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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十七章
145/324

百十七駅目 広場に戻ると

 泉を出てから約一時間。

 少しだけ傾いていた太陽は少しずつ西の方へ向けて傾いている。


 まだ時間に余裕はあるが、少し急いだほうがいいかもしれない。


 誠斗は少し歩調を早めながら広場へ向かう。


「ノノン。あとどのくらいで到着するかわかりますか?」

「んーそうだね……少なくとも日が落ちるまでにはつくと思うよ。順調に進んでいるし、これなら問題なく解決に向かえるんじゃないかしら?」

「……問題なくね……あの状況をうまく打破できるという前提に立てれば確かにそうかもね」

「まぁそのときはその時です。ですよね?」

「うん。まぁそうだね」


 どうやら、後ろの二人は行き当たりばったりでなんとか行けると思っているようだ。

 そんな調子でいいのかと思うが、その一方で自分は少し事態を悲観しすぎているのではないかとも思う。


 いずれにしても、何が起こるかわからないのでそれ相応の対処は必要だと思うのだが、そのあたりはどうなのだろうか?


「マコト。状況がわからない以上、何が起こるかわからないっていうのはあるかもしれないけれど、多少楽観的にいかないと逆にうまくいくものもいかないわよ。まぁ楽観しすぎても行けないのはわかっているけれど……でも、もう少しいい方向に物事を考えない?」


 誠斗の心情を察したのか、ノノンがそんなことを言い出した。


「わかっているけれどさ……あの空気をどうにかできるかと聞かれると少し不安で……もちろん、獣人がリラのいうことを聞かないなんてことがないって信じたいけれど……」

「いやまぁ確かにその信じられないことが起こる可能性もなくはないからね……気を付けるに越したことはないでしょうけれど、石橋をたたきすぎていたら一歩踏み出せるものも踏み出せないわよ。今回の事案もあなたが進めたい計画についても……だから、大丈夫だって思いながら一歩踏み出してみましょう」

「そんな感じでいいのかな……」


 何だろうか。やはり、ノノンは事態を楽観視しすぎているのような気がする。

 確かにリラを連れていって、彼女の口から保護されていたということを言ってもらえれば獣人たちもそこまで邪険にすることはないだろうが、獣人たちからの協力を得られたとしてもオリーブの方をどうこうできるかと聞かれると少し話が変わってくるような気もする。あの状況を見る限り、彼女は突然現世に呼び戻された関係でかなり警戒しているように見える。もしかしたら、このままこちらにとどまろうなんて考えているのかもしれない。


「……まぁなるようにしかならないか……」


 誠斗がぽつりとつぶやいた言葉は森の中へと消えていった。




 *




 森の中にある広場の手前。

 誠斗たちは茂みの中から広場の状況を探っていた。


「……これ……どういう状況?」


 そんな中、誠斗がそんな一言を漏らす。


 最悪の場合、獣人とオリーブの対立、よくてもお互いに距離を取って様子見ぐらいだと思っていたのだが、今の広場の状況を見る限りそのいずれかでもなく、獣人たちとオリーブは互いに酒を酌み交わし、軽く宴会のようになっていた。


「……あーやっぱり……獣人って酒好きばっかりで何かとつけて宴会やっているような種族だし……」

「わたし……も、そう。だと……おもってた」


 驚いている誠斗とココットに対して、ノノンとリラは当たり前だといわんばかりの態度でその様子を眺めていた。

 その二人の様子を見る限りではある意味で予想がついていたのかもしれない。


 そう考えれば、ノノンの楽観視もある程度まで納得できる。ただし、オリーブに対する術のことを考えれば、必ずしもそうとは言えないのかもしれないが……


「ノノン。これってこのまま入っていっても?」

「まぁ問題はないと思うわ。宴の邪魔をしないのならね」


 ノノンはすくっと立ち上がって、リラとともに茂みから出ていく。

 それから少し遅れて誠斗とココットも茂みから出ていあるいていく。


 その音に気が付いたのか、宴を楽しんでいた獣人たちの視線が一気に誠斗たちに集まる。


「……リラ?」


 動きを止めている獣人たちのうち一人がそういいながら立ち上がる。


「……おかあ、さん?」

「リラ!」


 リラの母親だと思われるその女性はリラを見かけるなり真っすぐと駆けよってきてリラを抱きしめる。


「よかった。よかった無事で……心配したのよ」


 しばらくの抱擁の後、女性はゆっくりと顔をあげる。


「……あなた方、リラを助けてくれていたのですか?」

「そうよ。まぁ結果的にそうなったとかその程度だけど」

「そうですか。本当にありがとうございます」


 女性はそのまま立ち上がり、誠斗たちに頭を下げる。


「いえいえ、気にしないでください……とそれよりも……」


 ノノンはそのまま視線を広場の中心部……オリーブがいる方向へと向ける。

 片手に葡萄酒とみられる酒が入っているカップを持った彼女はその視線に答えるように顔を誠斗たちの方へと向けた。


「……私の事でしたらー心配いりませんですよーまーあー新しい術者にー操られてはいますけれどねー」

「……随分と早く乗っ取られたものね。普通ならもう少し時間がかかるはずだけど?」

「そーれーはー相手がー出した条件にーわーたーしーがー同意したからですよー」


 彼女はカップを持ったまま立ち上がり、誠斗たちの方へ向けて歩き出す。


「……条件?」

「そうですよーたった一つ。それも簡単なー条件ですよーそれをするだけでー私はーしばらく現世につなぎとめてもらえるそうでーそれもー条件さえ守ればそれ以外はー自由なのですよー」


 誠斗の目の前まで来たオリーブはそのまま誠斗の額に右手の人差し指を伸ばす。


 その様子を見たノノンが怪訝そうな表情を浮かべる。


「……何をする気?」

「大丈夫ですよーすーぐーにー終わるのでー」


 オリーブの手の先から淡い光が発せられる。


「えっ?」


 状況がわからず固まっている誠斗をよそに光は徐々に強さを増し、誠斗の体を包み込み始めた。


「マコト!」


 事態がまずい方向へ動いていると判断したのか、ノノンが間に割って入ろうとするが、彼女含めココットやリラも周りにいた獣人たちに取り押さえられる。

 誠斗も誠斗でその場から離れようとするが、まるで金縛りにでもあっているかのように体が動かない。


「なにを……」

「大丈夫ですよーそのままーすこーしだけ眠っていてくださいねー」


 オリーブのそんな言葉を最後に誠斗はゆっくりとその意識を闇の中へと沈めていった。

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