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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十八章
152/324

百二十三駅目 オリーブの立ち位置

「結局、あいつを正式に仲間に迎え入れるって言いたいの?」


 獣人たちの村の一角にあるリラの家。

 程よく片付けられたその家の一室でノノンが嫌悪感を前面に押し出しながら苦言を呈す。


 彼女がいう“あいつ”というのはオリーブ・シャララッテのことで広場での戦闘の前後の言動から死霊を嫌っていて、なおかつ彼女を警戒しているということはうかがえていたのだが、彼女がオリーブに対して持っていた嫌悪感は予想以上のものだったようだ。


「まぁまぁどちらにしても勝手についてくるんだからさ……勝手についてこられるよりはほら、そうした方がましじゃない?」

「だからといってもね。いくらなんでも死霊を連れていくなんて……町の人に見られたらどうするつもりなの? 途端に腫れもの扱いじゃない」

「いや……それは……」


 誠斗はこの世界の人々が死霊に対してどんな感情を抱いているのかよくわからない。

 ただ、あまり良くない感情を抱いているのは事実だろう。それはノノンの態度を見れば明らかだ。


 獣人たちやココットはあまりそういったことを気にする様子は見られないが、皆が皆そんな風な態度を見せてくれるとは限らないのがまた難しい。


「……でーもー私ー見た目だけで言えばーちゃんと人間やっていますのでー町ではーちゃんと歩きますですよー」

「そうは言っても、バレる可能性がないわけじゃ……」

「マコトは甘すぎる。ココットは大してこのことに口を出してないけれど、これはかなりの問題よ。そもそも、禁術指定されている魔法の結果産み出されたモノと一緒にいるなんて、捕まってもおかしくないほどのことじゃない。そうしたら、マーガレットの救出はおろか、あなたの願いすら叶わない可能性が……」

「禁術でつかまるのはーシャルロ領ぐらいのーはずですよーまーあー使い方によってはー捕まりますけれどねー」


 オリーブの一言で急激に沈黙が訪れる。


「……そうなの?」

「そうですよー特にーシャラ領とー新メロ王国は緩いですよー」

「えっ?」

「まぁシャルロのー決まりしかーしーらーなーいー妖精ならー知らなくても仕方がないかもしれませんけれどーシャルロは特別ー魔法についてのー決まりが厳しいのですよー」


 オリーブは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべながらノノンの頭に手を置く。


「あらあらぁでーもー私のようなー存在にーいい感情がない人が多いのは事実ですしーあなたの主張はわからなくもないですけれどー私はーちゃんと歩いていれば、人間にしか見えませんしーなーにーよーりーもー私がついてくることのデメリットはー対してありませんよねー?」


 じわりじわりとノノンを追い詰めるかのようにオリーブがノノンに近づいていく。


「そーれーでーもー私と一緒にー旅をするのをー拒否するのですかー?」

「いや、それは……」

「あとはーあなたの感情だけなのですよーまーあーいやと言われてもついて行くのですけれどねー」


 ノノンが主張する退路をふさぐような形でオリーブの言葉が紡がれ、ノノンはすっかりと黙りこくってしまう。


「マコトとココットは私がーついてくるのにー賛成なのですよねー?」

「まぁそうだね。それしかないみたいだし」

「私も同意見です。それにこれ以上の議論は時間の無駄ですし、どうせついてくるのなら、仲間として迎え入れるのもありだと思います。まぁ彼女を操る術者の腹積もりがわからないというのは不安といえば不安ですけれど……」


 オリーブの質問に誠斗もココットも賛成の意を示す。


 それを聞いたノノンは都合が悪いと感じたのか、一歩二歩と後ずさりする。


「……そうはいっても……」

「まぁその、ノノンがどうしてそこまで死霊を嫌うかわからないけれど、今回ばかりはちゃんと受け入れないと……別に一緒にいるだけで話をする必要があるわけでもないし……」


