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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十八章
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百二十一駅目 オリーブの事情

 獣人たちが宴を開いた日の翌朝。

 誠斗は広場の上空から差す日の光で目を覚ました。


「……朝?」


 いつの間に寝ていたのだろうか? リラやノノン、オリーブとともに広場に戻ったあたりから記憶があいまいだ。

 周りを見ると、ノノンやココット、リラが誠斗と同じように広場で体を横にしている。


「おやおやぁおはようございまーす」


 ゆっくりと体を起こすと、さっそく背後からやや間延びした声が聞こえてくる。

 その声の主を探すように周りを見回してみると、斜め後ろの上空に浮かんでいるオリーブの姿が視界に入る。


「はいはい。おはよう……それで? なんでいるの?」

「あらあらぁ昨日の会話。忘れちゃいましたかー?」

「割と詳細は聞けてないと思うんだけど? そもそも、昨日リラと泉のそばまで行ったとき、ちゃっかりとついてきてたし……何なの?」

「でーすーかーらー私はーあなたの新しいー味方なのですよー」


 オリーブはニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべながら誠斗のそばまで寄ってきて、頭にポンと手をのせる。

 彼女の手は死者であることが嘘であるかのように暖かく、空に浮かんでいることを除けば今まさにそこにいる生者のようにも感じる。


「……そうね。私もいくつか聞きたいことがあるわ。昨日は結局はぐらかされて、宴会の雰囲気に乗せられてまんまと楽しんでいたけれど……あなたはどういう意図をもって私たちに接触し、仲間だといっているの?」


 言葉を詰まらせる誠斗に代わり、いつの間にか目を覚ましていたらしいノノンがオリーブに問いかける。


「あら起きちゃったのですかー?」

「えぇ残念ながら朝からね。それで? そのあたりはどうなの? それとも、そのあたりの話は誠斗の仲間(わたし)に聞かれたら不都合なのかしら?」

「……別にーそーではないですけれどーまぁ話をしましょうかー」


 オリーブは怪しげな笑みを浮かべて、少し空に飛んで誠斗たちを見下ろし始める。


「さぁてぇそーれーでーはーゆっくりとー話をしましょうかー」


 オリーブは空に浮かんだまま両手を広げる。

 その姿は民衆に向けて演説する為政者のようで、彼女は怪しげな笑みを浮かべたまま誠斗とノノンの姿を見つめている。


「クスクスいい感じなのですよーこういうことをーやるのは、いつもーマミの役目でしたからねー」

「そんな前置きはいらないから、早く話して」

「……まったく……どこかの誰かを思い出すような急かしかたですねーまぁいいですけれどーとーいーうーわーけーでー今の状況のー詳細な説明をしますですよー」

「だから、そういう前置きはいいって」


 ノノンが念を押すようにそんなことを言うと、オリーブは彼女の姿を少しにらんだ後に再び元の笑みを浮かべる。


「そもそもーご存知の通りー私はーとっくの昔にーいなくなってしまった人間でーほーんーらーいーなーらーこんなところにはいないのですよー」

「まぁそうね。あなたは八百年前の亡霊だもの。そんな長い期間を生きている人間なんて片手で数えられるほどしかいないだろうし」

「えぇその通りなのですよーこの世界で不老不死を手にしているのはー八百年前の時点でたったの三人なのですよー。一人目は大魔法使いミル・マーガレット、二人目は翼下準備委員会のフウラ・マーガレット、そして最後の一人は旧妖精国の最西端にあるトリル領の初代領主にして、永久(とわ)の旅人の異名を持つリル・トリルッテ……まぁ減るこーとーはーないでしょうけれどー増えている可能性はー否定できないのですよー」


 言いながらオリーブは再びノノンに視線を送る。

 その行動にどんな意味があるのか、誠斗にはわからないが、そのたびにノノンの表情に不快感が現れるあたり、何かあるのかもしれない。


「……それで? その前提は成立したけれど、肝心のあなたの話がきけてないのだけど」

「えぇ。ここからが重要なのですよー私が……オリーブ・シャララッテが過去のー人物だと証明されたとーこーろーでー次に必要となるのはー私がーあなたたちの前に現れるための手段なのですよー」

「……そんなもの、誰かがつかった死霊術に決まっているでしょ?」

「えぇ。そうなのですよーせいかーいなのですよー」


 ノノンの返答に満足しているのか、オリーブは先ほどとは違い、穏やかな笑みを浮かべて軽く手をたたいて拍手をする。ただ、それの相手をしているノノンの機嫌は必ずしも良くはないようだが……


「バカにしているの?」

「していないのですよーまぁとにかくー私がここに来れる理由というのはー死霊術で誰かに呼び出されたからーということになるのですよーここで次に生じる疑問はー誰がー死霊術を使った。なのですよー」

「そんなのメロエッテ家の人間に決まってるでしょ? そんな芸当ができるのなんて彼らぐらいしかいないんだから」


 この問答に嫌気がさしてきたのか、ノノンは眉をむっと潜ませてオリーブをにらむ。

 二人の間の空気に誠斗はもちろん、いつの間にか目を覚ましていたココットやリラも言葉を発することすらできずにただただ見守ることしかできない。


「……ここでーラストクエスチョンなのですよーさーてーなぜ、メロエッテの人間はーわざわざー私をよびだして獣人を攻撃させたのでしょうかー? さらに言えばーなぜー別の人間が横やりをー入れてー私をここにとーどーめーたーのでしょうかー? ここがーあなたの質問の答えにー最も近い疑問なのですよー」

「……可能性として考えられるのはメロエッテ家内部での争いもしくは当初は別の目的で呼び出されたあなたが、何かしらの原因により例の賊に主導権を奪われ、それをメロエッテ家が取り返した場合、もう一つはメロエッテ家の中で何かしら問題が発生し、術者を変えざるを得なかった……この辺りかしら?」

「えぇ。その通りなのですよー」


 ますます機嫌が悪くなるノノンに対して、オリーブは相変わらず笑顔を崩さない。

 この状況だけを見ていると、二人は犬猿の仲なのではないかとすら思えてくるのだが、実際は出会ってから二日目である。といっても、状況が状況なので仲よくしろという方が無理だというのは十分に承知しているつもりではあるのだが……


「それで? この問答に何の意味があるの?」

「おやおやぁまーだーわかりませんかー? 答えは至極単純なのですよー」

「というと?」

「つーまーりーわーたーしーはー術者のー意向に沿って動くことしかできないーたーだーの傀儡(にんぎょう)なのですよーそんな私をー問い詰めて答えが出るとでも思っているのですかー?」


 オリーブはあくまで笑顔を浮かべたまま誠斗たちの姿を見ている。


 確かによくよく考えてみれば、簡単にわかる結論だ。要するに敵になるのも味方になるのも術者の意向次第ということだ。別にここまで回りくどい説明など必要なかったといえばないのかもしれないが……


「……というわけでー私が敵かー味方かーはっきりとーさーせーたーいーのーなーらーメロエッテ家があなたたちにー対してーどんな立場なのか調べればいいのですよー」


 あまりに単純な結論に呆然とする、面々を前にしてオリーブは笑顔を崩さないままゆっくりとした口調で長い時間にわたった問答を終わらせた。

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