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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十九章
156/324

百二十五駅目 カルロフォレストへ向けて

 獣人たちの村を離れてから誠斗たちは一路カルロフォレストを目指して北進していた。

 カルロ領の中心街であるカルロフォレストは“自然との調和”をテーマに作られた町で、大きな町でありながらも自然に溶け込むような街並みが形成されているのだという。


 それだけを聞いていると、町中のありとあらゆる場所に木々が植えてあって、たくさんの花壇があるのだろうと勝手に想像を膨らませるが、そこへ行ったことがあるというココット曰くそういったレベルではないらしい。


 具体的にはどうなんだと聞いてみたが、それでは楽しみがなくなってしまうとかで彼女は話してくれない。おそらく、何も知らないままその町に入ったときの感情を味わってほしいのだろう。その一方でノノンは“人間が自然と調和? そんなことできるの?”と顔に書いてあるかと思うほどいぶかしげな表情を浮かべている。


「くくっノノン。疑いすぎなのですよー。たーしーかーにー人間は自然を蹂躙し、破壊するものかもしれないですけれどーカルロ領は違うのですよー」

「違うって?」

「初代領主の方針でー自然をーなるべく破壊しないで町が作られたのですよーこれに関してはーダートも自慢げに語っていたのですよー」


 昔のことを思い出しているのか、オリーブは少し目を細めて遠くの方へと視線を送る。


「ダート? ダートってダート・カルロッテのこと?」


 そんな彼女に質問を投げかけたのはココットだ。

 オリーブは少し間をおいてから小さくうなづき、ココットの方へと視線を向ける。


「ダートのこと、知っているのですかー?」

「えぇそれなりに有名ですからね。名前ぐらいは耳にしたことがあります」

「そうなのですかー彼とはーそれなりに親交もあったのですよーまぁ当初はー唯一の貴族であるーカルロッテ家がこのあたりを仕切ることになっていたのですけれどねー蓋を開けてみるとー実際に権力を握ったのはーマミ・シャルロッテとーリル・トリルッテの二人だったわけですよー普通だったら、そこで怒ってもおかしくはーなかったんですけれどねー彼はー気にする様子もなく、ちゃんと仕事をこなしていたのですよー」


 かつて、オリーブ・シャララッテが人間として生きていたのは八百年も前のことだ。

 当然ながら彼女の知り合いというのはその時代の人間になるわけだが、こうして話をしているとそういったものが全く感じられない。

 ココットと話している姿は少し遠くに離れた場所に住んでいる友人のことを語っているようにすら見える。


「ねぇほかにもどんな人と知り合いだったの?」

「そうですねーマミ・シャルロッテとは仲が良かったですし、リル・トリルッテとも親交がありましたよーマーガレットとも親交がありましたしーもうあげたらきりがないですねー」

「知り合いが多いんですね?」

「えぇ。私はー博愛主義者ですからねー皆さんのことも大好きですよー」


 背後から聞こえてくるココットとオリーブの会話を聞いて誠斗は少し引っ掛かりを覚える。

 ちらりとうしろに視線を送って見ると、オリーブは穏やかな笑みを浮かべて会話に応じていて、ココットも普通に応対しているので特段変わった様子は見えない。

 誠斗は前方に視線を戻して自分の中で何に引っかかったのか考え始める。


 マミ・シャルロッテと知り合いだったという点については不自然ではないだろう。マミも十六翼評議会の関係者だし、先の会話でていたダートなる人物も話の内容から推定する限りカルロ領主の関係者のようだし、リル・トリルッテはオリーブ自身が以前不死者の一人だと語っていた。そうなると、最後に残るのはマーガレットだが、彼女もまたマミと知り合いだったようなのでそのつながりでオリーブと面識があってもおかしくはないだろう。


 そうなると、次に彼女の口から出たキーワードといえば“博愛主義”だが、これも個人の思想なのでそこまで気にすることもないだろう。

 博愛主義も気にするほどのことでもない。そう考えて切り捨てようとしたとき、誠斗の頭の中をある情報がよぎった。


 “十六翼評議会の書記長を務めていた人物で翼下準備委員会の創始者”


