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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
157/324

百二十六駅目 南外郭門

 カルロフォレストの南側の入り口となっている南外郭門の門の前には二人の兵士が槍を持って立っているのが見える。

 今回の旅の中でいくつかの街を経由してきたが、こういった形の警備をしているような町を見るのは初めてだからか、誠斗は自然と緊張し始めていた。


 普通であれば、そんなに緊張する必要はないのだろうが、問題が起きたときに上手に対処してくれるであろうマーガレットがいないという状況下で妖精と死霊を連れているという明らかにイレギュラーな状況がそうさせているのだろう。

 いつの間にか少しだけ浮かんでいたオリーブは地に足をつけて歩いていて、ノノンも羽を消す魔法をかけなおして準備をしている。ココットはココットで軽く身だしなみを整え始めた。


「……ねぇノノン。大丈夫だよね?」

「うん。不審な行動さえ見せなければ大丈夫だろうし、いざとなったらサフランから預かっている依頼書を見せれば疑われることなく通してくれると思うよ。できればそんな手は使いたくないけれど……」


 ノノンの視線はココットとオリーブの方へと向いている。

 やはり、彼女としては二人に今回の旅の本質はもちろん、表向きの理由についてもあまり知られたくないと考えているようだ。当然と言えば当然だろう。この二つの案件に関してはどちらもあまり表に出したくないことだし、話が悪い形で広がれば今後の行動に悪い影響が出かねない。


「二人とも、何をこそこそと会話をしているのですか?」


 身だしなみを整え終えたらしいココットが声をかける。


「まぁちょっと話をね。それよりも、オリーブとノノンは怪しまれないようになるべく自然にしてよね」

「えぇ。でーもーそういうぐらいだったらーマコトさんがーその挙動不審をやめるほうがー先だと思いますですよー」

「そんなに?」

「えぇそれはそれは。まるでー私を怪しがってくださいって言っているようにすら見えますのですよー」


 オリーブに指摘され、誠斗はより自然に見えるようにと意識する。

 しかし、そうすればするほど不審に見えるのか、オリーブはくすくすと笑い声をあげている。


「全くーそんな風にー意識するからいけないのですよーほーらーいっそのことー私たちがどういう存在なのか忘れるぐらいのつもりでー行けばいいのですよー」


 オリーブは誠斗の前に回り込んで誠斗を止めた後、そのまま誠斗の両頬に手を伸ばす。


「大丈夫なのですよーちゃんとーいつも通りのマコトで行けば問題ないのですよー」

「そうですよ。カルロフォレストの場合、行政関連の建物だけではなくて、領主の屋敷まで町の中にあるのでこうして警備が厳重ですけれど、何も臆することはありません。それとも、何か不安要素でもあるのですか?」


 現状、不安要素の塊だ。なんてとても言えない。根拠を求められたときに全部上げることができないからだ。仮にいくつ並べるとしても、核心に触れることができない。そうなると、下手なことは言うべきではないだろう。


「……いや、オリーブのことは少し気になっているけれどそれはないよ。それにこんな風に兵士が門前に立っているような町に入るの初めてだから」


 とりあえず、何か言わなければならない。

 そんな思いからそれっぽい理由を口にしてみると、ココットがあっさりと納得してくれた。


「そうですか。たしかにシャルロ領は比較的治安がいいのでこういった警備は中々目にしないかもしれませんね。でも、よほどのことがない限りは町に入れてもらえると思いますよ。もちろん、身分証の提出は求められると思いますけれど」

「身分証ってどんなのを出せばいいの?」

「えっと、シャルロ領に住んでいるなら持っているでしょ? ほら、アイリスカード」

「アイリスカード……ってあぁそういえばなんかあったような気がする……」


 半ば忘れかけていたが、シャルロ領民は一般的にアイリスカードと呼ばれる身分証を携帯している。

 この世界に来たとき、アイリスに発行してもらって以来提示を求められたことがなかったのだが、何かがあったときのためにと常に持ち歩くようにはしているのでカバンの中にちゃんと入っているはずだ。


 誠斗はカバンの中をごそごそと探って、アイリスカードを取り出す。

 旅に出る準備をするときにカバンを入れたそれは、発行されたときと同じような状態を保っている。結構適当に入れたのに折れ曲がったり、色があせたりせずに維持されているあたり何かしらの魔法がかけられているのかもしれない。


「そうそうそれですよ。それがあれば怪しまれることなく通行できるはずです」

「うん。たしかにそうだね。ありがとう」


 残念ながら存在自体を忘れかけていたのでこの発想はなかった。

 だが、これはかなりありがたい情報だ。怪しまれたらどうしようかという不安要素が消えたためか、先ほどまでの緊張が若干和らいできている。

 そのせいもあってか、自然に自然にと意識をすることもなくなり、多少ではあるが普段通りの自分に戻ってきている気がする。


「おやおや。それなら大丈夫そうですよー田舎から出てきて、町に入るのは初めてぐらいに見えますしー」

「そう?」

「えぇ。それなら問題なく通り抜けられそうなのですよー」


 言外にさっきの状況なら怪しまれていたと言いながらオリーブはにこにこと笑みを浮かべている。

 その表情を見て、誠斗は小さくため息をつく。


「そんなに怪しかった?」

「えぇ。そうですねー尋問してくださいっていうぐらいには、怪しかったですよー」

「本当に?」

「本当にですよー」


 オリーブが言っていることが本当なら、ココットには本気で感謝した方がいいかもしれない。

 アイリスカードのことに気が付いて、幾分か安心したのは事実だし、それがきっかけで不審な挙動が減ったのなら、安全にこの町に入れる確率が上がっているということになる。


「そこの集団。いったん止まれ」


 そんな風に和気あいあいと会話をしていると、いつの間にか二人の門番が目を光らせている町の入り口に到達し、その二人に呼び止められた。

 誠斗は二人に求められるままに身分証としてアイリスカードを提示し、念のためにサフランからの依頼書もすぐに出せるようにと準備をする。


 しかし、誠斗の心配とは裏腹にアイリスカードを確認した門番の兵士はあっさりと通行許可を出して、開門するようにと指示を飛ばす。


 ギギッという重苦しい音とともに誠斗の背丈の四倍はあろうかという大きな門が開く。


「旅の方。ようこそカルロフォレストへ。我々はあなた方を歓迎します」


 門の上から声がかかるころになると、門は完全に開き切り、その先にある風景が視界に飛び込んでくる。


「……すごい……」


 その風景を見て、誠斗は思わずそうつぶやいた。


 門の外に広がっていたのは森だ。それもただの森ではない。

 森の木々にははしごがかけられていて、木の上にはツリーハウスがいくつも建っている。そんな風にして木の枝が折れたりしないのかと思うのだが、住んでいるのだから問題ないのだろう。


「マコトさん。この程度で驚いていたら中心部に行ったときに度肝を抜かしますよ。ほら、門が閉められないので早く進みましょう」


 しばらく門の入り口から見える街並みに見惚れていた誠斗であるが、ココットに声をかけられてようやく我に返り町の中へと足を踏み入れる。


「これが自然と調和した町。カルロフォレストです。さて、今日の宿を探しましょうか」


 ココットのそんな声を聴きながら誠斗たちは大通りを中心部に向けて歩いていった。

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