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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十八章
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百十八駅目 戦いの後の宴(前編)

 どれくらい寝ていたのだろか? 誠斗はゆっくりと重いまぶたを開けると視界一杯にきれいな星空が広がっていた。少なくとも、夕方までには広場に到達していたので、二時間か三時間ぐらいだろうか?

 そんなことを呆然と考えながら、視界一杯に広がる星空をじっくりと眺めた後、誠斗はゆっくりと体を起こす。


「あっマコちゃん! 起きたのぉ! 遅いって!」


 そんな誠斗の体を勢い良くたたくのは顔面を真っ赤にしたココットだ。

 その手に木製のジョッキが握られているあたり、もしかしたら彼女は酒を呑んで酔っ払っているのだろうか?


「あぁマコト。起きた?」


 そんな彼女の背後から少々のんきなノノンの声が聞こえてくる。


「ノノンもいるの?」

「うん。いるよ」


 誠斗が改めて呼びかけると、ココットの背後からノノンが姿を現す。


「これ、どういう状況なの?」

「あーココットのこと? それなら、獣人にお酒を飲まされてすっかりと出来上がっているよ」

「そんな報告いらないよ。何がどうなったら宴会なんかに発展するのさ?」

「……まぁマコトは無事だっていうことはわかっていたし、獣人たちはお酒が大好きだからね……マコトが起きるまでしばらくいるだろうから、そのまま宴会でもしようっていう話になったの。ちょっと待ってて。マコトの分ももらってくるから」


 もしかしたら、ノノンもそれなりに酔っているのかもしれない。

 ふらふらとした足取りで去っていくノノンの背中を見送りながら誠斗は現状について思考を巡らせる。


 まず、オリーブの所在だ。周りを見てみる限りでは彼女の姿は見当たらない。また、ノノンの“マコトは無事だとわかっていた”という言葉から、自分が気を失った直後もしくは宴会が始まる前までにそのままでも問題ないという判断が下ったのだろう。ただ、だからといって、起きてたときに誰も心配していたというような内容の言葉をかけてくれなかったのは若干傷ついているが……


 そして、次に先ほどのノノンの言葉。

 誠斗は日本の基準でいえば未成年だ。なので酒などこれまで飲んだことはない。


 ノノンが持ってくる酒というのがどんなものなのかはわからないが、ココットの様子を見る限り強めの酒なのではないかと不安になってくる。


「……おーこれはこれは、ようやく起きたのですかー?」


 そんな誠斗の思考を遮るようにのんびりとした声が聞こえてくる。

 声の主を探すべく、周りを見てみるが視界に入るのはどこからか持ってこられたらしい樽を抱いて寝ているココットと仰向けで気持ちよさそうに寝息を立てているリラのみだ。


「誰?」

「おやおやぁひどいですねーわーたーしーの声。忘れちゃったのですかー? あぁそれとー見るべきは上なのですよー」


 その声に誘導されるような形で上を向くと、誠斗の上空にふわふわとオリーブが浮かんでいた。

 彼女は周りの人たちと同様にジョッキを持っていて、頬が若干赤くなっているあたり、一緒になって酒を飲んでいるようだ。


「……何してるのさ?」

「私だってーお酒ぐらい飲みますのですよーえぇー十六翼評議会(わたしたちー)とっても酒好きなのですよーえぇ。まぁ今の人たちは知りませんけれどねーというか、現存していますですかー?」

