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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十七章
141/324

百十三駅目 奇襲作戦

 カルロ領南部に広がる広大な森。

 誠斗はノノンにつかまれてその中を移動していた。


 目の前から森の木々が迫ってくるという風景にも少しぐらい慣れたところで視界の端に目的の泉が映る。


「ノノン! 見えた! 左前方!」

「了解! 旋回するよ!」


 一気に遠心力が加わり、泉の方へ向けて急旋回する。

 木々をきれいによけながらノノンは泉の方へと直進する。


「マコト! もうすぐ着くから準備して!」

「準備って何をさ!」

「なんとなく言っただけ! とにかく、降りるよ!」

「わかった!」


 その会話の後、ノノンは一気に急降下して、最後にふわりと速度を落として泉のすぐそばに着地する。

 泉にたまっている水は先ほどいた泉と同様にきれいで底が見えるほど透き通っている。


「これなら大丈夫かな……とりあえず、浄化魔法を使うからカバンの中に水を入れる準備をして」

「うん。わかった」


 必要以上の会話はしない。あまり実感はないが、事は一刻を争う。獣人たちが持ちこたえるという保証はどこにもないから急がなければ手遅れにになる可能性すらある。


「……青き透き通る浄化の光よ。ここに降り注げ!」


 リュックの口を大きく開けている誠斗の前でノノンの言葉に呼応するような形で青白い光が泉に降り注ぐ。


「わっなにこれ!」

「浄化魔法の光ってぐらいわかりなさいよ! 気が散るから黙ってて!」


 ノノンはあくまで浄化魔法だと主張するが、今誠斗の目の前にあるのはそれとは程遠い荒々しい力の奔流だ。

 しばらく……といっても、実際にはモノの数十秒の出来事なのだろうが、力の奔流が収まった後、泉の水はキラキラとした光を放ち始める。


「……ふぅ何とか成功……それじゃ、カバンに水を」

「わかってますよ」


 誠斗はカバンの口を大きく開いたままそれを泉の中へと入れる。

 さすが、容量が実質無限とされているだけあってカバンはどんどんと水を吸い込んでいき、やがて目に見えて泉の水かさが減り始める。こうしてみていると、このかばんのすごさを改めて実感する。


「マコト。その辺で十分よ。これ以上は泉の水が枯れる事態になりかねないし」

「えっ? うん。わかった」


 確かにかなりの量の水を吸収しているような気もする。というか、目に見えて水かさが減る時点でおかしいといえばおかしいのかもしれない。


「それじゃあこれをもって広場に戻ろうか」

「そうね。マコト、カバンを背負ってから捕まって」


 ノノンが軽く空に飛びあがり、マコトの方へと手を伸ばす。

 誠斗はリュックの口をしっかりと閉じてからそれをしっかりと背負い、ノノンの手を取った。


「それじゃ、飛ぶよ!」

「わかった!」


 誠斗の体がふわりと上昇する。

 もうずいぶんと慣れてきた感覚だ。ノノンはそのまま高度と速度を上げて今度は一気に森の木々の上まで上昇する。


「マコト! 上空からの奇襲だからしっかりと狙いなさいよ!」

「了解!」


 そのままノノンが高度を上げてくと、森が視界の下へと広がり、その中にある広場も視界に収めることができた。

 ノノンも広場の位置を再確認できたようで緩やかに高度を下げながら広場に接近していく。


「マコト。今から広場の上空を通過するからそのタイミングで聖水の投下を開始して。そのまましばらく旋回するけれど、攻撃が飛んできそうだったら知らせてね」

「うん。わかった……攻撃が来たらよけれそう?」

「……よけれそうかどうかじゃなくてよけるの。じゃないと、私はともかくマコトは死ぬよ?」


 ノノンの口からさりげなく出た“死ぬ”という言葉に口を開くことができない。これから向かうのは戦場なのでその可能性があるということはわかってはいたが、改めてそう指摘されると体がこわばってしまう。

