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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十章
171/324

百三十九駅目 メルラの目的

 メルラとオリーブが出合ってから約一時間。

 異様な盛り上がりを見せていた二人の話はようやく終息の気配を見せ始め、緩やかに本題へと移りつつあった。


「それでぇーあーなーたーはーなぜ私にー会いたかったのですかー?」

「……一つは禁術が発動してしまったという現状を確かめるため、もう一つはあなたに協力してほしいことがあるからです」

「……協力ですかー? 人払いはいりますかー?」

「そこらへんは大丈夫ですよ。どうせ、あなたはこの人たちと離れられないのでしょう?」


 ある種の予想通り、彼女はこちらの事情をしっかりと把握しているらしい。


 メルラの一言に彼女に極力かかわりたくないと全力で逃避をしているココットを除く全員の視線がメルラに集中する。


「あら、そんなに注目されると照れちゃいますね。まぁいいでしょう。まぁ端的に言いますと、カレン書記長からちょっとした特命が下りまして、それを手伝ってほしいんですよ。オリーブ様やそこの妖精は何で議会が表向き一般人で議会とは何のかかわりもない人にそんなことを言うのかという疑問をお持ちでしょうが、それに関しては私は答えを持ち合わせていないのでご勘弁を……まぁなんといいますか、ただでなんて言うつもりはありませんよ? ちゃんとあなた方が協力して、特命をちゃんとこなすことができれば、あなた達が探している人と引き合わせてあげます。もちろん、そのまま連れて帰ってもらって結構ですよ。どうです? なかなかいい話だと思いません?」

「おやおやぁ随分と虫がいい話ですね。わーたーしーはーどうせあなたには逆らえないでしょうからー拒否はできませんけれどーマコトたちはどうですかー?」


 オリーブは視線を誠斗たちに向ける。

 しかし、その対応に驚いたのはむしろ誠斗たちよりもメルラだ。彼女は眼が零れ落ちるのではないかというほど目を丸くしている。


「……どうしてそれがわかったのですか?」

「……簡単ですよーあの戦いにおいて最後の最後に私の術者に成り代わった人物がー何の目的もなくそんなリスクのあることをするはずがないのですよーそれでいてーそんな時に都合よーく死霊術に通じているメロエッテ家の人間がー現れればー馬鹿でもわかるのですよー今の術者がーあーなーたーかーもしくはーあなたにー近い人物だっていうことぐらいはーわかりそうじゃないですかー?」

「なるほど。まぁでも、見破られても仕方ないかもしれませんね。何せ、すべてあなたの言う通りですし……それで? 本題を話してもいいでしょうか?」

「どうぞー」


 誠斗に聞けと言いながら、勝手に話を進めるオリーブを前にして、ため息の一つでもつきたくなるが、周囲はそんなことを気にする様子はない。

 現にメルラはそのまま説明を再開し始めた。


「えーとですね。そもそも、あなた方に接触したのはちょっとした特命の手伝いをしてもらいたいというものでしてね……えっと……あぁこれこれ」


 メルラは説明しながらポケットに手を突っ込み、そこから人差し指ほどの大きさの金色のカギを取り出した。


「これをちょっと預かってほしいんですよ。いや、正確に言えばカレン書記長のもとに届けてほしくてですね。何のカギなのかとか、どうしてわざわざこんなことをするのかとかそのあたりについては聞けていないので何とも言えないのですけれどね。ただ少々特殊なカギであることは事実でして、十六翼議会の関係者しか、触れられないという構造になっているんですよ」

