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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十六章
138/324

百十二駅目 森の泉のほとり

 カルロ領南部に広がる森の中。

 小さな泉を見つけたノノンと誠斗はそのそばでリラとココットをリュックの外に出してから二人を起こした。


「……ここ、どこ?」


 頬をつついてみたり、名前を読んだりといったことを繰り返しているうちに最初に目を覚ましたのはリラだった。

 彼女は不安げに周りを見回しながら誠斗に現在地を尋ねる。


「ここは……えっと……」

「森の中のどこかにある泉よ。それ以上は答えようがないけれど……」


 答えに詰まる誠斗に代わってノノンが答える。

 その答えでリラも納得したのか、彼女は小さくうなずいた。もしかしたら、彼女は森の中にいるという事実さえあれば安心できるのかもしれないし、そうでないとしても周りの風景を見て現在地を大体把握できたのかもしれない。

 どういう理由にせよ、あっさりと納得してくれて助かった。


「さて、あとはリコリスか……」


 リラの横で横たえられているリコリスは“落ちる。落ちちゃうよ”などといいながらうなされているようにすら見える。あの空中落下が相当怖かったのだろう。仕方がないといえば仕方がない。

 しかし、起きてもらわないと困るので少し強めに彼女の体を揺さぶってみる。しかし、起きる気配はない。


「ノノン。どうしようか?」


 とりあえず、このままでは話が進展しないので隣に座るノノンに助けを求めてみるが、彼女は魔法陣の構築に集中していて気づく様子はない。

 あまり時間をかけてはいられない。誠斗は先ほどよりも強く彼女の体を揺さぶってみる。しかし、変化はない。


「……まだ起きないの?」


 そこにちょうど結界を張り終えたとみられるノノンがやってきて、ココットの頬を軽くたたき始める。


「ダメか……次はどうしようかな……」


 困ったような表情を浮かべているノノンの視線は近くにある泉の方へと向かっていく。


「そうだ」


 彼女は小さな声でつぶやくと、すくっと立ち上がり泉の方へと歩いていく。


 ノノンは泉の前に立つと、泉にある水を少しだけ浮かせて(重力操作魔法の応用とみられる)それをココットの顔の上まで持ってくる。

 そして、ある種の予想通りココットの顔の上で魔法を解除して、浮かせた水を彼女の顔へかけた。


「ひゃっ! 冷っ!」


 その直後、普段の彼女からは考えられないような声をあげながらココットが飛び起きる。効果は絶大だったようだ。というよりも、ここまでして起きなかったら本当に困る。この切迫した状況だとできることというのも限られてくるし、何よりも確実な手段を取ろうとすれば、大体そういう系統の行動になってしまうのは仕方ないだろう。

 ただ、こちらの切迫した状況など知るよりもないココットからすれば、とんだはた迷惑な行動を取られていることに他ならないかもしれないが……


「ちょっと、いきなり何をするんですか! もう少し穏やかに起こしてくださいよ」

「残念ながら今はそういう状態にないの。ほら、マコト。説明して。私はリラから泉の場所を聞き出して、聖水を作る準備とかするから」

「あーはいはい。そんなことだろうと思ったよ……」


 今更ながら、ノノンからすればリラから話を聞ければいいわけで、ココットを起こす理由などなかったのではないかと思うのだが、そんなことは気にしてもしょうがないだろう。

 起こし方が荒かったせいですっかりと不機嫌になってしまったココットを前にそんなことを考えながら、誠斗は小さく息を吐いて後頭部に手を回す。


「あぁそうだね。とりあえず、状況説明だけしてもいいかな?」

「はい。それで私を納得させてくれるのならどうぞご自由に」

「えっと、それじゃあどこから話したほうがいいかな……」


 誠斗はこれまでの出来事を自身の中で整理しながらなるべく簡単に……ただし、理解はちゃんとできるように気をつけながらココットにここまでの出来事を話していく。

 ココットは最初こそ驚いたような表情を浮かべていたものの、それは徐々に苦いものに変わり、最終的にはうつむいてしまった。


「ココット?」


 そんなココットに話を終えた誠斗が声をかける。


「……死霊術なんて、使える人がいるのね……」

「まぁボクも驚いたよ。そんなものがあるなんて」

「そうですよね。私も話で聞いたことがあるぐらいで、実際に目にしたことはありません。そもそも、あれは術自体が禁忌ですから」


 ノノンが言っていた通り、この世界では死霊術は存在そのものが禁忌とされているようだ。

 そんな術をつかってくるあたり、術者がどんな考えから行動しているかわからないが、ろくなことではないのかもしれない。


「……マコト。大体のめどが立ったわ。ここの泉の水をある程度回収して、次の泉に移動するから四十秒で支度して」

「あーはいはい。わかったよ」


 四十秒でってどこの海賊だよ。と心の中で突っ込みを入れながら誠斗は立ち上がる。


「とりあえず、ココットとリラはこの泉の周りに張られた結界の中で待機。私とマコトはほかの泉で水を回収した後にあの広場へ向かうっていうことでいい?」

「うん。それで問題ないと思うよ」

「了解。それじゃマコト。つかまって」


 誠斗はノノンが伸ばした手を取る。

 それを確認すると、ノノンは誠斗の手を強く握って重力魔法を発動する。


「行くよ!」


 ノノンはそういうと、結界の外ぐらいの高さまで飛び上がった後、次の泉がある方向へ向けて移動し始める。


「ねぇ。なんであそこの泉の水で聖水を作らないの?」

「あそこの水を見てみたけれど、あまり向いてなさそうだったの。それで、リラに聞いてみたらここから広場の方向へ少し移動した地点にもっときれいな水がある泉があるって言っていたから、そこへ行くの」

「なるほど。それで移動ねぇ……その実は?」

「あんまり魔法を多用しすぎるとココットに正体がばれるのでリラから、適当にきれいな泉がある地点を聞き出しました」

「やっぱり」


 ある種の予想通りだ。

 ノノンは必要以上に自分の正体がばれる可能性を気にしている。妖精の森という領域で守られているはずの彼女がその外に出ているのだから、ある程度は仕方ないと思うのだが、その行動のせいで余計な時間を使うようなことがあるのはあまりよくないと思うのだが、そのあたりはどうなのだろうか?

 この世界に来てから数か月経つが、いまだにそのあたりの微妙な位置関係はいまいちわからない。


 誠斗は現状、亜人とは多く接触しているが、いわゆる人間……ココットのような亜人とあまり関わりがないであろう人たちとはあまりあったことがない。なので、彼らが亜人に対してどのような感情を持っているかわからない。だが、妖精の森でのミニSLの建設の事やこれから本格的に鉄道建設をしていくということ考えてみると、亜人と人間の間に壁があるという現状はあまり好ましくないように感じる。

 亜人追放令などというものがなければ、亜人の力を堂々と借りて鉄道建設を進められるが、そうでない限りは極力人間の力だけを使って建設しなければならなくなる。


「ねぇマコト。何か考え事? 余計な事を考えいるんだったら、そういうのは後にしてほしいんだけど」


 頭上から聞こえてきたノノンの声で誠斗は現実に引き戻される。

 その表情を見る限り、何度か誠斗に呼びかけていたのかもしれない。


「ごめん。ちゃんと集中するよ」

「もう。ちゃんとそうしてよ。さっきと違って、何にも言わないから呼んでみたらやっぱりそういうことだったのね」


 どうやら判断基準は誠斗がおもっていたものとは違うらしい。

 とにかく、ここからは時間との戦いになるので十分に集中する必要がある。


 誠斗はしっかりと気を引き締めて、森の中へと視線を向けた。

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