「議会ならちゃんと残ってるよ。中身はよく知らないけれど……っていうか、そこじゃなくてさ」

「なんですかー?」


 とぼけているのか、それとも本当にわかっていないのか、オリーブはこくんと首をかしげる。

 そんな彼女を前に誠斗は大きくため息をついた。


「……わかってますですよーあなたが言いたい事はーでーもー世の中にはー知るべきこととー知るべきではーないことがありますのですよー」

「あなたの事はそれに該当すると?」

「そうですねーそうでもあるし、そうでもないかもしれませんねーあなたが知ってもいい範囲の話しをしますとですねー私はしばらくあなたと行動を共にするのですよー」

「それが術者の命令?」

「えぇえぇ。察しがよくて助かるのですよー」


 誠斗の回答が満足だったのか、オリーブは口元を三日月形にゆがませてにんまりとした笑みを浮かべる。

 その表情を見ていると、何か含みがあるように見えてしまうが、おそらくそれは知ってはならないことの部類に入るのだろう。


 誠斗は思ったよりも厄介なことになったと考えながら大きくため息をついて後頭部に手を回す。


「まったく……何がどうなっているんだか……」


 訳が分からない。今のところはそれ以上の言葉は出そうにない。

 オリーブの向こうにいるであろう術者もそうだし、その目的すら全く読めない。


 ココットもそうだが、オリーブを操っている術者もそしてオリーブ自身も敵なのか味方なのかいまいち判別がつかない。

 そういった意味では純粋に味方だと断言できるのはノノンだけかもしれない。もちろん、二人が必ず裏切ると思っているとか、まったく信頼していないとかそういうわけではないのだが、いまいち心配になるような状況だ。


「さぁてぇーそういうわけでーマコトさんもお酒、飲んだらどうですかー?」

「いや、ボクはその……飲まないから」

「いやいやぁなにを言っているんですか? 獣人たちは酒好きな分、酒を見る目がありますのですよーでーすーかーらー彼らの選ぶーお酒なら、間違いありませんですよーというわけで、ぐいっと行っちゃいましょー!」

「そうそう。その通り。というわけで持ってきたから」


 誠斗が何とかして酒を断ろうとしている中、オリーブとの話をしている間に戻ってきたらしいノノンが何とも絶妙なタイミングでジョッキを誠斗に差し出す。


「まぁまぁ一杯飲みましょ。難しい話はそれから」

「いや……でも……」

「でももだってもないの。これね。獣人たちがエルフ商会を通じて東の国から仕入れてきた銘酒らしく手ですね。まぁぐいっと飲んじゃってくださいよ」


 ノノンから押し付けられたジョッキの中身をのぞいてみると、昔父親がよく飲んでいた日本酒と似たようなにおいのする透明な酒が並々と入っている。


「いや、あの……お酒は本当に……」


 これは無理だ。そう断ろうとした瞬間、誠斗の手の中から酒が入ったジョッキが消えた。


「飲まないならわらしが飲むねー!」


 いつの間にか起きていたらしいココットはそのまま一気にジョッキを傾けて酒をのどへと流し込む。

 こんな状況のココットを見て、大丈夫なのかと思ってしまうのだが、どう止めていいのかわからないのでとりあえず状況を見守ることにする。


「まったく。マコトもつれないわね……」

「残念ながら元いた世界ではお酒を飲めるのは二十歳からっていう決まりがあって、ボクはまだそこに達してないから」

「ふーん。世界が変われば事情も変わるのね。まぁそれなら無理に飲ませるのもかわいそうかな……量が少ないのを取ってくるね」


 わかっているのかいないのか、ノノンは立ち上がって再び獣人たちの中へと戻っていく。


 誠斗は重々しくため息をつきながらその背中を見送る。

 納得したように見せて、まだ誠斗に酒を飲ませることはあきらめていない様だ。


「おやおや、せっかくですからージョッキに入った水でも用意しますかー? そうでもしないとー納得しなさそうですしー」


 誠斗は頭上から聞こえてきた魅力的な提案にコクコクと首を縦に動かす。

 そのあと、オリーブは“待っていてくださーい”というま伸びた声を残してスッと姿を消す。おそらく、近くの泉に水を取りに行ったのだろう。


 彼女がノノンよりも早く戻ってくるようにと願うとともに変なモノを持ってこないかと心配しながら、誠斗は再び樽を抱いて寝始めたココットのそばで横になって、満天の夜空を見上げた。

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