 それを感じ取ったのか、ノノンは誠斗の手をより強くつかむ。


「大丈夫……大丈夫だから……さっきも言った通り、私がちゃんとよけるからさ。マコトは術者に向けて聖水を投下することに集中して」

「……ありがとう。それと、お願い。ノノン……」

「うんうん。確かに願いは聞き届けたよ。それじゃ、そろそろ広場上空に到達するから構えて!」

「了解!」


 ノノンの声を合図に誠斗はリュックを前に抱えてリュックの口を開ける。


 やがて、誠斗の視界に術者とそれを守っている黒服の集団が入る。


「マコト! 投下!」


 ノノンの声が聞こえてきたのはその直後だ。

 誠斗はそれを合図に上空から一気に聖水を投下する。


 予想外の方向から降りかかってくる水の塊に驚いている様子を見る限り、奇襲は成功した様だ。


 ノノンはそのまま広場の上空をぐるりと回るように飛んで、すぐに森の方へと速度を上げながら移動する。


「ねぇ効果あったかな?」

「どうかな? とりあえず、あそこでのんびり見てたら危険だから少し離れた場所から確認しましょう」

「そうだね……最初にあの広場の様子を見ていた木の上とかはどう?」

「そうね。とりあえず、そこへ行きましょうか」


 ノノンはちらちらと背後を確認した後に今度は一気に急降下して、森の中に降りる。

 今頃、広場の方では上空から水を投下した犯人を躍起になって探しているだろう。もしくは獣人が何かしらの手段を使ってそれを仕掛けたと思っているかもしれない。


 目的の木の上に到達すると、最初と同様にノノンが少しだけ上に出て広場の様子を観察する。


「……ノノン! 様子はどう?」

「……うん。奇襲は成功したみたい。あとは呼び出された魂を成仏させるだけね……黒服の集団の方は……えっ? どういうこと?」

「ノノン。何かあったの?」


 頭上から聞こえてくるノノンの口調からして、尋常ではない事態が起きていると感じ取れた。しかし、誠斗の視力では広場まで見通すことができない。


「ノノン?」


 誠斗がもう一度名前を呼ぶと、ノノンは震えた声でゆっくりと状況説明を始める。


「……ウソ……なんで……なんで死霊術が解けてないの……術者はとっくの昔に逃げているのに……」

「えっ? それって……」

「……マコト。広場に行こう。もっと、状況をよく見たい」


 ノノンは誠斗のすぐ横まで降りてきて、真っすぐと誠斗の目を見て話す。


「何かあるんだね?」

「うん。どうしても近くで確かめたい……それにできればマコトも一緒にいた方がいいから」

「わかった。だったら、一緒に行くけれど……せめてなにが見えたか教えてくれる?」


 誠斗はあえて安全性の事は聞かない。そうしたところで無駄なことはわかっているからだ。

 その代わりにこれから行く広場で何が起きたのか、ちゃんと確認する必要がある。


 ノノンは少しだけ目をそらした後に再び誠斗の方を見て、口を開く。


「……なんかよくわからないけれど、仲間割れを起こしているみたい……それにどういうわけか、死霊が……いや、これは推測だけなんだけど……」

「死霊がどうしたの?」


 誠斗が尋ねると、ノノンは何か迷っているかのように視線をあちらへこちらへと動かす。

 それを少しつづけた後に何かの決意を固めたのか、彼女は真っすぐと……今度は誠斗から視線を外すことなく答えた。


「いまだに推測の域は出ないけれど、あの死霊……オリーブ・シャララッテは術者の意思とは関係なく行動している。実際に術者が退却してもその場に残っているし、戦闘を継続しようとしているようにも見えない。そのあたりの事実関係をちゃんと確かめたいの」


 ノノンが話した内容はあまりにも予想外な内容だった。

 最初、ノノンから聞いた話を聞いたときの印象は死霊は術者の支配下にあってそれは絶対だというものだ。

 しかし、現にオリーブ・シャララッテの死霊は術者の手を離れて行動しているというのだ。


 誠斗はそれ以上何も言うことなく、小さくうなづく。


 二人はどちらからともなく手を差し出して、そのまま木の下へ向けて飛び降りた。

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