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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十七章
142/324

百十四駅目 広場の状況

 森の中の広場。

 つい先程まで戦闘音やら衝撃で騒がしかったその場所は嫌に静まり返っているように感じる。


 恐る恐る様子を探りながら広場の近くの茂みから顔をのぞかせる。

 広場では死霊として召喚されたと思われる女性とそれを囲むたち獣人たちという構図が出来上がっている。双方の様子を見る限りお互いに状況が把握できずににらみ合いをしているのだろう。


「……ノノン。どうする?」

「どうするもこうするもあの死霊をどうにかしないと……というか、人は見た目によらないわね。あんなのが十六翼評議会のメンバーなんて……」


 確かに獣人に囲まれている死霊は見た目だけでいえば年端もいかない少女だ。

 だが、実際に十代半ばから後半ぐらいであろうサフランが議長代理を務めているあたり、ありえない話ではないのだろう。というよりも勝手なイメージだが、十六翼評議会の面々は結構若いのではないのだろうか? それとも、サフランが偶然若いだけであとはそれらしく年寄りだったりするのだろうか?


「マコト。ちょっと聞いてるの?」

「えっ? あぁごめん。何だった?」

「なんだったじゃなくて、広場に行きましょう。こんなところで見ててもしょうがないし、双方に敵じゃないことをアピールしながら接触しましょう」


 そういいながらノノンは茂みから出ていこうとするが、誠斗は彼女の肩をつかんでそれを制す。


「どうしたの? マコト」

「どうしたのじゃないよ。さっきまでのシリアスな感じはどこへ行ったのさ」

「いや、ほらきっと大丈夫よ。うん。大丈夫。カノン様はこういう時はとりあえず突撃すればいいと……」

「いやいやいや、少しぐらい作戦立てないと」


 目に見える戦闘が終わっているからか、油断しきっているのかもしれないが、ノノンの考え方は少し危ないように感じる。

 もし、何かしらの勘違いから戦闘に発展すれば圧倒的に不利になるのは間違いない。


 とりあえず、それを避けるために何かしらの策を講じる必要がある。


「……そうだ。リラ。リラを連れていけばいいんじゃない? それなら少なくとも獣人たちは襲ってこないだろうし」

「あーでも、どうだろ? 逆に変な誤解を持たれて襲われそうな気もするけれど……とにかく、行きましょう。こんなところでうだうだ言っていても始まらないわ。とにかく行きましょう。私の中の第六感的な何かが大丈夫だと告げているし」

「ダメ。それ当てにしたらダメな奴」


 誠斗は必死にノノンを止めようとするが、彼女はそのあとも大丈夫だと言い張り続け、ついには広場へと出ていく。誠斗も少し迷ったが、ノノン一人だけ行かせるのも不安なので周りをきょろきょろと見ながら彼女を追いかけ始める。

 広場に足を踏み入れると、獣人たちもオリーブ・シャララッテも一斉にその視線を誠斗たちに向ける。


 それにびくびくとおびえる誠斗にたいして、ノノンは自信満々に堂々とした態度で獣人とオリーブの間へと入っていく。


「……誰なのですかー? あーなーたーは妖精さんとーただの人間さんなのですかー?」


 彼女はどこか聞き覚えのあるような特徴のある口調でこちらに語り掛ける。

 いつか出会ったドラゴンの薬を買っていた少女とどこか似たような雰囲気を持つ彼女は流し目で誠斗たちの様子をうかがっている。


「私は大妖精のノノンです。横にいる人間はヤマムラマコト。あなたがた……うん。双方の敵のつもりはありません。少し状況を知りたいというだけです」

「そーですかー」

「はい。そうです」

「そう」


 刹那、オリーブが抜いた剣の切っ先が誠斗ののどの目の前に突き出される。

 それを握るオリーブの目は警戒心むき出しで、誠斗ですらオリーブがあからさまにこちらを敵視しているのがうかがえる。


「いや、あの……私たちあなたたちの敵じゃ……」

「黙りなさーい。なのですよー。あーなーたーたーちー私の主導権を握りに開始に来たのですよねー?」

「えっいや、それは違うよ。そうじゃなくて、本当に状況が知りたいだけで」

「……静かにしてください。私だってー誰かに操られて好きほーだいされるのはこりごりなのですよ。さっきー術者の術が解けるのを感じたのにーまーたー誰かが操ろうとしているのを感じているのですよー。だーかーらーさっさとーそんな試みはやめて帰りやがれなのですよー」


