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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
162/324

百三十一駅目 ツリーハウスの宿での作戦会議(後編)

 自分たちが泊まっている客室を出てすぐ隣。

 ココットとオリーブが泊まっている部屋にノノンと誠斗の姿があった。


 本来、この部屋にいるはずの二人は今、一回の食堂で食事中である。


 そんな中、なぜこの二人がここにいるのかといえば、これから宿を脱出するための算段を実行するからに他ならない。

 作戦の概要としては、まずはオリーブとココットが食事を取りに食堂に行き、普通に食事をとる。そのとき、ノノンが体調を崩し、誠斗が看病をしているからあとで誠斗たちの部屋まで二人の分をもっていくと申し出る。

 その時、宿屋の主人に伝染病の可能性もあるから部屋には近づかない方がいいと耳打ちすることも忘れない。これによって、部屋に人が入るということを防ぐことができる。ただし、必要以上の混乱を避けるためある程度時間が経ったら、医者の勘違いでただの風邪だったと申告してもらう予定だ。


「というわけで、作戦の最終段階についてちゃんと話を詰めようか……」


 とりあえず、二人には状況を鑑みたうえで不自然では程度にゆっくりと食事をしてもらうとして、先ほど宿の中をこっそりと探索して集めた情報をもとに最終的な作戦を練り始める。


「ノノン。監視の状況は?」


 誠斗はまず最初に作戦を遂行する上で一番重要なことを尋ねる。


「ん? さっき見た限りだと、正面玄関に三人、あとは各出入口に一人ずつ……というか、今回はあえて正面突破をするわけだから、この情報いらないんじゃないの?」

「それでもさ、念には念をって言うでしょ? もしも、表から出られなかったら、裏から出るわけだし」

「……もっとも、裏から出る時点で作戦は八割がた失敗だけどね。まぁいいわ。とりあえず、そういうことにしておきましょうか。それで? 宿を出て少し離れたところまで移動する方法までは考えているけれど、そのあとはどうする気? 決行までもうちょっと時間があるからちゃんと考えておかないと」


 言いながらノノンは深くため息をつく。

 もしかしたら、今回のことについて、付きまとうリスクについて思い当っているのかもしれない。


 そもそも、今回の作戦に伴う危険というのは本来なら背負うべきではないリスクだ。そもそも、この町の秘密とやらを暴いたところで誰かが得するわけではないだろうし、下手をすれば鉄道計画に影響するかもしれない。


 それでも、誠斗としては鉄道を通す街に関しての不安はできる限りなくしたいというのは正直なところだ。


 この世界において、このぐらいの距離の旅などそう簡単にはできないし、調査できることはちゃんと事前に調べ上げておきたい。それに、通した先で発生した問題で鉄道がすぐにすたれるようなことは絶対に会ってはならないという思いが誠斗の原動力になっている節がある。なので、今回感じた不安はできる限り早く解消したいというのが本音だ。


 なので、必要な調査というのは必然と決まってくる。

 この町が隠しているであろう何かでなおかつ鉄道建設に何かしらの影響を及ぼす可能性があるもの……ここまで考えれば選択肢は一つになったも同然だ。


 誠斗はそこまで思考を固めた後に、小さく深呼吸をしてから口を開く。


「そうだね。とりあえずは町の木々の調査はしてみたいな。もちろん、ノノンの力を借りることになるけれどいいよね?」

「えぇいいわ。でも、それなりの相手が出てきているから、これだけやって何もなかったですはなしよ。まぁもっとも、この調査に夢中になりすぎて、本来の目的を忘れないようにだけは気を付けないとね」

「わかってるよ。鉄道の話もすっかりと停滞したままだから、そろそろけりをつけないといけないっていうことも含めてね……さてと、そろそろ作戦開始時間みたいだし……詳しい調査方法は実際に脱出してから考えましょうか」


