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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十八章
149/324

百二十駅目 夜空を映す泉

 獣人たちが宴を開いている広場から少し離れた場所にある泉のほとり。

 オリーブを操っていた術者の撃退のために水を集めた泉とはまた別のところのようだ。


「なんだ。こんな近くに泉があるなら、ここから水を取っていけばよかったわね……」

「……それは、ダメ……ここ、は……特別なの」


 リラはそのまま泉のそばまで行ってほとりに腰を下ろすと、誠斗たちにも自分の横に来るようにと促す。

 誠斗は彼女の誘いに応じてリラの横に腰掛ける。


 夜なので大きさなどはよくわからないが、この泉の水は相当澄んでいるらしく、木々の間から見える星々や月をその水面に映している。


「……きれい」


 ノノンの口からそんな声が漏れる。

 当然の反応かもしれない。目の前の泉は夜空の星星の光で光り輝いているようにすら見える。その風景を見ていると、まるで別の世界を除いているかのような気分になる。


「……この、泉……は、ほかの、世界……に、つながっているっていう……言い伝え、があるの……」

「別の世界?」

「……そう、別の……世界。もしかしたら、あの夜空、は……私たち、が……知らない、世界の……星空かも……しれないって、みんな……言ってる」


 そう言いながらリラは泉の水にをじっと見つめながら言葉を紡ぐ。その表情はどこか儚くて悲しげだ。


「……そして、ここ……は、獣人に……とって、大切、だった……人が、最期を……迎えた、場所でも……あるの」

「大切な人?」

「そう……大切な人。私、が生まれる……前に死んじゃった……みたいだけど」


 リラは酒の入った杯をそのまま湖に投げ込んだ。


「……あの、ヒトも……お祭り、好きだった、らしいから……おばあちゃんが、お祭り……の度に……こうしてたの」

「そうなんだ……」

「そう、だから……みんな、を……ここに連れてきて、紹介……したかったの。私にも……人間の、友達ができたって……ココット、も……いたら、もっと……よかったんだけど、マコトが……起きる前に、寝ちゃったの……」


 なんとなく事情が読めてきた。どうやら、誠斗は起きるのがあまりに遅すぎたようだ。というよりも、眠ってしまうほどココットの方に問題があるとも言えなくはないかもしれないのだが……


「それにしても、他の世界ね……」

「……うん、その……人は、他の世界の……可能性について、研究……するために、この辺り、に……住んでたの」

「そうなんだ……ほかの世界ね……」


 ほかの世界。

 誠斗が日本からそこに飛ばされたことを考慮すると、異世界の存在があり得ないということはない。この泉について研究していた人物が何者なのかは知らないが、その人物もまた何かしらの事情から異世界の存在を感知していたのかもしれない。

 そして、同時にもしかしてここに飛び込んだら本当に異世界につながっていて、元の世界に戻れるかもしれないという考えすら浮かんでくる。


「……マコト、は……異世界に、興味があるの?」


 その様子を見て、何かを悟ったのかリラがそんなことを尋ねる。


「……うん。興味はあるよ。どうやったら、異世界に行けるのか、どういう原理で異世界の移動という現象が起こっているのか……」

「マコト、は……異世界に、行きたいの?」

「うん。少し前だったら間違いなくそうだって答えていたと思う」


 誠斗の答えが不可解だったのか、リラはゆっくりと首をかしげる。


「どういう、こと?」

「……信じられない話かもしれないけれど、ボクはもともとこの世界の出身じゃないんだよ。だからさ、異世界に行きたいっていうよりは、帰りたいに近いのかもしれない。でも、今は少し違うかな」

「……そう、なの?」

「うん。新しい目標もできたし、何よりもこっちに来ているのはボクだけじゃないからね。仮に帰れるんだとしてもまだそうするわけにはいかないよ」


 言いながら誠斗は小さく笑みを浮かべてみる。

 それを見たリラはクスクスと笑い声をあげた。


「……マコト、なんだか……面白い」

「そう?」

「うん。目標、も……あるし、なにより……も、マコト、なら……何とかく……それが、できそうな気がする」

「そっか……」


 そう言いながら誠斗は泉に映る星空ではなく夜空に広がる星空へと視線を移す。


「……目標ね。前にマノンが言っていたわ。マコトの目標の手助けがしたいって」


 そんなとき、後ろから話しかけ来たノノンの口から出てきた名前に誠斗はかつてシャルロの森で近くに住んでいた妖精の少女を思い出す。

 いつの間にやら姿を消してしまった彼女は今、どこで何をしているのだろうか? 同じようにこの星空を見上げているのだろうか? そして、どうしていなくなってしまったのだろうか?


「やっぱり、気になるの? マノンがどこに行ったのか……とか」


 ノノンがさらに言葉を紡ぐ。


「気になるよ。どこへ消えたんだか……」

「……そう」

「……マコトの、知り合い……どこかに、行っちゃったの?」


 ノノンとの会話の間にリラが割って入ってくる。


 誠斗はその質問に対してリラの頭をなでながらゆっくりと答えた。


「……そう。ボクがこの世界に来て一番最初にあった人。正確に言えば少し違うのかもしれないけれど、そんなところかな。そんな人だったんだけど、ある日突然いなくなっちゃって……本当に今はどこで何をしているんだか……」

「そう、なんだ……」


 リラは顔を伏せてきらきらと光る水面に視線を落とす。


「どうかしたの?」


 そんな彼女の姿を見て、今度は誠斗が話しかける。

 リラはしばらく、水面を見つめていたがやがて顔をあげると、首を小さく横に振った。


「……なんでも、ない……ただ、ちょっと……昔、の……こと思い、出しただけ……」

「そっか……」


 獣人の寿命は人間のそれに比べるとかなり長い。

 だから、誠斗よりも幼く見える彼女もこれまでたくさんの経験をしてきたのだろう。


 それこそ誠斗が経験したことなど、彼女からすればほんの些細なことなのかもしれない。


 でも、だからこそ誠斗は彼女の頭に手を置いたままさらに言葉をかける。


「……リラの過去に何があったかなんてボクは知らないけれど、少なくともボクはまたマノンと会えるって思っている。実際にもう会えないかもって思った友人の姿を見かけたりしているしね。だからさ、あきらめないで待ってみたら? その、とんだ的外れな助言で傷つけちゃったりしているなら申し訳ないけれど……」

「ううん、大丈夫……ありがとう」


 リラはそう言って小さく笑みを浮かべた。

 そして、彼女はもう一度水面を見つめた後立ち上がり、くるりと誠斗の方に振り返った。


「広場に、戻ろう?」

「うん。そうだね」

「そうね。それで? そこの死霊もついてくるの?」


 早速歩き出そうとする誠斗とリラの横でノノンが終始黙ったまま泉の水面を見つめているオリーブに声をかける。

 オリーブは少し間を置いた後にゆっくりと首を横に振る。


「いや、先に行っていていいのですよーわーたーしーはー勝手にー合流しますのですよー」

「……そう。ならいいわ。行きましょう」


 ノノンのその言葉を聞いて、誠斗とリラ、ノノンは広場に向かって歩き出す。


 去り際、誠斗はオリーブの方を振り返ってみるが、彼女はただただ星空を映している水面を眺めているだけだ。


 誠斗は少しの間、彼女の姿を見ていたが、ノノンに名前を呼ばれると誠斗は返事をしながら急いで広場の方に戻っていった。

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