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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
164/324

百三十三駅目 ツリーハウス調査開始

 突如として誠斗の視界に入った人物は真っすぐとこちらへと向かってくる。


「ちょっと、ノノン。人が来てるって」


 集中しすぎて聞こえていないのかもしれない。

 そう思った誠斗はもう一度ノノンに話しかける。


「……もうちょっとで終わるから。見られないように何とかごまかして」

「えっごまかすって……」


 突然、ごまかせなどと言われても困ってしまう。

 幸いにも人影自体はまだ遠くにあるし、走っているわけでもなさそうだから今すぐに対処をしなければいけないということもないだろうが、相手がこちらに向かってきている以上、何もしないというわけにはいかないだろう。


「どのくらい足止めすればいい?」

「……十分ぐらい。終わったら、マコトの腕をつかむわ」

「わかった」


 小さな声で確認を済ませてから誠斗は歩いてくる人物の方へと向かう。

 数歩歩くと、近づいてきている人物が小太りの男であり、バードではないということが分かった。


「あの、すいません」


 そこまで確認したうえで誠斗はその男に話しかける。


「ん? 俺に話しかけているのか?」


 突然、話しかけられたからか少し困惑している男性に対して、誠斗は手元の地図を広げながら近づいていく。


「あの、私たち旅をしているものなんですけれども、お恥ずかしい話この町への到着がこんな時間になってしまいまして……宿を探して歩き回っていたのですが、結局迷ってこんなところに来てしまいまして……この近くですぐに泊まれるような宿って心当たりありますか? 最悪、この路地から抜けられるだけでもいいのですけれど」

「えっあぁそういうことか……しかし、宿を探して大通りから外れるとはずいぶんと方向音痴な旅人だな」

「いやいや、本当に恥ずかしい限りですよ。やはり、下調べなしで知らない町に来るべきではないですね」


 適当に話を合わせながら誠斗は夢をかなえるために故郷を飛び出した旅人を演じる。


「あっちで木に手をついているのは連れかい?」

「えっ? あぁそうなんですよ。ちょっと、疲れているみたいで……」

「あぁそうか。あんな小さな子連れていくんなら、余計に下調べをしないと……ほら、この近くの宿の場所を地図に書いたからな」

「ありがとうございます」


 男から宿屋の場所が書かれた地図を受け取ったタイミングでノノンがやってきて誠斗の服を引っ張る。どうやら、ちょうどいい時間だったようだ。


「本当にありがとうございました」


 誠斗は男にもう一度礼を言ってからその場を立ち去る。


 しばらく、ちらちらと男の様子を見ていたノノンは彼の姿が見えなくなった途端に大きく息を吐いた。


「全く……まさか話しかけに行くとは思わなかったわ……」

「不自然にならないようにするにはあれが一番だと思ったからね。ただ、何度も使える手じゃないっていうのは確かだけど……それで? 何かわかった?」

「えぇ。ただ、確信を得る意味でも場所を変えていくつか見てみたいわね。そういうわけだから、ここから少し離れた場所で次の木を探しましょうか」

「了解。とりあえず、さっきと同じような木を探せばいいんだよね?」

「もちろん」


 そんな会話を交わした後、誠斗は再び周りのツリーハウスの様子を確認し始める。


「それにしても、結構住民が多いんだね。見る限り空き家は少ないみたいだし」

「……そうね。シャルロシティでさえ、結構空き家があったっていうのにこの町は恐ろしいほどにそれがないわ。この調査方法を考えたときはもう少し簡単にいくと思っていたんだけど……政策の違いとかで町の様子ってこうも変わるものなのかしら?」


 ノノンが口にした疑問は誠斗も感じていることだ。

 これまで見た町は表通りはきらびやかでも裏通りに入れば、物騒だし、それなりに空き家もあったように見えた。

 しかし、この町は違う。どの家を見ても灯りがともっているし、そうでなくても表札がかかっていたり、生活用品が玄関先においてあったりと生活感が全くない家というのがほとんど存在しない。なんだかんだ言いつつも空き家なんて簡単に見つかるだろうと高をくくっていたのだが、思ったよりも空き家を探すのは難しいらしい。


「どうだろうね? 周りの状況とかもよって変わるだろうから、何とも言えないかな……というかさ、どのくらいいどうしたらいいの?」

「……そうね。現在地が確か、南外郭町の西側だから、東側に行きましょうか。そのあとは北外郭町がそれぞれ東西一本ずつ、中央町で一本ぐらいでいいわ。このぐらいにしておかないと見つかりそうだし」

「それぐらいで大丈夫なの?」

「大丈夫も何も必要以上のリスクは犯したくないもの。ほら、時間もないんだから急ぐわよ」


 ノノンが入ったリュックを背負いながら誠斗は手に持った地図を頼りにノノンが指定する地区を目指す。


 周りに木が多いせいか、あたりはシンと静まり返り、心なしか町の外にいたときよりも涼しく感じる。


「それにしても、人影がないよね……家の中に入るみたいだけど」

「……そうね。路地裏とはいえ、出会ったのはあの親切な男の人とバードぐらい……中心町以外はこんなものなのかしらね?」


 おそらく、ノノンは夜になってもそれなりに人どおりがあってにぎやかだった中心町を思い浮かべながらそう言っているのだろう。

 実際、外郭町に出た途端にあの活気が見えなくなったというのは事実だし、そもそもこの町に到着したときの雰囲気とはまるで逆に見える。


 いくら夜……それも路地裏だからといってこれほどまでの変化というのはあり得るのだろうか?


 一瞬、そんな考えがよぎるが、すぐに時間も時間だからこんなものかもしれないと考えを改める。そもそも、そんなことを気にしだしたら、きりがなくなってしまう。知らない町なのだから、その町の文化というか雰囲気がそうなっているのだろうととりあえず納得する。


 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか大通りに出た。


 大通りもまた、路地裏と同様に人影が全くないのだが、誠斗はそのまま目的地を目指して歩き続ける。


「まぁボクたちはこの町について詳しいわけじゃないんだし、意外と夜は出歩かないとかそういう文化でもあるんじゃないの?」

「……そのぐらいだったら別にいいんだけどね……」

「そのぐらいだったらって……もしかして、木のことと何か関係ありそうなの?」

「……わからないわ。単なる文化かも知れないしね……でも、路地裏だけならともかく、大通りに出てもここまで静まり返ると、ちょっと気になるでしょ?」

「まぁそうだよね……」


 路地裏ならまだしも、大通りに出ても人影はなかった。

 これにより、路地裏から感じていた違和感が徐々に大きくなっていく。


 祖の違和感の正体をしっかりとつかみきれないまま、誠斗とノノンは大通りから再び路地へと入っていった。

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