「つーまーりーそれを私にー預かってほしいとー?」

「はいはい。その通りです」


 メルラは満面の笑みを浮かべながらオリーブのすぐ目の前まで体を乗り出す。


「あなたたちはカギを届けるという簡単な特命をこなすだけで目的を達成することができるわけです!」

「ふーん。確かにおいしい話ね。怪しすぎるぐらいには」


 ここまで沈黙を保っていたノノンがようやく口を開く。


 ただ、誠斗としてもあまりにおいしすぎる話だという思考には至っていて、当然ながら彼女の話に何か裏はないかと探ってはいた。

 単純に考えて、カギ自体に何かがあって、誰かに狙われているか、もしくはカレン書記長なる人物が自分たちをおびき寄せるための罠として、このようなことを仕掛けているといういずれかである可能性が高いだろう。


 メルラの真意がどこにあるのか。それを見極めるために彼女の顔をじっと見ながら返答を待つ。


「あらあら、やっぱりそう思ってしまいますか? あーまぁ確かにそのカギ自体はちょこっと厄介なものでして……いろんな方に狙われていると言いますかなんといいますか……」

「つまり、厄介ごとの種だと?」

「まぁありていに言えばそうなりますね」


 どうやら、メルラはそのあたりのことについては隠すことはさらさらないらしい。ただし、この調子だとこちらから質問をしない限りは欲しい答えは返ってこなさそうだ。それこそ、何か不都合が生じたところで“そんなことは聞かれてないから答えなかった”とでも言い出しそうなぐらいには。


「それで? その厄介というのは具体的にどんなものなの?」

「あーとその……なんといいますか、それを言うわけにはいかないんですよね。いや、知らないわけではないですよ。本当に」

「ここまで言っておいてー知らないはないんじゃないですかーうそをつくのがー下手だと損をしますよー」

「だったら言い方を変えるわ。言わないでほしいというカレン書記長から言われているんですよね。……さて、カギの話も終わったことですし、ここからは個人的な興味の位置での話なんですけれどね」

「あらあらぁ私はー納得してないわよー」


 これ以上の話は無駄だと言いたげに話を切り上げようとしたメルラをオリーブが制止する。メルラはそんな彼女を冷たい視線で射貫いた。


「……あなただって、元書記長ならわかるんじゃないですか? これがどういう意味なのか」

「あらあらぁ忘れてしまいましたねーだってーわーたーしーはー何百年もー前の人間ですからねールールだってー変わっているかもじゃないですかー」

「あぁそうですね。では改めて説明でもするべきですか?」


 メルラとオリーブの間に徐々に不穏な空気が生まれ始める。

 最初から少々危うかったのは事実だが、ついに微妙に保たれていたバランスが崩れたというような状況だ。

 この事態には誠斗のみならずノノンも少なからず困惑しているようで、ココットに至ってはいつの間にか部屋から姿を消していた。


 そんな状況の中、二人の会話はさらに険悪な方向へと進んでいく。


「そーれーとーもー私たちの時代からー議会は何も変わっていないとでもいうのですかー?」

「はい。議会は伝統を重んじておりますので根本的なところは変わっていませんよ。といっても私はまだまだ若輩者ですので詳しくは知りませんが」

「そうですかーでしたらーどうして、そんなに簡単に正体を明かすのですかー? ただ単にー新メロ王国の関係者としてー私の様子を見に来たという方が自然でーすーよーね―? どういうつもりなのですかー?」

「……まったく、そんなこと言われたら最初から詰んでいるみたいじゃないですか。そもそもですね。私がそうやって名乗ったのは私が信用のできる人間だということを証明するためです。たしかに我々の立場上こうして名乗るのはよくないかもしれませんが、だからといって新メロ王国の関係者だといって押し切れるようなものではないんですよ。それにいつかばれるであろう下手な嘘はつかないタイプなので」

「あらあら下手な嘘しかついていないではないですかー」


 オリーブは余裕綽々と言った様子でメルラをにらむが、その視線に当てられたメルラは徐々に顔を青くしていく。

 この様子を見る限りでは、メルラの方がいくらか分が悪いように見える。


「さぁてぇ改めてー説明してもらいましょうかーあーなーたーはー何をしに来たのですかー?」


 そんなメルラにオリーブは不敵な笑みを浮かべながら質問をぶつけた。

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