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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十八章
153/324

百二十四駅目 オリーブとノノン

 獣人たちが住む村の入り口付近。

 誠斗はリラに書き込んでもらった地図をもってそこに立っていた。


「……リラ。いろいろとありがとう」

「……うん、こちら……こそ、ありがとう」


 ここまで見送りに来てくれているリラは小さく笑みを浮かべている。

 当初は彼女が誠斗たちについていくと言い出したりしたのだが、彼女が子供であることに加え、これからどんな想定外な出来事が起こるかわからないので村人たちにも協力してもらって何とか交渉し、村に残るという方向で納得してもらった。

 彼女からすれば、たった数日間だけ行動を共にしたという事実以上に村人たち以外との交友という事実によって、何か惹かれるものがあるのかもしれない。


 ただ、そういったところを聞き出した上でついてくるななんてことは言えないので、あえて誠斗は彼女がなぜついてきたいと言い出したのかを聞かずに立ち去ることにした。


「……ねぇ、絶対……また、来てね?」

「うん。わかっているよ。近くを通ったらまたここに来るから。約束」

「うん……約束、破ったら……だめだよ?」

「大丈夫だよ。忘れたりしないから」


 リラと誠斗はどちらからともなく手を差し出して、しっかりと握手をする。


「それじゃそろそろ行くね」


 誠斗は緩やかに彼女の手を放す。

 リラは少し名残惜しそうにしているが、いつまでもそうしているわけにはいかないから仕方ないだろう。


 手を放した誠斗はもう一度リラの姿をしっかりと視界に収めた後にゆっくりと振り返ってノノンたちの方を向く。


「というわけで行こうか」

「あれ? お涙頂戴なお別れの瞬間はもう終わりなの?」

「見世物じゃないんだから……それに、ずっとここにいるわけにもいかないでしょ?」

「まぁそうだよね。というわけなら行こうか。ココットやオリーブもいい?」


 ノノンが尋ねると、ココットとオリーブは順にうなづく。


「それじゃリラ。また会おうね」

「……うん。絶対、だから……」


 誠斗はいったん振り返ってリラに挨拶をした後、そのまま彼女が書いた地図を見ながら森の中へと入っていく。


「それにしても想定外のトラブルね。余分なのがついてくるし……」

「余分なのとはひどいですねーわーたーしーはー仲間じゃないですかー」

「ふんっ。好きに言いなさい」


 一つ不安要素があるとすれば、背後で喧嘩を始めている二人だろうか?

 この二人の喧嘩が本格的に旅の日程にまで影響を及ぼすことはないと思っているのだが、何かしらの理由で協調体制をとる必要が出たときにこの調子だと、困ってしまう。


 そういった意味では二人にはちゃんと態度を改めてほしいのだが、この調子ではそれもなかなか望めないかもしれない。


「困ったものですね。ノノンとオリーブさんが不仲のままではいろいろと支障が出ますよ」


 誠斗と同様の疑念を抱いていたのか、ココットが二人には聞こえない程度の声量で話しかけてきた。


「……そうだよね。ボクとしてはもう少し二人に仲良くなってもらいたいんだけど……何せ圧倒的なマイナスからスタートだからね……」

「そう考えると、先が思いやられますね。どうしたものでしょうか……」

「まぁそうだよね……どうしたものかな……」


 獣人の村を出てから約十分。

 早くも誠斗は頭を抱える。


 この状況を何とかできないのだろうか? 本気で悩んでみるが、全く答えは見つかりそうにない。


「まぁなんというか……二人の様子を見ながら考えていくしかないかもね……」

「やっぱりそうなりますよね……」


 ココットが重々しくため息をつく。

 そもそも、二人の間にある確執があまりに埋めがたいもののため、それを解消するとなるとちょっとやそっとの苦労では終わらないだろう。

 一番いい方向としてはどちらかにいなくなってもらうことだが、あいにくながらどちらとも離れるわけにはいかない。


 普段は服の袖に隠れているので忘れがちだが、ノノンの腕には逃走防止用の腕輪がついているし、オリーブもあくまで死霊なので術者の命令は実際だ。

 互いの術者が互いに誠斗から離れるなと言っている以上、この二人が自分から一定の範囲の外に出ることは不可能だといってもいいだろう。この中で唯一物理的な距離をとれるのはココットぐらいである。そう考えると、最初から何か仕組まれているという思考は何ら間違っていないように感じてしまう。


 二人が離れることができない以上、下手をすれば確執が広がっていってしまう。もしも、オリーブ側の術者がそれによる内部分裂を狙ってオリーブにただ一緒にいろという命令を下しているのなら、それこそ敵の思惑通りだ。

 そうなると、敵の思惑を打ち砕くにはやはり二人には仲良くしてもらわないといけないという結論に到達せざるを得ない。


 それが簡単に実現できるかどうかと聞かれてしまうと、すぐに答えが詰まってしまうのもまた事実だが……


「はぁ……どうしようかな……」


 今度はこうして誠斗が悩んでいることを自体も敵の狙いに含まれているのではないかというぐらい誠斗が頭を抱えだした。


「まぁなるようになるしかないんですかね?」

「それで済めばいいけれどね……」


 少し考えすぎだろうか? いや、そんなことはないはずだ。

 目的地であるシャラはこうしている間にも確実に近づいているし、マーガレットとアイリスの救出の際にはどんなことが起こるのか全く予想がつかない。

 そんなときにこのような状態では連携も何もないだろう。


 気づけば、この状況を何とかしないといけないという思考と別にこのままでも待っていれば時間が解決してくれるのではないかという考えが頭の中を交互に回り始める。


「もう! これだから死霊は! 世間の常識を知らないわけ?」

「おやおやぁ八百年前のー人間にーそんな知識を求めすかー? そういうのはー徐々に手に入れていくものなのですよー」


 ただ、事実として背後の二人はどうしたって引くことはないだろうというのだけは事実だろう。

 死霊を徹底的に嫌っているノノンが妥協するとは思えないし、オリーブの挑発的なしゃべり方というか、話しているその内容もおそらくわざとではないだろう。そうなると、互いに改善は難しい。というよりも、仮にオリーブが話す内容等々を改善したところでノノンの考えが改まらないか限りは意味がない。


「……ねぇココット、大丈夫かな? この先……」

「私に聞かれても知りませんよ」


 ココットもまた、いろいろな意味で怪しい人物だという事実を半分ぐらい忘れながら、誠斗は小さくため息をついた。

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