 ノノンは横目で隣の部屋に視線を送りながらそういった。

 どうやら、隣の部屋に食事を終えた二人が戻ってきたようだ。


「それじゃさっそく作戦開始。宿屋の主人に見つかったらおしまいだから、気を引き締めていきましょう」

「そうだね。それじゃさっそく行こうか」


 最終的に作戦を実行するのかという確認もかねて、二人はお互いに小さくうなづきあう。

 そのあと、まずノノンが部屋の扉をなるべく音が出ないように開けて外に出た。


「マコト。人はいないわ。出てきて」


 彼女の声に誘導されるような形で誠斗はゆっくりと部屋の外に出た。

 それなりに遅い時間なので廊下に人の姿はなく、これまでにない類の緊張感もあるせいか、自分たちの足音が嫌に大きく感じてしまう。


「マコト。大丈夫?」


 そんな誠斗の緊張感を感じ取ったのか、前を歩くノノンが消え入りそうなぐらい小さな声で誠斗に声をかける。


「大丈夫だよ。それよりも、もうすぐ階段だから、例の魔法使ってもらってもいい?」

「えぇ。わかったわ……でも、効果は」

「十分でしょ? 大丈夫。それぐらいあれば、宿からある程度離れられると思うから」

「えぇそうね。でも、私の魔法はあくまで視覚に関する認識阻害だから、音を立てすぎないように気を付けてね」


 ノノンはどこからともなく小さな札を取り出して、それを掲げる。

 ノノン曰く、彼女が今から使う魔法はシャルロの森の中央部にあるセントラル・エリアを隠すために使っている認識阻害魔法の超縮小版とでもいうべきものだ。


 魔法の効果が及ぶ範囲はノノンの周囲のみで時間も十分だけなのだが、周りの人間から自分たちの姿を見られないようにできるという利点がある。ただし、先ほどノノンが注意した通り音は消せないので、慎重に行動しなければならないことには変わりないのだが……


「マコト。発動したわ」

「了解」


 そんなことを考えている間に魔法の構築が終わったらしい。

 誠斗は“目の前の何もない空間”に手を差し出す。すると、その直後に誰かにつかまれるような感覚があり、その感覚を頼りに“目の前にいるであろうノノン”を抱き上げる。


「私の姿見える?」


 誠斗の腕の中でノノンが問いかける。


「大丈夫。見えるようになったよ」

「そう。だったら、問題ないわね。さっそく、宿の出口に向かって移動しましょうか」

「わかってるよ」


 誠斗はそのまま認識阻害魔法の効力の範囲外に出ないようにノノンをしっかりと抱き寄せて階段を下りる。

 階段を下りると、すぐに受付で少なくない数の人が行きかっているが、誰も誠斗たちの方を見ていない。


 関心を持たれていないだけなのではないかと一瞬不安になるが、その不安を払しょくするためにわざわざノノンが少し離れたところで魔法を使ってくれたことを思い出し、そのまま一番近い出口である正面玄関へと向かう。


 見張りの兵士が目を光らせているので思わず身構えてしまうが、やはりこちらの様子には気づかないのでそのまま目の前を堂々と通過する。


 宿を出た後はなるべく人にぶつからないように宿から離れ、適当な路地に入りノノンを下ろした。


「……十分経過。これでしばらくはこの魔法使えないわね……」


 間もなくして、誠斗の目の前に姿を現したノノンがそんなことをつぶやいた。


 なんでもこの魔法、かなりの魔力を消費するらしく一日一度までしか使えないらしい。

 なので、宿に帰るときは別の手段を使って中に入るか、ココットたちに翌日まで頑張ってもらい、認識阻害魔法を使って侵入するかのいずれかである。


「さてと、それじゃさっそく行こうか」


 誠斗は目の前から聞こえてくるノノンの声で思考をいったん中断させる。


 戻るのを考えるもの大事だが、この場からなるべく早く離れてちゃんと調査をするということも大切だ。


「うん。とりあえず、この宿から離れた場所にある木を適当にいくつか見てみようか」


 誠斗はノノンにそういった後、彼女と並んで木々の間に構築されている路地の奥の方へと歩みを進めていった。

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