 ノノンは彼女のことをそう評していたはずだ。

 そのことを考慮すると、誠斗の中で生まれた引っ掛かりの正体がつかめそうな気がする。


 十六翼評議会といえば、亜人追放令を発布し、亜人を町から追い出した。という点以外は全く持って謎に包まれている組織でかつてのシルクの言動から推測すると、いくつかの組織の集合体である“十六翼議会”の一部となっている議会だ。


 はっきり言って、その十六翼議会の全容は全くと言っていいほどわからないのだが、思惑は何であれ十六翼評議会が亜人追放令を発布し、実際に実行させたのは紛れもない事実だ。


 そんな組織で書記長なる役職についていた人物が自分は博愛主義者だと言い放ったのだ。そう考えてみると、誠斗の中で感じた引っ掛かりはそのあたりと見て間違いないだろう。

 博愛主義という彼女の言葉が本当ならなぜ、亜人追放令などというものを実行したのだろうか? かつて、シャルロッテ家の屋根裏でマミに化けたノノンから話から聞いた話が本当だった場合はあながち嘘ではないのかもしれないが、状況が状況なので彼女の話の信憑性についてはほとんどないと見て間違いないだろう。


 普通に考えれば、ノノンが亜人追放令の発布された理由なんて知れるはずがないし、そもそもあれは理由としてはいまいち不可解な点が多い。実際のところはわからないが、何かしらの理由から亜人が邪魔になったからといった方がよっぽどか現実的だ。


「おやおやぁマコトさーん。難しい顔をしちゃって、どうしたのですかー?」

「えっ? ちょっと考え事をね」

「そうですかー? それぐらいならいいですけれどー」


 どうやら思考の海に浸りすぎたらしい。

 オリーブは心配そうな面持ちで誠斗の顔を覗き込んでいる。


「大丈夫だよ。マコトが考え事をしているなんてそう珍しいことでもないから」

「そうですかー?」

「そうよ。いちいちに気にしていたらきりがないから、ほっておいた方がいいわ」


 斜め後ろで聞こえるノノンとオリーブという珍しい組み合わせでの会話を聞きながら、誠斗は小さくため息をつく。

 この会話だけを聞いていると、仲がいいように見えるが、聞こえてくる会話の口調は徐々に荒くなっていき、そうではないという実感を伴ってくる。


「ほうほう。全く、これだからあなたは嫌なのですよーもう少しーマコト君のー考え事とかに付き合ってあげたらどうですかー?」

「そんなことする必要ないでしょ? それよりも、どっかに言っていてくれる? 少なくとも私の視界に入らないで」

「何を言っているのですかー? 消えるのはーあなたの方ですよー」


 博愛主義はどこへ行った。

 思わずそう言ってしまいそうになったが、ぐっとこらえる。


 それにしても、普通の会話から入ってもよくこんなけんかに発展するものだ。

 喧嘩するほど仲がいいなんて言う言葉が世の中にあるが、この二人の場合、喧嘩をしなくなるということはないのではないかと思えてくる。


「でもまぁ……仕方ないかな……」


 誠斗はノノンたちに聞こえない程度の声量でぽつりとつぶやく。

 この二人が和解するというのは相当難しいだろう。それに今のところ二人の喧嘩が原因で問題が起きているわけではない。

 正直、この状況が続くのはよろしくないと思うのだが、早急に改善しなければならないというほどでもないかもしれない。


「マコトさん。もうすぐカルロフォレストに着きますよ」


 再び考え事にふけっていた誠斗にココットが声をかける。

 それに反応するような形で顔を上げると木で作られた小さな門が道の先に見えた。


「あれがカルロフォレストの外側に広がる外郭町(がいかくちょう)の入り口にあたる南外郭門(みなみがいかくもん)です」


 ココットの説明を聞いたうえで改めて前方に見える南外郭門を見てみるが、どうしても中心街の入り口には見えない。

 ただ、ここでココットが嘘をつく理由はないので本当にその門が入り口なのだろう。


 誠斗たちは目の前に見えた目標に向けて少しだけ歩調を速めながら向かっていった。

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