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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
161/324

百三十駅目 ツリーハウスの宿での作戦会議(前編)

 カルロフォレストの宿に到着してから約一時間。

 宿の中を探索していたというノノンを部屋に迎え入れ、ボゥと窓の外を眺める。


 宿の前にある通りはたくさんの人々であふれていて、そのにぎやかさはシャルロシティのそれに近い。


「これがほとんど作りものねぇ……」


 一時間様子を観察し続けた上での感想を誠斗が述べる。

 風が吹けば枝はそれに従ってなびき、木の葉ががさがさと音を立て、落葉し、空を舞って地面に落ちる。先ほど、窓のすぐ下の枝には雀のような小さな鳥が集団で止まっていたし、よく観察してみると、そのすぐ近くで小さな虫が葉を食べているのが見えた。


 光合成をしているかどうかという点については、人間である誠斗には判別できないが、総合的な感想として、多少の違和感がありながらもこの町の木は自然のものと大差ないように見える。


「なに? あんなこと言っておきながら信じきっていないの?」

「そういうわけじゃないんだけどさ、なんだろう? どうも確証的なものがつかめないというか、なんというか……」

「そういうことか……まぁ仕方ないかもしれないわね。確かに実感できないことを言われても、それを信じられないというのは誰しもあり得るわけだし……」


 ノノンはそういいながら小さくため息をつく。

 そして、そのまま誠斗のすぐ横に来て、窓枠に肘をのせた。


「それでも、私は言い切るわよ。この町の自然は作られたもの。人の手によってね……まさに人間の傲慢の塊のような町ね」

「魔法があれば何でもできる……そう思い込んでいるとでも言いたいの?」

「えぇそうよ。私は外のことはよく知らないけれど、あるお方に言わせれば亜人追放令が出されて、本当に亜人を追い出せてしまったあたりからだんだんとおかしくなっていってしまったのね。わざわざほかの種族の力を借りなくても、人間は何でもできる。こんな町を造ることができるし、海に巨大船を浮かべて陸路でつながっていないところに移動できる。ドラゴンの調教さえちゃんとすれば、空を飛ぶことだって可能だ……大体、こんな具合にね。何とも悲しいことね……」


 窓から入ってくる風が、一瞬だけノノンの髪をなびかせる。

 その瞬間、マコトの視線に入ったのは何ともつまらなそうな表情を浮かべたノノンの顔で、その表情は彼女がこの話題に対して、ほぼほぼ興味を示していないという証拠に他ならない。


 鉄道による陸路の発達は、そういった傾向を強めてしまうのではないか……そんな言葉がのど元まで出かけていた誠斗はその言葉を急いで飲み込む。

 ノノンはこれ以上この話題を引き延ばすつもりはないだろうし、そもそもここで鉄道の存在を否定されたところでシャルロシャラ間の鉄道の開通に力を注ぐという方向性については変えるつもりはない。


「とにかく、ノノンの話を信じないっていうわけじゃないよ」

「……よくそんな言葉が出るものね。あなた。まぁいいわ。明日、本格的な調査をすれば何かしら出てくるんじゃないかしら?」


 そういった後、ノノンは窓枠から離れる。


 先ほどの表情、実は興味がないのではなくて不機嫌だったということではないだろうか? と思ってしまうほど、不満そうな口調と態度を残して、ノノンはそのままベッドに寝転がる。


 どうやら、選択肢を間違ったらしい。


 誠斗は小さくため息をついてから窓の真下に当たる位置に視線を落とす。

 そこにある風景はこれまで同様に活気が溢れているのだが、その中で三人ほどの男が宿屋の前で陣取っているのが見えた。

 門番と同じような格好をしているあたり、衛兵の類だと思うのだが、彼らがそこにいる理由は客人である誠斗たちの警護だろう。もっとも、それは名ばかりで勝手に宿から出られないために監視をしていると見た方が正しいのかもしれないが……


「まったく、不便なところに来たものだよね……」


 こうした風景を見ていると、確証は持てないながらもノノンが言っていることは本当なのではないかと思えてくる。

 要は見られたくないモノがあるから、こうして監視しているわけであって、その見られたくないモノというのがノノンが言ってたような人工の木が多数を占めている証拠であったり、この町の裏側的な何かだったりするのだろう。もしかしたら、表面上鉄道に関する調査をするといっているだけのスパイだと思われている可能性すらある。


「……さて、どうしたものかな……」


 こんな風に監視が付いているようでは、気分が悪くして仕方がない。


「……脱走するつもりだったら無駄よ。表の入り口は見ての通り。裏口もすべて固められているわ。ほかの宿泊客もおそらく一般人に扮した監視員ね。まったく、私たちはいつから独裁国家に迷い込んだのかしら……」


 誠斗のつぶやきの裏に隠された言葉の意味を読み取ったのか、ベッドで伏せていたノノンが顔だけお子越して返答する。

 その表情は相変わらず不機嫌なのだが……


「なるほど。つまり、さっき小一時間ほど部屋を出たのはそれを確かめるためだったっていうこと?」

「……正解。私としてはこうも四六時中監視が付いているっていうのは不快でならないの。妖精っていうのは他の種族なんて関係なく、四六時中自由でなんというか、何にも縛られない種族なのよ! まぁ最も、大妖精が上で妖精が下。大妖精のトップにはカノン様とシノン様がいるっていう最低限の構造は保たれているけれどね。まぁとにかく、私たちはこうして人間程度に監視されるわけにはいかないのよ」

「えっ……あぁうん。そうなんだ……」


 ここで自分も人間なんだけど。なんて言い出したら、とんでもなく気まずい空気になるだろう。


 なので誠斗はそのことに関しては黙って聞きが流す。


「あぁでも、誠斗やココットは別よ。二人にはいろいろと助けてもらっているし、何よりも私の行動をそんなに制限しないでしょ? まぁサフランが私につけたあれの効力があるから、全くそうでないとは言い切れないけれど……」

「そういう風に言ってくれるならありがたいよ。ボクとしては、ノノンの行動に必要以上の制限がかかっていないのか心配になる時があるからさ」

「そう。心配してくれてありがとう……とまぁここまで来たら、あとはどうやってあの見張りを蹴散らして脱出するか考えましょうか。隣の部屋の面々も交えてね」


 再び窓のそばまでやってきて、外の見張り役を見ながらノノンは不敵な笑みを浮かべる。


「というわけで移動しましょう。どういうわけか、宿の中には見張りがいないみたいだし……もちろん、宿の中にも盗聴だとかそういった類の魔法は仕掛けられていないわ。というわけで行きましょう」


 どういうわけか、急激に機嫌をよくしたノノンはそのまま部屋から出ていく。

 誠斗は見張りの兵士たちを一瞥した後に彼女の後に続くような形で部屋から出ていった。

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