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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十章
170/324

百三十八駅目 メルラとオリーブ

 カルロフォレストの路地裏。

 宿屋の裏口には監視をしている衛兵がいるためノノンと誠斗は少し離れたところからその様子を見ていた。


 メルラが宿屋に入ってから十分ほど経過しているのだが、今のところ裏口の様子に変化はない。

 もちろん、すべての準備をたったの十分で済ませられないというのは、わからないこともないのだが、中の様子がわからずにただ待っているというのは少なからず不安を覚える。


「ねぇマコト。せめて、大体何分かかるかは聞いておくべきだったかしら?」


 おそらく、誠斗と同様の不安を感じているのであろうノノンが誠斗に声をかける。


「まぁそうかもね。あと、どれだけこうしていればいいのかわからないし、そもそも、あそこで裏口を守っている衛兵の記憶をどういじるとか具体的には聞けてないし」

「確かにあの人がこっちに来ちゃったら意味がないわね。まぁその時はちゃんと隠れるつもりだけど」

「ここでつかまったら元も子もないからね。それで? 隠れるってどこに?」

「そうね。私は今から鞄の中に入るから、誠斗はえっと、とりあえずそこら辺のゴミ箱の中とかどうかしら? 出きれば、生ゴミの入ってない……もっと言えば空の」

「それはまた難しい注文を付けるね。そこまでするならせめて、ゴミ箱を買ってからここに待機すればよかったかもね」


 よく漫画とかで敵から逃げるときにゴミ箱の中に隠れるような描写があるが、そういったのはごめんだ。というよりも、頭に生ごみが乗るような場所によく入れるなと思う。もっとも、人間切羽詰まれば何でもできるような気はするのだが……


「マコト。なんか動きがあったみたいよ」


 そんなことを考えていた誠斗の耳にノノンの声が届く。


 その声に促されるような形で宿屋の方を見てみると、宿屋の主人と裏口の衛兵が何やら話し込んでいるのが見えた。

 もしかしたら、メルラの魔法が発動しているのかもしれない。


 しばらくすると、衛兵は宿の裏口から離れ、宿屋の主人も裏口を開けたまま立ち去って行った。

 すると、それと入れ替わるような形でメルラがひょっこりと顔を出して、こっちへ来るようにと手招きをする。どうやら、作戦が成功したようだ。

 ゴミ箱の中に隠れるような状況に陥らなくてよかったとほっとしながらも、誠斗の中には若干の不安が残っていた。


 実はここまで含めて彼女の作戦なのではないかという不安だ。もちろん、彼女が一番大切であろう物を預けた上で、オリーブとの接触という自分の利益を確保するために動いているから、そんなことはしないだろうというのはわかっているつもりだ。


「ほら、マコト。早くいかないとチャンスを逃すわよ」

「えっあぁうん」


 しかし、そんな思考はノノンの声で遮られ、次の瞬間にはいつの間にかリュックから飛び出していた彼女に手を引かれて宿屋の裏口へ向けて走り出していた。

 その背中からは誠斗が感じていたような不安は一切感じられない。むしろ、なにかあったところで対処しきれるという自信さえ感じる。それはノノンにあって、誠斗にはないものなのかもしれない。


 そんなノノンに手を引かれて、宿屋の裏口から中に入ると、すぐにメルラと遭遇する。

 彼女は誠斗たちの姿を見るなり、すぐに階段の方へ向けて移動し始めた。


「ありがとう。今のところは滞りなく作戦は進行中かしら?」


 そんな彼女の背中にノノンが声をかける。


「大丈夫ですよ。念には念を入れていろいろと対策を講じていますので……もちろん、あなた方の裏切りの可能性も含めてですが」

「私たちが裏切る可能性なんて皆無に等しいと思うけれど? 私たちからすれば、この一連の流れがすべてあなたの策略で一網打尽にされる可能性の方が高いわけだし」

「なるほど、確かにそうかもしれないですね。でも、大丈夫ですよ。少なくとも、“黄金の片翼の翼(それ)”をあなた方が持っている間は裏切りませんので。念のために言っておくと、それは二つとない品ですから、複製品ということもございません。どうぞご安心を」

