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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十章
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百三十五駅目 カルロフォレストの秘密

 話が終わったとカノンからきいた誠斗が部屋に入ったとき、応接室の中はなんとも言い難い重苦しい空気が漂っていた。というよりも、部屋から出てきたカノンの様子や、ノックをしたときに帰ってきたノノンの声のトーンからなんとなくは感じていたが、これは間違いなく二人の話がよくない方向に展開したのだろう。


 そうでなければ、今のこの状況について納得することができない。


「あの……ノノン」

「なに?」

「カノンと喧嘩でもした?」


 別段、このまま何も気づいていないふりをして話を始めてもよかったのかもしれないが、このままでは気になってしょうがないので、少し遠回りに事情を聞いてみる。


「喧嘩なんてしてないわ。ただ単に“話し合い”をしただけよ」


 いいながら、ノノンは目をそらす。

 その様子からしても、穏やかな話し合いではなかったようだ。


「話し合いね……まぁそういうことにしておくよ。それで? どうするの?」


 ただ、これ以上カノンとの話の内容を聞くのは無駄だろうと判断して、誠斗は早々に話題を切り替える。


「どうするって今後のこと?」

「他に何かある?」

「……意外と聞いてこないのね。前もそうだった気がするけれど」

「聞いて答えてくれるの?」


 誠斗の問いかけにノノンは静かに首を振る。


「だったら、ここで何があったのか尋問するよりも、調査結果がどうだとかそういう話をした方がいいでしょ? まぁカノンとの間に何があったのかっていう話は話したくないのなら、そのままでもいいし、いつか話せるときが来たら聞かせてもらうから。それでいい?」

「……うん。ありがとう」


 ノノンの言葉を聞いてから、誠斗は思考を切り替える。


 ノノンも似たようなことを考えていたのか、小さく深呼吸をした後に伸びをして、誠斗の目をまっすぐと見る。

 そんな彼女の目には先ほどまでの重い雰囲気はなく、小さく笑みすら浮かべていた。


「……さてと……さっそくだけど、カルロフォレストの状況について私なりの見解を述べてるわ。まず、カルロフォレストの木について……これは推定通りほぼほぼ人工のものね。特に外郭町に至っては普通の木を探す方が難しいわ。そのあたりのことを考慮して見ると、それなりに高度な魔法を使っているみたい。どうやら、この町は相当優秀な術者を雇ったみたいね。もしくはエルフとかがなにかしらの理由で手を貸しているっていう可能性もあるかも知れないわ。現にこの支部だって町の中に堂々と存在しているわけだし……」

「優秀な術者ね……それって結構いるものなのかな?」

「……そうね。いるかいないかで言えばあまりいないわ。木の一本や二本ならともかく、これだけの数となるとさすがにね……相当の時間をかけたのかと思ったけれど、外郭町と中央町でそれぞれ見た木の樹齢は似たようなものだったし、これだけ奇麗にそろって生えているあたり、大体一年ぐらいの期間で一気にやったとしか思えないわ。それに、なんていうかそれ以外の違和感もあるのよね……具体的にどうかと聞かれると、ちょっと迷うけれど……木にかけられている魔法の構成が珍しかったからかしら?」


 言いながらノノンは天井を仰ぐ。

 誠斗も彼女と同様に天井に取り付けられているファンを見ながら思考を巡らせる。

 大体、同じぐらいの樹齢の人工樹が並ぶ町……なぜ、わざわざそんなものを作ったのだろうか? 外郭町を含めて住民に家を与えようというのなら、普通の家でもいいはずだ。確かに家が木の上にある分、地上は開いているのだが、そこに特別何かあるわけではなさそうだし、住民が使うための道はちゃんと別で用意されている。なら、普通の家でもいいはずだ。


