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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十章
169/324

百三十七駅目 メルラの提案

 カルロフォレストの中心部。

 日が昇り、徐々に騒がしくなり始めた町の一角に誠斗とマーガレット、メルラの姿があった。


 結局、あの場で倒れてしまったバートはメルラとノノンが適当な記憶を植え付けたうえで近くにあった診療所の前に放置しているのでそろそろ診療所の関係者に発見されて治療を受けているころだろう。

 そんなことをしておきながら平然とした顔をして大通りを闊歩するメルラとノノンを見て、背中に走るものを少々感じたが、ノノンが敵に情けをかけるとはあまり考えられないし、メルラもメルラで立場が立場だからそれぐらいのことは平然とやってのけてしまうということなのだろう。


「それにしても、案外あっさりと同行を許すのですね。もう少しばかり拒絶があるものだと思っていましたが」

「どうせ拒絶したところでついてくるんでしょう? そんなの三回目だから慣れっこよ」

「あぁ先の二人のことですか。お噂はかねがね」

「……全く、あなたたち議会のメンバーは人の動向を気持ち悪いぐらい把握しているのね」


 メルラの耳につけられている黄金の片翼の翼をかたどったイヤリングを見ながらノノンがため息をつく。


 その様子を一歩後ろに下がったところから見ていた誠斗もまた、小さく息を吐いた。


「あのさ、そのあたりは確かに大切かもしれないけれど、もっと直近の問題があることに気づかないの?」

「宿にどうやって入るか……でしょう? それならちゃんと考えがあるわ」


 誠斗の質問に答えながらノノンは再びメルラに視線を向ける。


「えっと……もしかして、私ですか?」

「そう。あなたよ。まさか、協力しないなんて言わないわよね」

「えぇまぁそうですけれど……具体的にはどのように?」

「単純よ。あなたの魔法を使うの。あなただったら、誰にも悟られずに宿屋の特定の部屋に行くことぐらいできるんじゃないの?」


 どうやら、ノノンはバートの探索と移動を手伝ってもらったという言葉から、そういったことができるのではないかと推測したようだ。

 確かにあの言葉をそのまま受け取れば、宿屋の二階の角部屋に誰にも気づかれずに侵入するということも可能ではないかと思えてくる。


「いや、普通に考えて無理だと思いますけど? それは、まぁカレン様の時間操作魔法とか使えばちょちょいとできちゃうかも知れませんけど、うちの一族の魔法と言えば死霊術ですからね。そら、基本的な魔法は使えますよ。移動速度を早くしたりとか、目標の居場所を探知したりだとか。でも、隠れて侵入となると、ちょっと手段は限られてきますね……例えば、入り口に立っている衛兵の記憶をいじって本来警備する場所のはずを誤認させる……とか。衛兵さえいなければ、何とかなるというのであればやりますよ。どうですか?」

「なるほど。あなたがどの程度の魔法が使えるのは大体察したわ。にしても、記憶を操作する魔法なんてそうそう使えないんじゃないの?」

「いえいえ、我々的には必須の魔法ですよ。特にカレン様みたいに特殊魔法が使えない場合にはですけれどね」


 ニコニコと笑いながらそんなことを言っているメルラであるが、普通に考えて恐ろしい内容の会話だ。どう考えても、少女たちがニコニコと笑みを浮かべながらする会話ではない。


「それで? ノノン。その魔法を使った場合はどのくらい勝算があるの?」


 これ以上、この会話を聞いているのはよくない気がしたので、誠斗が間に入るような形で会話を終わらせる。

 そのことにどういうわけかノノンが少し不満そうな表情を浮かべるが、これ以上大通りの真ん中で堂々と物騒な話をされても困るので気づかないふりをして、答えを促す。


「ノノン。どう思う?」

「……そうね。まぁ何とかなるとは思うわよ。全くのお手上げっていうわけじゃないわ」

「ならいいけれど……それにしても、日が昇ったとたんに急に人が増えたね。みんなの生活習慣がそうだからといわれれば簡単に納得できるかもしれないけれど、夜のあれを見ているとなんとも……」

「マコト。場所を考えて。誰かに聞かれたらどうするの?」

「えっあぁうん……ごめん」


 どの口がそれを言うのかといいたくなったが、ここで必要以上に騒ぎを起こす必要はないし、そもそも先ほどの発言が少々まずかったのは事実なので素直に忠告を受け入れる。


「さて、そんなことを言っている間に見えて来たね。宿屋。裏側に回る?」

「そうですね。裏の方が警備が手薄だったとするなら、そっちの方がいいですけれどね。どうせなら、私が真正面から堂々と入って手引きしましょうか?」

「手引きって……さすがに出会ったばかりの人にそこまで任せられないというかなんというか……」


 誠斗は遠回しに断りながらノノンに視線を送る。

 彼女も誠斗と同様に彼女を信用しすぎない方がいいと思っているのか、そのまま続けろと目配せをする。


「あの……まぁだから、二手に分かれたりとかそういったのはなしで……」

「……まぁ私が信頼されていないのはわかっていますけれど、少なくとも私は私の目的を達成するまではあなた方の味方ですよ。なんだったら、少しでも信頼されるような努力をしてみましょうか」


 言いながらメルラは自らの耳元に手を回し、黄金の片翼の翼をかたどったイヤリングを外して誠斗の方へと投げた。


「“それ”を預けます。私が裏切ったら、それをどうしようとも私は気にしませんので。それじゃ、裏口で待っていてください。扉を開けますから」


 誠斗がイヤリングを受け取ったのを確認したメルラはそのまま宿屋の方へと走って行ってしまう。

 その場に残された誠斗とノノンはその背中を呆然と見送った後に二人して、誠斗の手元に視線を落とす。


「……信用させるためとはいえ、黄金の片翼の翼(これ)を預けるとは……まぁこれを持っているとろくなことなさそうだし、さっさと裏口に回りましょうか」

「そうだね。ここまでやって、実は全部彼女の策略なんてことはないよね……たぶん」

「ないと思うわよ。あなたの手の中にあるものを見る限りはね」


 警戒は解かないながらも、ここまでして裏切ることはないだろうという判断のもと、誠斗とノノンは宿屋の裏口へと向かう。


「でも、少し気になるな。さっきまで話していた作戦の内容だったら、別にここまでして彼女が最初に入る必要なんてない気がするけど」

「……おそらく、彼女なりの事情があるんじゃないですか? 例えば、なにがなんでも私たちに信頼されたいとかそういった類のものも含めて」


 そんな風に会話を交わしながら、路地に入ろうとした瞬間、誠斗は背後から視線を感じ立ち止まる。


 そのまますぐに振り返ってみるが、そこにあったのは先ほどと変わらない騒がしさを増し始めた大通りだ。


「マコト。何やっているの?」

「えっあぁううん。なんでもないよ。すぐにいく」


 大通りを行く人々の中にこちらを見ているような人はいなかったので気のせいだったかもしれない。誠斗は先ほど感じた視線をそう結論付けて、ノノンとともに路地へと入っていった。

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