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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十章
173/324

幕間 カレン・シャララッテと十六翼評議会(前編)

 カルロフォレストから北へ向かったところにある要塞都市シャラブール。

 その町の地下にはあまり人には知られていない広大な地下空間がある。


 その区画の大半は十六翼評議会と翼下準備委員会で調査されているのだが、この空間の完全な地図は残っていないため、誰もがすべてを調査しきったとは言い切れないし、現に開かずの扉的なものも存在している。


 そんな地下空間の調査は現在ではすっかりと行われなくなっており、現在はもっぱら十六翼評議会が使う秘密の空間という形に定着しつつある。


 現に地下牢や地上ではできない魔法の実験をするための部屋など多くの区画が数百年というときを経て作られている。


「………………久しぶりに来たけれど、相変わらずジメジメしてて嫌なところね。カレン書記長」

「おやぁ? 仕事モードですかー? なんだかー珍しいですねーサフラン議長代理ー」

「……………………普段からちゃんと仕事をしているのにそのようなことを言われるのは心外なのですが」


 そんな地下空間に十六翼評議会書記長のカレン・シャララッテと同議会議長代理のサフラン・シャルロッテの姿があった。


「はいはい。そんなジメジメしていて陰気臭い仕事場で申し訳なかったですね」


 そんな二人を案内するのは十六翼評議会の下部組織である翼下準備委員会の委員である飛翔だ。

 実際、この場所の管理をしているのは翼下準備委員会の委員長を務めているフウラ・マーガレットであり、案内役も彼女が務めるべきなのだろうが、残念ながらここの主であるフウラは三日ほど前に用事があるといって姿を消してから帰ってきていない。

 そのため、カレンが信頼を置いている飛翔に案内役の仕事が回ってきたというわけだ。


「おやおやぁそーこーまーでー言ってないじゃないですかーねぇ」

「あーそうですか。申し訳ございませんね」

「素直じゃないですねーまーあーそこがーあなたらしいところなんですけれどねー」

「あなたも変わりませんね。本当に」

「あらまぁーそんなことを言ってくれますかーせっかくなのでーほめ言葉として受け取っておきますねー」


 そんな大物二人の会話をよそに飛翔は気づかれないようにため息をつく。

 なぜ、フウラはこんな大事なときにも帰ってこないのだろうか。


 出ていく直前にはこれまで見たことないほど焦っているような表情を見せていたが、だからといってこんなに大切な仕事を放棄してしまうのは考えものだ。もし、飛翔のようにすぐにこういった役割を引き受けられる人間がいなかったら、翼下準備委員会の存在意義すら問われかねない。

 フウラ曰く十六翼評議会の下部組織は翼下準備委員会のみではないらしいのでそういったところにとってかわられるようなことがあれば目も当てられない。


「それにしてもー委員長はどこへ来てたんですかねー」


 そんな飛翔の思考を読み取ったかのようなタイミングでカレンが口を開く。


「……………………私が知っているとでも? そもそも、委員会はあなたの管轄のはずですよ」

「クスクス。だからー私の失態とでもー?」

「………………そんなことは言っていませんよ。ただ、こういったときにいない委員長というのはいかがなものかと聞いているだけです。もちろん、当人が来ないとわからないとかそういう答えで結構ですので」

「でーはーお言葉に甘えさせてもらうのですよー」


 サフランの言葉にカレンは笑顔で答える。

 最初にこの話が出たとき、失態をしたと糾弾されるのではないかと不安になったが、どうやらそういった事態に陥ることはなさそうだ。

 カレンが飛翔の方を見て、ウインクをしているあたり、飛翔の不安をくみ取っての行動だったのかもしれない。


「……ありがとうございます」

「あらあらぁ何の話ですかー」


 サフランに聞こえないよう小声で礼をすると、カレンはこれまたどこか楽しそうな表情を浮かべて返答する。


「………………どうかしましたか?」

「いえいえーなんでもないのですよー」

「………………そう。まぁいいでしょう。それで? そろそろ話していただけませんか?」

「といいますとー?」


 サフランの言葉にカレンは小さく首をかしげて応答する。しかし、その表情から察するにほぼ間違いなく彼女はサフランの言葉の意味を理解しているだろう。


「…………………………私をわざわざここに呼び出した理由ですよ。あなたたち(・・・・・)がなにを考えているのか知りませんけれど、わざわざ迎えに来て、半ば強制的に連れてきたからにはそれなりに正当な理由があるんですよね? それとも、ただ単に私の業務を妨害するのが狙いですか? どういうつもりなのか、はっきりと答えてください」


 カレンの問いに対して、サフランが提示した答えは途中までは予想通りだったが、後半の内容は想像以上だった。

 そもそも、カレンが無理やり彼女をここに連れてきたということに対する驚きと、それに対するサフランの見解、何よりも一番最初にサフランが言ったあなた“たち”という言葉が深く突き刺さっている。


 もしかしたら、彼女の中では飛翔は完全に共犯でそれゆえにフウラがいないのではないかと思われているのではないだろうか?

 状況的に考えれば、そんな風に見えるのは普通だし、反論したところで言い訳にしか聞こえないのだが、仮にここで万に一つでもカレンが何かをやらかせば巻き添えを食らうことは避けられない。


 そんな不安のままカレンの表情を盗み見てみると、彼女はいまだに悠然とした態度で笑みを浮かべていた。


「あらぁそんな風に思われていたのですねーはぁ困りましたねーせーめーてー目的地まではーちゃんとついてきてほしいですねー」

「…………わかりました。では、目的地まではおとなしくついていきます」

「はいはーい。そうしちゃってくださーい」


 サフランの追及を笑顔のままかわすカレンに対して、飛翔はいまだに戦々恐々としたままだ。

 サフラン・シャルロッテという人物をよく知らないということもあるのだろうが、裏で暗躍している組織の頭だから、怒らせたら何をされるかわからないという潜在意識がそうさせているのかもしれない。


 一応、事前に彼女の親族であるアイリス・シャルロッテからいろいろと話を聞いてみたのだが、それはどれも幼少期の話が大半で現在のことを聞いても“あまりわからないけれど、前と変わらないと思うよ”という非情にあいまいな答えしか返ってこなかった。


 そのため、事前調査をするという努力も実らず、飛翔はサフラン・シャルロッテという人物をよく知れていないのだ。


「ツバサ。先に行ってー部屋の準備をしておいてほしいのですよー」


 そんなとき、カレンから声がかかる。


「はい。わかりました」


 言われなくても部屋の準備などとっくの昔にできている。

 しかし、この場から離れられる絶好の機会であることは変わらないので飛翔はそのまま駆け足気味でその場を離れて事前に用意されている部屋へと向かう。


「…………あら、結構元気なんですね。カレン書記長の報告が正確だったようで安心しました」


 背後から、そんな声が聞こえてきたが、飛翔は気づかないふりをしてそのまま暗い廊下を進んでいった。

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