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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
159/324

百二十八駅目 宿への道中

 カルロフォレストの街に入ってから約一時間。

 誠斗たちはバードの背中を追うような形で町を歩くが、一行に宿にたどり着く気配はない。それどころか、南外郭町を抜ける気配すら感じられない。


 ココット曰く、外郭町と中央町の間には小さな運河があり、それにかかる橋をわたると中央町なのだという。

 中央町はカルロフォレストの町ができてからの中心地であり、一時樹木が伐採されてスラム街を形成していた外郭町よりも木が大きく育っているのだという。

 現に大通りの向こうには樹齢何百年はあろうかという大きさの大樹が何本が見えていて、話を額面通りに受け取るとそれが中心町なのだろうと推測できる。


「それにしても、事前に聞いていた印象よりも大きい町だよね……」

「そうね。いくら中心街といえどもカルロフォレストはシャルロシャラ間の移動をするときの通過点っていうイメージが強い町だから、ほかの宿場町と同規模の街を思い浮かべる人は多いみたいよ」

「いや、まぁそこまでは言わないけれどさ……」


 答えながら誠斗はすこしだけ別の方向に思考を移す。

 先ほどノノンはカルロフォレストはあくまでシャルロシャラ間の通過点だと言っていたが、そうなるとなぜカルロ領に入ってから北大街道の人の往来が減ったのだろうか?

 もちろん、シャルロ領内も目に見えてわかるほどたくさん人が連なって歩いていたとかそういうわけではないのだが、街道を歩く間それなりの頻度で行商人や旅人とすれ違っていた。しかし、カルロ領に入った途端にその頻度は一気に落ちたように感じた。


 だからといって、シャルロからシャラへ向かう人が少ないという結論を出す気はないのだが、この人の流れの差がどうしても気になってしまう

 人の多さは時期によって違うだとか、シャルロ領内は人の移動が活発だが、カルロ領内はそうではないだとかいろいろな要因が考えられるが、人の流れは最終的に鉄道が作られたときに乗客の流れとなるといっても過言ではない。


 そうなると、人の流れを見極めて鉄道駅の設置場所や運行間隔、形態などを考えていかなければならない。

 シャルロッテ家の屋敷を出発して今まで町の調査ばかりをしていたが、そういった類の調査も将来的には必要なのかもしれない。


「それにしても、どこまで行ってもツリーハウスが並んでいるのですえn-。気をきれいに植えるだけでも大変なんじゃないですかー?」

「……はい、。わたくしも詳しくは存じ上げてはいないのですが、これだけの木をちゃんと育てるのに何年かかったのか……しかも、木を育てる間はそこにいた人たちが住む場所がなくなるわけですから、その時の領主は大胆な街づくりをしたものです」

「えぇえぇ。まさしくその通りなのですよー」


 前方からオリーブとバードの会話が聞こえる。

 いつの間にかオリーブは誠斗を追い抜いてバードの横に並んでいた。


 彼女はまるで何年もあってない旧友と話すように次々と質問をぶつけていく。

 その中には町のことだけではなくて、バード自身のことやその祖先……ダート・カルロッテのことまで含まれている。

 バードは彼女がどうしてそんなことを聞くのかという疑問を持っているように見えるが、それを口に出すことはなく、ただただ柔らかい笑みを浮かべたまま彼女の問いかけに対して丁寧に返答を返す。


 その光景を見ていると、少しだけほほえましいと思うと同時に小さな不安を感じた。


「ねぇオリーブってさ……」

「マコト。みなまで言わなくてもいいわよ……いいんじゃないの? オリーブの自由にさせてあげれば……」


 彼女が死霊であることがばれないかという不安を口にしそうになった誠斗を制して、ノノンは小さく笑みを浮かべている。


「……ノノンってなんだかんだ言ってオリーブのこと気に入っているよね……」

「それはないわ。誰があんなのを好き好んでそばに置いておかないといけないのよ。私もあいつも誠斗のそばから離れられないんだから仕方ないでしょう? それにあいつが面倒ごとを起こしたら巻き込まれるのは確定だし、そうなれば私たちの当初目的はおろか長期目標すら見失いことになるでしょ? だから、あなたの心配をしているの。あくまでね。わかった?」


 なんだかツンデレの典型的なセリフのようだ。

 もちろん、そんなことは口に出さないし、出したところで通じるかわからないが、誠斗は小さく笑みを浮かべて彼女の様子を観察する。


「何? 何かおかしなこと言った?」

「いや、何でもないよ……ただ、ノノンは素直じゃないなってそう思っただけ」


 そういいながらノノンの頭をなでる。

 彼女は口でこそ迷惑をこうむりたくないといっているが、その顔にはかすかながら笑顔が浮かんでいる。


 その一方でノノンが口にした不安が全くないといえばうそになるのかもしれない。

 仮にオリーブが死霊だとばれるようなことがあれば、バード・カルロッテが敵に回る可能性すら考えられる。もし、そうでないにしても事情聴取ぐらいはされるだろう。そうなれば、無駄な時間をとられるのは必至の上、最悪の場合マーガレットとアイリスの救出ができなくなる可能性がある。


 そこまで行くと考えすぎだと言われるかもしれないが、少しだけでも可能性があればちゃんと考慮する必要があるだろう。


「でも、今のところオリーブがぼろを出すような気配はないけれど?」

「えぇ。見事に旧妖精国の歴史に興味がある調査官といった風に見えるわね。意外とそういった技能も高いみたい」

「そうだね。というよりも、彼女ほどの立場になればそれなりにそういったスキルも必要になってくるんじゃないの?」


 彼女と旅をし始める前から若干忘れがちではあるが、彼女はもともと十六翼評議会の書記長という位置にいた人物だ。

 そうなれば、自分の心情を隠したり場合によっては相手をだますということも必要になってくるだろう。


 自分の思いだとか要求を主張するだけではどうしようもないことなどたくさんあるだろうし、相手に対してどう考えても不利な条件を飲み込ませる必要がある時だってあるはずだ。


 そうなると、徐々にそういったスキルが身についていくということなのだろう。


「……まぁあの様子を見る限り大丈夫そうかな……」


 誠斗はそこまで思考した後、木々の間から見える青空を見上げながら、ぽつりとつぶやいた。

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