 いまだに拒否を続けるノノンに誠斗は何とか交渉を試みる。


 ただ、ココットのこれ以上の議論は時間の無駄だという言葉もあったので誠斗はとどめとなるであろう一言をノノンにぶつけることにした。


「でもさ、さっき広場でノノンはボクの意見を尊重するって言っていたよね? そのあたりはどうなの?」

「……それは……あなたが、あんなのを受け入れることはないって、そう思ったから……」

「それでも、そういったのは事実だよね?」


 間違ったことを言っているつもりはない。

 ノノンが広場でそういう意見を述べたのは事実だし、それを言った以上今更誠斗の意見を聞けないなどという権利はないはずだ。


 あまりこういった追い詰め方はしたくないのだが、結論が決まっているにもかかわらず、永遠と続きそうなこの議論を終わらせるためにはこれが一番の方法だ。

 こればかりはノノンもこれ以上の反論ができないようで、今度こそ本当に黙ってしまう。


 それを見たオリーブは満足げな表情を浮かべて、ノノンの肩にポンと手を置く。


「……あらあらぁ自分のー発言には気を付けないといけませんねーということはー私はー正式にーあなたたちについていくことになるわけですよねー?」


 誠斗がしっかりととどめを刺したと判断したのか、彼女はニタニタと笑みを浮かべたままノノンをなでまわし始める。

 それに対して、ノノンは悔しさからかもしくはオリーブに対する嫌悪感からなのか体を震わせてうつむいてしまった。


「……えっと……ノノン?」


 この状況はまずいかもしれない。

 そう考えて、ノノンに声をかけるが彼女からの返答はない。


「まぁこれからー一緒にー旅をするような間柄になるのでーちゃんとー仲良くしましょうねーまーあーそれもいつまでになるのかわかりませんけれどねー」


 オリーブはあくまで笑顔を崩さないままノノンの頭をなでている。


 この様子を見ていると、実は彼女性格が悪いのではないだろうか? と思えてくるのだが、気のせいだろうか?


「まぁまぁオリーブ。その辺にしておこうよ」


 オリーブの性格だとか思惑がどこにあるかわからないが、これ以上続けられてノノンが怒るようなことがあってはいけないと考えて誠斗はオリーブを止めに走る。


「まぁそうですねーこのぐらいにーしておきましょうかーどうですかー? わーたーしーのーぬくもりとかー感じましたー?」


 誠斗の要求に応じてあっさりと手を放したオリーブは続けてノノンに話しかける。

 その言葉を聞く限り、どうやら彼女の行動にはそれなりの意味があったようだ。正直な話、彼女の表情を含めて考えてしまうと、ノノンに対する嫌がらせも少し含まれているような気もしなくはないのだが……


「……うん。ちょっと温かかった。でも、それだけだからね。私はそんなことぐらいであなたを認めないから」

「あらあらぁ見た目通り子供らしいのですねーさっさと認めちゃえば楽になりますですよー」


 プイッとそっぽを向いてしまったノノンの頬をオリーブは終始笑顔を浮かべたままつつき続ける。

 その様子はすねる子供の機嫌を取ろうとする母親のようにも見えてくる。


「……とりあえず、ノノンもオリーブを仲間に加えることに賛成っていうことでいい?」

「まぁね。残念だけど、これ以上議論を続けられるだけの材料を見つけられそうにないから、それでいいわよ。そうと決まったら、次はシャラまで行く算段を改めて立てましょうか」


 ノノンは小さくため息をついた後、立ち上がり近くに置いてあった机を借りて地図を広げ、誠斗たちもその机のところへと移動する。


「というわけでリラ。現在地と北大街道に戻るのに一番早い道を教えてもらってもいい?」


 その一言をきっかけにノノンはすぐに頭の中を切り替えて、誠斗やココットたちとともにリラの案内に意識を向ける。


「えっと……その、いま……が……ここ、だから……」


 リラは誠斗たちの期待に答えるために地図に現在地や街道へとルートを書き込みながら説明をし始めた。

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