「……ねぇマコト。もしかして、ツリーハウスが問題じゃなくて、ツリーハウスを作ることによって空いた地面を使って何かをしようとしているんじゃない?」

「空いたって言っても、木の下も個人の土地扱いみたいだし、そんなに意味はないんじゃないの?」

「そういう意味じゃなくて……なんというか、魔法陣みたいにそこに立ち入らなくても地面があるだけでいいとかね……ん? 魔法陣?」


 魔法陣という言葉で何かの引っ掛かりを覚えたのか、ノノンは視線を下に落とす。


「ノノン?」

「……魔法陣。そうか魔法陣!」

「魔法陣?」

「そうよ! 魔法陣よ! マコト、確かめに行くわよ」


 何かに気づいたらしいノノンはそのまま誠斗の手を引っ張って部屋を飛び出す。


 そのままエルフ商会の建物を出ると、ノノンは一気に上空へとむけて飛び立った。


「ちょっと! そろそろ説明してくれる?」


 急上昇によって生じた風に耐えながら誠斗はノノンに問いかける。


「魔法陣だよ! そもそも、木の様子を見る限り、わざわざ私たちを監視するほどの何かは見当たらない。でも、もしも何かしらの理由で町中の地面を使った魔法陣を書いているとしたら? それなら、その何かを隠していても納得が行く気がするの」

「いや、でもそんなことって!」

「可能よ。それにそれなら、外郭町の人があまりにもいなかったのにも理由がつく。恐らくだけど、人口に対して住居が過剰になっているのよ。それこそ、中央町に収まるぐらいにはね。あとは外の訪問者の目をごまかすために住居の周りに道具を置いて生活感があるように演出し、何かしら理由で町の人たちを昼間外郭町に出るように仕向ければ、“人口の多い大きな町”が出来上がるっていうわけ。どう? 私の推理」

「なるほどね。それで上空から確かめてみようっていうわけ?」

「そういうこと、そろそろ雲の上に出るよ!」


 彼女の言葉通り、誠斗の目の前にはいつの間にか雲が迫っていた。

 普通に考えれば、そんな高度にいては少しぐらいは寒く感じるのではないかと思うのだが、どういうわけかそういった感覚はない。むしろ、快適に感じるぐらいだ。

 この世界の大気がそうなっているのか、はたまたノノンが何かをしたのか、自分がそう思っているだけで実際はそんなことはないのかわからないが、問題がないのなら特段気にする必要はないだろう。


「さて、ここぐらいまでくれば……」


 そこまで来ると、ノノンは動きを止めて体を反転させる。


 それと同時に誠斗の視界も地上の方へと向いた。


「……これは」

「魔法陣。まさしくそうね……それも、地上の灯りで線を引いている……ある程度予想はしていたけれど、まさか本当に街を包み込むような魔法陣があったなんて……」


 カルロフォレストの外周を囲むように作られている円形の外壁の上に置かれている灯りの中に木々の間にある大通りや一部の路地に至るまで等間隔で置いてある街燈が複雑な模様を形成している。その風景はまさしく魔法陣と呼ぶにふさわしいだろう。


「でもさ、これって町の灯りでそういう形になっているんだよね? だったら、別にツリーハウスを作っているのはと関係ないんじゃないの?」

「……いえ、関係あるわ。魔法陣を構成する際、基本中の基本として魔法陣の上に媒介となるもの以外をなるべく置かないという原則があるの。例えば、マーガレットの家がツリーハウスになっているのも自身の家の周りに魔法で結界を作る際に魔法陣の上に余分なものが置かれないようにするという意味があるわ。魔法陣が書いてある地面から住居をある程度離せば、魔法を使う際に邪魔にならないからね」

「つまり、ツリーハウスにしているのはなるべく、余分なものを置きたくないから?」

「そういうこと。まぁそういった媒介を必要としない魔法の場合はそういったことは気にしなくてもいいんだけど、今回誰かさんが使おうとしている魔法はそういった媒介を必要とする魔法ということが推測できるわ。おそらく、彼らとしてはツリーハウスに糸口を見つけてこれを見つけられたくなかった。だから、私たちにこうした態度をとったのでしょうね。と、そんな長話よりも魔法陣の分析を始めましょうか。マコト、もうすこし空にいるけれど我慢しててね」


 そういうと、ノノンは町の周りを旋回するような形でだんだんと高度を下げていく。

 そんなことをしていて目立たないのかと聞きたくなるが、そのあたりについては何かしら策を練っているのだろう。


 そう考えながら、誠斗は幾何学模様を体現する街並みに視線を向けていた。

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