「二つとない品ね。ということは、初代からずっと受け継がれているわけ?」


 そんなに古いものには見えないけど。などと呟きながら、ノノンは誠斗の手元からイヤリングを取って眺め始める。


「そんなんじゃないですよ。それは新しい議員が就任するごとに作られるもので、本議会がその人にあったものを用意するんですよ……と、これ以上余計なことをしゃべらないようにこの話題はやめにしましょうか。カレン様あたりに目をつけられると厄介ですし」

「ここまでべらべらしゃべったうえでよく言えるわね。部外者の私でさえ、近日中にあなたが消えるんじゃないかって不安になるぐらいにはしゃべってるわよ」

「あらあら。それは本気で口をつぐまないといけないですね。目的が達成できないまま消されたくないので」


 目の前で繰り広げられるどこまで本気かわからない物騒な話を聞きながら、誠斗はちいさく息を吐く。


 おそらく、傍から見る限りはこんな物騒な会話をしているようには見えないだろうが、もしも誰かにこの会話を聞かれただろうするつもりなのだろうか? 個人的には面倒ごとまっしぐらな未来しか見えない。


「さてと、ちゃんと到着できたわね。この部屋にあなたが探している人がいるはずよ。外に出たりしてなければけど」

「まぁ事前連絡をしているわけではないのでその辺は承知していますよ。安心してください。というわけで、さっそく入らせていただきましょうか」


 メルラは会話を終えたのちにノックすらせずに扉を開けて中に入る。


「……誰ですかぁ?」


 そうなれば、当然。中にいた人物の反応も予想通りのものだ。


 誠斗たちはいきなり入っていってしまったメルラに続くような形で部屋に入る。


「おやおやぁこの失礼な客人はーマコトたちの客人ですかー?」

「えっと、ごめん。あのこの人は……」

「お初にお目にかかります。新メロ王国にて神殿の管理を担当しておりますメルラ・メロエッテでございます」


 誠斗が事情を説明するよりも前にメルラはオリーブの前に歩み出て、深々と頭を下げる。


「メルラ・メロエッテ……なるほどぉー禁術が使われた結果でも観察しに来たのですかー? そーれーとーも議会の差し金ですかー?」


 オリーブは誠斗が持っているイヤリングを横目で見ながらメルラの話に応じる。


「いえいえ、私は純粋にあなたと話がしたくて来たんですよ。まぁカレン様からの命令だという点が大きいのは事実ですが」

「カレンですかーなーがーれーてーきーにーはーシャルロッテ家の人間ですかー? 評議会を動かすとなるとーあの家の人間ぐらいですよねー?」

「残念ながらあなたのときとは時代が違うんですよ。私はカレン・シャララッテ書記長の指示で動いています。そして、サフラン・シャルロッテ議長代理はこの事実を把握していないということも付け加えておきます」

「そうですかぁーわーたーしーのー時はーマミがー絶大な権力を持っていたのですよー時代はー変わったというわけですねー」


 カレンは何やら面白い情報を聞いたと言わんばかりに顔をにやけさせる。


「おやおやぁもしかして、シャララッテ家が権力を持ち始めていてうれしいですか? そうなんですか?」

「クスクス。いえいえーそんなことあるわけじゃないですかーでーもー同じ話をしたらー悔しがるマミの姿ぐらいはー簡単に想像できますねー」


 二人の少々不気味な笑い声を聞きながら誠斗とノノン、そしてほぼほぼ存在が忘れ去られているココットはこの話は聞かない方がいいと判断して目をそらす。

 その後も二人はなぜか意気投合し、メルラも目的はつかめないまま時間だけが過ぎていった。

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