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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
165/324

百三十四駅目 カルロフォレストの中央町へ

 外郭町の調査を終え、二人は中央町へと向かっていた。

 あの小太りの男との遭遇のあと、特に問題は発生せず……というか、人と会うことすらなく誠斗とノノンは順調に調査を進めていた。


「……進めやすいのはいいことだけど、これはちょっと不気味ね……」

「まぁ確かにね。というか、こんな状況だとバードが近くにいたらすぐに追いかけてくるんじゃないの? ほかに人影がいないだろうから、二人組の人影を見たらすぐにボクたちだって思うかもしれないし」

「それはそうね……というか、なんで本当に人がいないのかしら?」

「さぁ? こっちが知りたいよ……と、そろそろ中央町に入るよ」


 小声で会話をしながら通りを歩いていると、ようやく中央町の入り口の門が見えてきた。

 念のためにいったん物陰に入って様子を確認するが、人気はなく、監視をしている様子もない。


「……なんだか拍子抜けね。あの時点で見つかったから、もっといろいろとやってくるかと思ったんだけど……」

「まぁ相手も一人だけだってことなんじゃない? それとも、最後は宿に戻ってくると踏んで近くで待ち伏せしているかもしれないし」

「それもそうね……正直な話、何もなく終わってくれるのが一番いいのだけど……」


 背後のリュックでノノンが小さくため息をつく。

 相手としては誠斗たちが宿に戻ってくるというのは考えるまでもないことだろう。なら、下手に探し回るよりは待ち伏せをして不都合な情報を知っているようなら口封じをするというぐらいに考えていてもおかしくはない。

 その場合、そうしている間に誰かにその情報を伝えるという可能性も存在するのだが、わざわざ歓迎と称して出てきた当たり、サフランあたりから誠斗に関する情報はある程度聞いているだろうからそれはないと踏んでいるのだろう。


「さてと……この門をくぐれば中央町って……」


 中央町の入り口となっている門をくぐり、その向こうの風景を見た瞬間、誠斗は言葉を失った。

 別に街がひどい状態になっていただとか、美しい風景があったとかそういうことではない。


 先ほどまでの外郭町の静けさが嘘のように中央町は活気にあふれていたのだ。


 夜も結構遅い時間だというのに大通りにはいくつもの露店が出ていて、人々は食料品や衣料品を売り買いしている。その中には子供の姿まで見受けられた。

 よくよく考えて見れば、宿の窓から外を見たときも人は多くいたし、本格的に人の姿を見なくなったタイミングといえば外郭町に降り立った時からだ。


「この差は何かありそうね……」


 ノノンがぽつりとつぶやく。


「いや、ないという方がおかしいわよ……とにかく、なるべく目立たないように路地裏に入りましょう」


 中央町と外郭町の差に驚きつつも、ノノンは冷静に行動する。

 今回の目的はあくまでも木の調査にある。目の前の風景について考え込んでいるような時間は少々もったいない。


 誠斗はノノンの言葉を受けて適当な路地に入るが、それでも人影は消えない。大通りほどではないにしろ、そこそこ人が往来している。


「……どうなっているのかしら? この町は」

「わからない。ただ、これだけ差があると、何か作為的なものを感じるかな……」

「偶然ね。私もよ」


 路地裏に入り、人の影が再びなくなれば中央町の大通りに人が集まっているだけだと納得できる。

 しかし、現実には路地裏にも多いとは言えないが人がいて、食料品が入った袋を持っていたり、道端で近所の人と会話を楽しんでいたりする。

 それは少し治安のいい街ならよく見られる風景なのだが、先ほどの外郭町の状況を加味すると異常な風景にも映る。


「にしても、これはこれでやりづらいわね……いっそのこと、これまでの調査結果で結論を導き出してみようかしら」

「というか、推論でいいから聞かせてもらってもいい? この場でっていうなら適当な店にでも入ってさ」

「まぁそれもそうね……といっても、そんな話ができるような店なんて……」

「あるよ。そう。、存在している」


 ないだろうとノノンが言い切る前に背後から声が聞こえてきた。


「久しぶりだねーこんなところで会うなんて、そう出会っちゃった」


 ほとんど条件反射的に振り向いた。誠斗の視界に映ったのはローブを深々とかぶり、辛うじて三日月のような形に歪んでいる口元だけが見えている小さな子供だだ。

 相手の背が低いということもあって、身体的な特徴からその人物を特定することはできなかったが、その少し特徴のある口調と高めの声でそれが誰か特定することができた。


「……カノンか。なんで森の外(ここ)にいるの? ボクの記憶が正しければ、あの森から結構離れているはずなんだけど」

「そっちこそなにを言っているのさ。そう。言っちゃってるの? カルロフォレスト(このまち)は旧妖精国の一部だよ。そう。一部。シャルロの森と同じような仕組みがあってもおかしくはないでしょ? そう。おかしくはないよね?」

「……そういうことか」


 すっかりと忘れていたのだが、人をテレポートさせることができないと誰もが口にするこの世界において、妖精に限ってはシャルロの森に多数あるとあるゲートをくぐると、シャルロの森の中心部にあたるセントラル・エリアに入ることができるといっていた。

 最も、そのゲートは妖精と妖精に同行している者しか使えないそうなので、誠斗はノノンやカノンといった妖精たちと一緒に行動しない限りは使えないのだが、冷静になって考えてみればあれは、瞬間移動のためのゲートとみることもできるのかもしれない。


 もっとも、それだとこの世の中にテレポートの技術は存在しないという前提が崩壊してしまうのだが、そのあたりについては気にしたら負けというやつなのかもしれない。

 ともかく、あまりにも都合がよすぎるタイミングで登場した彼女に背中のリュックに納まっているノノンは動揺が隠せないのか、何やらごそごそと動いているのがわかる。


「ノノンはどこにいるの? うん。見当たらないね……どうやって話していたの? そう。話しているの?」


 そんなノノンに対し、カノンは彼女の居場所に気づいていなさそうなそぶりを見せつつもローブの下から誠斗のリュックに視線を送る。おそらく、彼女の居場所について大方の見当がついているのだろう。


「わかったよ。そのお店に案内してもらってもいい?」

「さすがマコト。わかっているね。そう。よくわかってる」


 フードを脱いだカノンは満面の笑みを浮かべてから踵を返して歩き始める。


「ほらほらついてきて。そうついてきちゃて。もちろんノノンもね。そうノノンも」


 そんな風に声をかけながら歩いていくカノンについていくような形で歩いていく。


 そもそも、なぜ大妖精たる彼女がここにいるのかだとか、何が目的で接触を図ってきたのかなどなど疑問は尽きないが、そのあたりのことについては目的地に到着してからきいた方がいいだろう。


 誠斗は周りへの警戒を怠らないように気を付けつつ、カノンの誘導で路地裏を進んでいった。

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