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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十七章
144/324

百十六駅目 泉から広場へ

 泉のほとり。

 やっとのことでそこに到着した誠斗とノノンは勢いそのままにリラの肩につかみかかった。


 それをされたリラは突然のことに状況が飲み込めず、ココットと一緒に助けを求めるような視線を誠斗に送る。


「リラ! ちょっと一緒にきて! ついでにココットも!」

「……えっ? 何? どういう……こと?」

「あの……状況がまったくわからないのですけれど……」

「そうだよノノン。状況説明ぐらいしないと」


 困惑するリラとココットからノノンを引きはがしながら誠斗が言う。

 その意見に賛同するようにリラとココットは何度もうなづいき、それを見たノノンは小さくため息をつき、ヤレヤレと首を振る。


「そんなにのんびりとやっていられないでしょう……とりあえず、事情は移動しながら説明するからついてきて」


 ノノンはそのまま踵を返して広場の方へと歩き始める。


 リラとココットは一瞬、お互いに顔を見合わせていたが、なんとなく事情が切迫していると感じたのか、小さくうなづきあってからノノンの背中を追って歩き出し、誠斗もそのあとに続いて歩き出した。


 先ほど、通ったばかりだということもあり、木々が少し倒れているので最初に比べるとある程度歩きやすかった。


 それもあり、皆の歩調は少しずつ早まっていき、気が付けば木々をかき分けながら走り始めていた。


 ところどころ足を取られて転びそうになるが、そうならずに素直に走れる当たり、ノノンが何かをしているのかもしれない。


「それで? どういう事情でリラの力を借りたいんですか?」

「……それ、わたし、気になる」


 走り出してすぐにココットとリラがそれぞれノノンに事情を尋ねる。

 それに応じるような形で誠斗とノノンはところどころ言葉を研ぎらせながらもここに至るまでの経緯の説明を始めた。


 とりあえず、死霊術の術者は撃退したこと、そのあともオリーブが現世に残っていること、オリーブと獣人それぞれから敵ではないかと勘繰られていること……

 最も、オリーブが術から解放された時点で獣人と和解するのはある程度予測がついた。オリーブとて望んで戦っているわけではないだろうし、あの場で戦いが起きていない時点で互いが望んで戦っているわけではないというのは明らかだ。


 だからこそ、今のうちからまだ何とかできる。


 オリーブを操ろうとしている新しい術者の存在が気になるが、今はその制御が完璧になる前に彼女を成仏させるのが優先だ。


「ノノン。そういえば、聞き忘れていたけれど死霊術を発動するのってどのくらいかかるの?」

「まぁ今回は乗っ取りだから……半日ぐらいかな?」

「半日か……」


 誠斗は小さくため息をつく。

 仮に自分たちが術者を撃退した直後にのっとり始めたとすれば夕方には術が完全になるということだ。


 森の中なので太陽は見えずらいが、時々見えるそれは南を超えてすでに西の方へと傾き始めている。このままだと時刻が夕方になるのは時間の問題だろう。


「……少し急いだほうがいいかもな」

「急ぐしかないでしょ。ほら、ちゃんと走って」


 ノノンに促されるような形で一行は木々をかき分けて広場に向かう。

 今頃ながらあの泉のそばに全部荷物を置いてきてしまったなと思うのだが、そのあたりのことは今は気にしない方がいいだろう。

 とりあえず、スピードアップを図るために歩幅の小さいノノンの背中をつかんでリュックに入れた後、ノノンと体格が似ているリラも同様にリュックの中に入れる。


 あとは誠斗とココットだが、二人とも体力はそこそこあるのでこのまま走り抜けることにした。


「あの戦闘が行われていた広場からあの泉って結構離れているんですか?」

「うーんまぁそうだね。そこそこ離れているから急がないと手遅れになるかもしれない」

「手遅れって、新しい術者がそのオリーブっていう人をもう一度乗っ取るっていうことですか? でも、間に合ったところで術は止められないのでは?」

「その疑問については私から説明するよ」


 誠斗の言葉に対して疑問を持ったココットに対してノノンが声をかける。

 彼女はぐっと体をリュックから乗り出す。


「ココット。説明しづらいから後ろに回ってもらってもいい?」

「はい。わかりました」


 ノノンの言葉を聞いてココットは一瞬歩みを緩めて誠斗の背後に回る。


「えっと、術を防止できるかという話でよかった?」

「えぇ。そうです。やっぱり、聖水をかけるとかそういったあたりですか?」

「いや、あの状態だとそうじゃないみたい。私が知る限りだと、死霊の周りに結界を張って干渉を阻止すれば乗っ取りがそれ以上に進むことはないの。そのまま放っておけば死霊は……オリーブ・シャララッテは成仏するハズよ。マコトもそのあたりまで大丈夫?」


 ノノンの問いかけに誠斗はうなづくだけで返事を返す。

 それでちゃんと伝わっているかわからないが、わざわざ口に出して返答するまでもないだろう……いや、どちらかといえば、息が上がり始めていて少し返事をするのがつらいというのが真相だ。


「マコトさん。大丈夫ですか?」

「えっ……うん。大丈夫……だけど……少し休憩ってことで歩いていこう?」


 気持ち的にはもっと急ぎたい。しかし、誠斗の少ない体力がそれを許さない。

 正直な話、もう少し体力があると思っていたのだが、先ほどまでの行動……聖水をかき集めて、それを降らせて泉に戻るという動作で思っていた以上に体力を消耗してしまっていたらしい。


「んーまぁ若干の不安は残るけれど、歩いて行ってもぎりぎり夕方になる前に到着できるんじゃないかしら? もちろんゆっくりと行くわけにはいかないけれど……」

「……わかった。ノノンがそういうならそうするよ……」


 上空を飛んで広場と泉の間の距離を実感しているであろうノノンの見立てなら間違いはないだろう。今のところ方向がわからないということもないし、トラブルさえなければ無事に広場に到達することができるはずだ。


「はぁ……だったらなんで最初は知ったのさ?」

「えっ? あぁそれは単純に終始歩きだったら間に合いそうになかったからよ。この辺りまで走れば大丈夫そうだから歩いてもいいかなって思ったの。それに道の方もさっき空から見た記憶を頼りに簡単な地図を魔法で作ったから迷うこともないから安心して」


 ノノンはしてやったりという表情で手元の紙をひらひらとさせる。


 いつの間にそんなものを作ったのかわからないが、ノノンがそれを元に道案内をするのなら大丈夫だろう。


「それだったら、道案内をお願いしてもいい?」

「もちろん。私が案内するから安心して進んで。とりあえず、今のところは真っすぐと行けば大丈夫。広場までの間に崖や川はないみたいだから、最短距離をまっすぐ進めばちゃんと到着するはずだから……ルートからそれそうだったら教えてあげる」

「うん。わかった」


 先ほど、リラたちが待っていた泉に行くときよりも確実そうな道案内なので誠斗は今度は大丈夫だと安心しながら歩みを進める。


「あっマコト。やっぱり、直進じゃなくて少し右寄りに進んで」


 前言撤回。やはり、少し不安になってきた。


「さて、さっきは奮発して重力魔法で少しだけ体を浮かしていたけれど、ここからはちゃんと地に足をつけていきましょう。マコト、私が声をかけるまで直進ね」


 ノノンのそんな声を聴きながら誠斗は淡々と目的地を目指して歩みを進めていった。

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