 オリーブはこちらの言葉に耳を貸す様子はなく、切っ先を誠斗の喉元に突き付けたままだ。


「おやおやぁ。こんなタイミングで飛び出してきてー無関係なんて言うのですかー?」

「はい。私たちは無関係ですよ。なので、いったん引きましょうか。ねぇマコト」

「えっ? うん。そうだね」


 とりあえず、これ以上刺激しない方がいいという判断が働いたのか、ノノンは両手をあげて後ろへ下がる。

 誠斗もそれにしたがって少しずつ後ずさりする。


「ねぇ。どうするのさ?」

「……静かに。話はあとでしましょう」


 後ろへ下がりながら一言二言会話を交わし、茂みの中へと戻っていく。

 相変わらず同じ場所に立っているオリーブはいまだに切っ先をこちらに向けたままだ。


 そのまま誠斗とノノンはおとなしく茂みの中に戻る。


「……どうしよう」


 茂みに入ってからノノンが深刻そうな表情を浮かべながら口を開く。


 確かにあそこまで警戒されるのは予想外だろう。何よりもどこかの誰かがオリーブを支配下に入れようとしているという最悪のタイミングでの接触となってしまった。

 そのことにより、オリーブから敵だと誤認され、その結果操られていたオリーブと戦っていたであろう獣人たちにも警戒されてしまった可能性がある。


 あの時、あまり獣人たちの方を観察していなかったが、改めて茂みから覗いてみると彼らはこちらの方を見てあからさまに警戒しているのがうかがえた。


「……ちょっと、どうするのさ」

「……そうね。どうやら、オリーブは魔法か何かで獣人たちを回復させて信頼を勝ち取っているでしょうから、彼女の誤解を解かないことには前には進まないわ。いっそのこと、リラあたりにでも頼ってみた方がいいかしら?」

「最初そういったよね?」

「ん? そうだっけ? とりあえず、行こう」


 ノノンはそのまま誠斗の手を引っ張って浮上する。

 先ほどまでの作戦能力はどこへ消えたのか、今はどう見ても自由気ままに行動しているようにしか見えないのは気のせいだろうか?


 そんなノノンに引っ張り上げられるような形で今までよりはるかに低速で木々の間を移動する。


 この行動にはオリーブが落ち着くまでの時間を稼ぐというものもあるのだろうが、これはこれで移動中に暇を持て余しそうだ。


「……にしても、どうしたものかな……」


 まるで図られたかのようなタイミングで起こったこの出来事は果たして偶然の産物なのだろうか? それともだれかが仕掛けた罠なのだろうか?

 そのあたりの事情はどうやっても読めそうにない。仮にこの騒動自体が何かしらの形で仕組まれていた場合、その目的は何なのだろうか? 水色の少女ことフウラ・マーガレットがマーガレット救出の妨害をしようとしているのか、はたまた偶然別の陰謀に巻き込まれたのか……


 そういったことを考えるには現状ではあまりに判断材料が少なすぎる。

 少なくとも、もう少し状況を把握する必要があるからだ。


 そこまで考えて、誠斗はある可能性にたどり着いた。


「……って待って」

「なに?」

「あのさ……もし、どこかにいる術者がオリーブを支配下に置いたらまた戦いが始まったりするんじゃないの?」


 誠斗が尋ねると、ノノンは大きくため息をつく。


「なにを言っているのよ。それを防ぐためにいろいろ考えているの。とりあえず、リラとついでにココットを迎えに行くわよ」


 彼女はあきれたような口調でそういいながら速度を上げる。


 誠斗からすれば、ノノンはついさっきまでその可能性について忘れていたのではないかと思うのだが、その真相はわからない。

 そのあと、二人は時々会話を交わしつつ、リラとココットが待っている泉の方へと向かった。

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