場所にもこんな風に心地のいい場所があったのですね」

「あらあらぁ失礼ですねーたーしーかーにー地下空間(こーこー)はーあまりいい環境ではないかもしれないですけれどー地上の施設で話をするよりはずっと安全だと思いますよー」

「……………………………………はぁ別に文句を言っているわけじゃないですよ。ただ単にどうしてここまで来たのかと聞いているのです。それほど重要な話なのですか?」

「重要といえば、重要ですしーそうでないといえばそうでないといったところですかねー」


 中々要件を話さないカレンの態度にサフランは少々イライラしているように見えるが、カレンはそんなことなど気にしないと言わんばかりにゆったりとした動作で懐から一枚の紙を取り出し、サフランに提示する。


「……これはーあーなーたーがー領主代理としてー行おうとーしているー計画についてのー要望書なのですよーもーちーろーんー他のメンバーの了承もー全員ではないですが、得てますのでーそちらの確認もお願いしますねー」


 目の前に出された要望書に目を通したサフランは明らかに期限が悪くなる。

 彼女は要望書から目をあげるとそのままカレンを冷たい視線で射ぬく。カレンの座る斜め後ろに立つ飛翔は直接その視線に当てられている訳でないのだが、凍るような冷たい視線に背筋が凍りつくような恐怖を感じた。

 しかし、その視線を真正面から受けているカレンは表情を崩すことなく、いつも通りの笑顔を浮かべたままだ。


 カレンが手渡した要望書の内容は知らないが、この反応を見る限り相当なものなのかもしれない。


「…………なるほど。知らないうちに結構勝手なことをしてくれているんですね」

「勝手なことをしてるのはどちらですかー? あーなーたーはーあくまでー十六翼議会の議長代理なのですよーなーらー議会の利益が大きくなるように動くべきなのですよー」

「……………………今回の鉄道建設計画についてはあくまでシャルロ領としとの事業であって、議会の介入は必要ないとすでに伝えているはずですが?」


 カレンの言葉にサフランの表情がますます厳しくなる。

 こんな状況でなければ、なぜこの世界に鉄道が存在するのかなどと考えているのかもしれないのだが、表情を崩さずにカレンの横に立っているだけで精一杯なのでそこまで思考が回らない。


 しかし、そんな飛翔の様子など気にすることなく、二人の話は進んでいく。


「はぁわかってないですねーあーなーたーがー動いてるんですよーなーらー少しでもー十六翼評議会の介入を受け入れるべきだと思いますよー」

「………………あなたこそ、すこし状況を考えたらどうですか? そもそも、この事業に着手したのは領主のアイリス・シャルロッテです。私があくまで領主代理であることを含めて考えれば、無理に十六翼評議会の権力を介入させるべきではないと考えています。話はそれだけですか?」

「……あなたーアイリス・シャルロッテが戻ってくるとでも思っているのですかー?」


 カレンの声が低くなる。それと同時にカレンの表情から笑顔が消える。

 その瞬間、カレンの横に立つ飛翔は部屋の中の空気が一気に重くなっていくのをひしひしと感じ始めていた。


「…………………………あなた、十六翼評議会の利益を追及するのは間違っているとは言いませんが、少し度が過ぎるのではないですか? 確かにアイリス・シャルロッテが私たちの手の中にある以上、彼女が再び表舞台に出ることはないでしょう。しかし、だからといって私が領主の座を得ることはできませんし、アイリス・シャルロッテが二度と領主の座を得ることをないと宣言をすることもできません。そうなると、私はあくまで代理らしく無理な介入をしない方が無難だと思うのですが?」

「あなたのそういうところがいけないのですよーアイリス・シャルロッテにあることないこと吹き込んで、十六翼評議会(わたしたち)から遠ざけようとしたりーシャルロ領での復権を狙っていたはずのあなたがーわざわざアイリスの握っていた計画を維持したりーどういうつもりなのですかー? そんなー態度でいるといつか痛い目を見ることになりますよー」

「………………………………………………痛い目を見るのはあなたの方では? 確かに私としても議会の利益を最優先に考えるというのは間違っているとは思いません。しかし、それにも限度というものがあります。あなた方がどうやってこの計画にどのような利益を見出しているのかは知りませんが、これはあくまでシャルロ領の問題です。まぁもっとも将来的に“シャラ領”の方々にご協力をお願いすることになるかと思いますが……これ以上の話がないのなら私はここで帰らせていただきます。あぁ道は覚えているので案内はいりませんので……それでは失礼します」


 サフランはそのままカレンの返答を聞くことなく立ち上がり、部屋から出ていこうとする。


「待ってください。サフランさーん。あーなーたーどこへ逃げようというのですかー?」


 しかし、カレンが声をかけるとサフランはその場でいったん立ち止まり、振り返った。


「………………逃げるわけではありません。ただ、この場での不毛な話し合いに時間を費やすべきではないと思ったからです。それでは失礼します」


 それだけ言い切ると、サフランはそのまま部屋から出て行ってしまう。


「ちょっと待ちなさい!」


 去り際に見せたサフランの態度に腹を立てたらしいカレンが声を荒げながら部屋から飛び出していく。


 そんな中、部屋に一人残された飛翔は目の前で起きた出来事が理解しきれず、呆然と部屋の中で立ち尽くしていた。

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