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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十八章
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百二十二駅目 誠斗の悩み事

 オリーブの話を聞いた後、誠斗は再びその場に寝転がって青い空を流れていく白い雲を眺めていた。


「何か考え事?」


 そんな誠斗の顔をノノンがのぞき込む。

 リラの家で朝食を食べたあと、村にある小さな広場でずっとこうしているものだから、心配されているのかもしれない。


「いや、大丈夫だよ……ちょっと、ボーとしてただけ」

「……そう。さっきのことについて悩んでいるのかと思ったわ」


 ノノンがいう“さっきのこと”というのはほぼ間違いなく今朝オリーブと話した内容のことだろう。

 あくまで死霊魔術でこちらに来たのだから、術者の意向に従うのみと言われてしまえば、オリーブがどう思っているかとかそういう要素は全く関係なく、彼女の向こうにいる術者の意向一つでどうにでもなってしまう。

 そう考えると、状況はどう考えても好ましくない。


 いくら彼女の言動に気を付けたところで、突然術者に操られて背後から切りかかってくるなんてこともありえるからだ。


 そんな状態で安心して旅をするなどどう考えても難しいだろう。


 常時彼女の状況を監視するにしても、どうしても隙は生まれてしまうし、仮にずっとそうしていたとしても何の前触れもなく攻撃されてはこちらとしても対処のしようがない。はっきり言って、ココットを仲間に加える以上のリスクがあるといっても過言ではない。


「まぁでも、さっきのことも悩ましいのは事実だよね……」

「ちょっと冷静さを欠いていたわね。ちょっと考えればわかることだったのに……まぁいずれにしても、私たちの意向なんて関係なく“術者の意向”とやらに沿ってついてくるのでしょうね。彼女は」

「だろうね……」


 ニコニコと底が知れない笑みを浮かべるオリーブの姿を思い浮かべて、誠斗は小さくため息をつく。

 ここまで行ってしまったら、いっそのいこと普通に仲間として受けれいてしまった方が丸く収まるのではないだろうか? そうすれば、草間の影から突然襲われるということはなくなるだろう。もっとも、何にしても命の危険があるという状況には変わりないのだが……


「それにしても、困ったね。せめて、術者がいればその真意に探りを入れることができるんだろうけれど……」

「それがいないというよりも、誰かわからない以上はそのあたりのことは全く分からないまま……せめて、術者についてもう少し手掛かりがあったらいいんだけど……」

「それは無理かもね。状況からして術者は何かしらの魔法で遠くから監視しているでしょうし、ここまで徹底するぐらいだったら、そう簡単に尻尾を見せることなんてないでしょうしね。そうなってくると、術者もオリーブもできる限り刺激しないようにするのが最良の手になってきそうね」


 ノノンが言っていることは単純なようで結構難しいことだ。

 いくら術者を刺激しないといっても、何が刺激になるかわからないし、もしも現在進行形で今の会話を聞かれていたら刺激をしないわけがない。


「オリーブを仲間にね……」


 おそらく、彼女自体はあまり悪い人ではないように思える。

 確かに十六翼評議会という肩書にはあまりいい思いはしないのだが、現状ではそれはあまり関係ない。


 獣人たちと戦っていたにも関わらず、あとで獣人たちと酒を酌み交わしていたあたり、そこまで悪い人間ではないのではないかという印象を持っている。ただ、彼女自身がどうとかいうのもまた、関係ないことなのかもしれないが……


「私としては、オリーブを仲間に加えるべきではないと思っているわ。でも、私としてはマコトの考えを尊重するつもりよ。それじゃ、私はココットのところに行ってくるわ。一応彼女とも話をしないといけないから……」

「……わかった」


 ココットがいるリラの家の方へと歩いていくノノンの背中を見送った後、誠斗は再び青空に視線を移す。


「……本当にどうしたものかな……」


 この旅に出てから何かと悩み事が多いような気がする。いや、正確に言えばこの世界に来てから。かもしれない。

 特に今回はあまり実感がわかないとはいえ、場合によっては命のやり取りが発生する可能性があるような内容だ。ココットのときもそういう考えがなかったとは言わないが、あの時とは明らかに状況が違う。


「悩んでいるのですかー? 私のことでー」


 そんなとき、その悩みの種の張本人から声がかかる。

 誠斗がゆっくりと声の下方へと視線を動かすと、昨晩同様に小さく笑みを浮かべたオリーブが少し高めの上空から誠斗を見下ろしていた。


「まぁそういうことになるね」

「そーですかーでーもー悩んでも意味はないんじゃないですかー? どうせー私はついていくんですしーそうなれば、リスクは変わらないんじゃないですかー?」


 ニコニコと笑みを絶やさないままオリーブはそんな声をかける。


 彼女が言っていることはもっともだろう。結局、こちらの意思に関係なくついてくるのなら、普通に仲間と受け入れてしまっていいのではないだろうか? と聞かれれば、誠斗もあっさりと納得しそうになる。

 だが、もしかしたら何かあるのではないかという漠然とした不安がその言葉をのどの奥から出るのを必死に阻止しているというのが現状だ。


「あらあらぁ悩んでますねー顔に出ていますよーもっともーあーなーたーがーいくら拒絶したところでー私はーついていくというのは改めて明言しておきますねーそれでは、私はーこのあたりでー家に戻っていますですよー」



 オリーブはそのままリラの家の方角へと向かって移動して、やがて視界の外へと消えていく。


 その背中を見送った後に誠斗はもう一度ため息をついた。


「……仲間にするしかないか……まぁもっともかもしれないな……」


 オリーブの言葉には十分すぎるほどの説得力がある。何よりも、当人がどちらにしろついていくといっている時点で選択肢はないに等しい。

 だったら、変な意地を張らないで彼女を仲間に入れると言い切ってしまった方がいっそのこと楽なのかもしれない。


「かといっても、どうしたものかね……」


 もはや何度目かと数えるのも億劫なせりふを吐きながら誠斗は立ち上がり、ノノンたちがいるであろうリラの家の方角へ向けて歩き出した。

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