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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
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百二十九駅目 不自然な木

 バードの案内で誠斗たちは中央町にある一軒の宿屋に到着した。

 当初こそ何かあるのではないかと勘ぐっていた面々も旅の疲れも助かって、ノノンと誠斗は割り当てられた部屋のベッドで寝転がっている。


「それにしても……これは何とかならないのかな……」


 バードは二人分の部屋しかとっていないといっていた。ここまではいい。出発当初よりも人数が増えているなんて彼が把握しているはずないからだ。

 それまでだったら、別に布団をもう一組ずつ用意してくれればよかったのだが、宿屋の主人は満室だからそれはできないと言い出した。


 問題はそこからだ。ココットとオリーブは早々に二人で片方の部屋に入っていってしまい、結果的にノノンと誠斗の二人で一つの部屋を使うことになってしまった。

 誠斗としては男女で分けた方がいいのではないかと思ったのだが、一人部屋を三人で使うというのも狭すぎるし、これまでの流れからノノンと誠斗なら一緒の部屋でも問題ないという結論に至ったのだろう。


 ただ、問題はそこからだ。


 部屋の中の構造はいたってシンプルでベッドと椅子が一脚、机が一つといった構造になっている。さらに言えば、部屋自体あまり広くないのでそれに比例するようにベッドも通常よりもやや小さいものを採用しているようだ。


 つまり、何が言いたいかといえば、このベッドで二人で寝るというのはかなり無理がある。


 それこそ密着でもしない限り二人も入れないだろう。幸いにもバードがそのあたりのことを何とかするといってくれたので本当にそんな風にして寝ることはないと思うのだが、それまでの間宿から離れることができなくなってしまった。


 誠斗たちとしては早々に町の様子を見て、出発したいのだが、バードは明日一日をかけて町を見た後、その次の日に出発してほしいといっているのだ。

 もちろん、カルロフォレストは鉄道開通後に重要な拠点になると思われるので調査の手を抜くつもりはないのだが、それでもマーガレットを早く助けに行かなければならないという焦りがどうしても心底にこべりついている。


「ねぇマコト。マコトはどう思う? この町のこと……」


 ベッドに腰かけながら考え込んでいると、ベッドに寝転んでいるノノンがそんなことを言い出した。


 すっかりと彼女は寝ているものだと思い込んでいた誠斗は少し驚きながらも誠斗はそれを表に出さないように返答する。


「どう思うってどういうこと?」

「深い意味はないわ。ただ単にこの町のことをどう思ったのかって聞いているの」

「どう思ったのか……ねぇ……まぁ純粋にきれいな街だとは思ったよ。自然との調和っていうのも予想以上だったし、何よりもあれだけのツリーハウスが並ぶ風景っていうのは中々他じゃ見れないし」

「そう……やっぱり、人間にはそう見えるのね……」


 ここまでくる間、ノノンもそれなりに楽しんでいたように見えたから、すっかりと肯定の返事が返ってくるかと思っていたのだが、彼女の答えは予想外のものだった。


「何かおかしなところでもあったの?」


 誠斗は思わずそう聞いてしまう。

 少なくとも誠斗の目にはノノンが目を輝かせて町を観光しているように見えたからだ。

 それなのに今のノノンはどこかつまらなそうな口調でため息をついている。


「マコト。あなた本当に気づかないの? あの街並み。見た目は自然だけれど、どう見たって作りものじゃない。木も草も花も……たしかに中心町は本物の木の上に家が作ってあるところもあったけれど、あとは森の木々に限りなく似せて作られているわね。私も最初は騙されていたわ」

「まぁ確かに木が揃いすぎていて不自然だとは思っていたけれど……そういう風に植えたとかそんな風じゃなかったの?」

「そんな訳ないじゃない。いや、まぁできないこともないかもしれないけれど、それ以前にこの町の木はまったく呼吸をしてないのよ。それが、私が感じてる違和感。まぁ人間にはわからない感覚でしょうけれどね」


 おそらく、ノノンがいう呼吸というのは光合成のことだろう。

 確かにこの街の空気は木が多い割にはよどんでいるような気がする。


 町を見ているときはそんなこと気にかけなかったのだが、確かにたくさんの木がある割にはあのシャルロの森が自分がもともとの住んでいた町のような雰囲気とどこか違っていたのだ。


 ただ、確定的に何かあるわけではなかったし、そもそも町の雰囲気なんてその場所場所によって違うのだから、自分が感じていた雰囲気はそういったものだと思っていた。


 今泊まっている宿も大きな木の上に作られたツリーハウスなのだが、この木も何かしらの方法で作られた作り物なのだろうか?


「……不思議ね。初代カルロ領主はどういった意図でこんな町を作ったのかしらね? どうせ、こうやって作るぐらいだったら、最初から普通の街にすればよかったのに……そう思わない?」

「……まぁ確かにそうだね。でも、そのあたりは過去の文献とかを調べてみると、何か出てくるものなんじゃない? 例えば、カルロ領主が立てた町の開発計画が書かれた書類とか、町の歴史が書かれているような本とか……まぁそんなことをゆっくりと調べているような時間はないと思うけれど」


 この町の木が作りものだと言われれば、気にならないわけがない。

 この場所は将来的に鉄道の拠点の一つになるだろうから、駅をどこに設置するかという点を考えるときに町のどこを提案したらより問題が発生しないか考える必要がある。

 例えば、この町の木がすべて天然もので昔から大切にされていたとすれば、それを切り倒して鉄道を通すなどという意見が通るわけがないだろう。だが、仮にこの町の木がすべて作りものだとして、それらの木がすぐに作られるものだとすればいったん木を切り倒して、邪魔にならないところへと移動させるということも可能かもしれない。


 それでもかなりの反発が予想されるが、まだ前者よりは希望が見える。


 ただし、そのためにはどこを通せば利便性が高く、なおかつ実現可能性が高いかという判断をある程度しなければならない。

 正直な話、この世界にきて鉄道を通すという話をしだしたころはちょっとがんばればなんとかなると勝手に思っていたのだが、こうして実際に検討してみると問題は山積みである。


 誠斗はちいさく息を吐いてからベッドのそばを離れて窓枠に手をついた。


「ねぇノノン。仮にこの木が全部作りものだとして、こういったものってどうやって作っていると思う?」

「……まぁそれは術者によるけれど、普通に形を作って家が作れるだけの強度を確保するなら、一本当たり一週間ぐらいじゃないかしら? もちろん、マーガレットみたいな大魔法使いが作ると、一日で完成させてしまうでしょうけれどね……それがどうかしたの?」

「……ちょっと気になっただけだよ。ボクの感覚からすれば、木を植えることはあっても、木を作ることはないからさ。ただ単純に育てるのに比べてどれくらい期間が短縮できるのかって思ったんだよ」

「そういうことね。確かに何十年もかけてこの町を整備するっていうのも大変でしょうから、こういった手段を使ったんじゃないかと……そういいたいの?」


 ノノンの指摘は誠斗の意図とは若干違うところにあるのだが、否定するほどの理由もないので誠斗はちいさくうなづいて答える。


「そう。なんだかマコトらしい疑問ね」


 ノノンは小さくそうつぶやいたあと、ゆっくりと体を起こして立ち上がった。


「ちょっと隣の部屋に行ってくるね」


 そういうと、ノノンは部屋の扉をゆっくりと開けて廊下へと出ていった。

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