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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十六章
137/324

百十一駅目 泉を求めて

 獣人族と謎の集団との間で争いが起きている場所から移動を開始して約十分。

 ノノンは徐々に速度を上げながら森の木々の間を移動する。


「ちょっとノノン! 危ない! ぶつかる!」

「うるさい! 黙ってて! 私の集中力が途切れて木にぶつかっても補償しないわよ!」

「って言われても!」


 目の前に木が迫ってきて、それを紙一重で回避したかと思えばすぐに次の木が目の前に現れる。

 自分よりも体が小さいノノンが自分の手を懸命に引っ張って飛んでいるという事実も相まって、下手な絶叫マシンよりも恐ろしい。


「ちょっとぶつかるって!」

「もう! 男なら黙っていなさい! まったく……リュックに一緒に詰めておけばよかった。というよりもちゃんと作戦会議しましょうよ。話が進まないじゃない」

「いや、そうだけど! これは……っていうか話しながらでぶつからないの?」

「何を馬鹿言っているの? 私は大妖精よ。そんなへますると思っているの?」


 木々の間を飛ぶ技術に関しては自身があるのかノノンの口調は強めだ。

 確かに普段シャルロの森にいれば、このぐらいのことは簡単にやってのけるのかもしれないが、普段は地に足を付けて歩くということしかできない誠斗からすれば、この状況は恐怖以外の何物でもないのでノノンが以下に自信を持っていようがどうしようもできない。あと少し時間が経てば慣れることができるのだろうか?


「まぁとりあえず、話をしましょうか。状況はさっき広場のそばで言った通り。問題は術者の撃破とその術者が召喚しているオリーブ・シャララッテ」

「ねぇそのオリーブ・シャララッテの状態って具体的にはどうなっているの?」

「具体的にって……術の発動中に彼女がどういう状態にあるかっていうこと?」

「そうね……」


 恐怖に耐えながら必死にノノンの会話に応じる。

 誠斗からの疑問をぶつけられた彼女は前方に向けて目を凝らしながら思考を巡らせる。


「確か、今回のような死霊術の場合は本人の意思はしっかりと残っていて、その上で体の自由が利かないとかそんなあたりね。当人がそれに関してどう思っているのか知らないけれど、普通に考えればさっさと術者から解放するべきっていうところかな」

「……なるほど、それで? どうして操られている死霊じゃなくて、術者を狙うの?」

「まぁ正直な話狙いやすさかな? どっちを狙っても十分効果はあるんだけど、術者は当然ながら自分が操っている死霊がよく見える場所にいるから、不意打ちなんてできないでしょ? その一方で術者には当然ながら死角があって、術に集中しがちだから、まだ不意打ちが成功する可能性がある。といったところかな」

「なるほどね……」


 ノノンが言うことはもっともだ。

 確かに術者は自分が操っている対象がよく見える場所で状況を観察しているだろうから、そのうえで死霊側の不意を衝くというのもかなり難しい話だ。それなら、術に集中している術者をたたいてしまった方が早いということなのだろう。


「それで? 術者の目星はついているの?」

「うん。上から見たとき、戦場になっている場所から少し離れた場所に数人の護衛に守られた人がいたのが見えたの。あれが術者か、そうでないとすれば頭だと思う」

「なるほど」


 確かにそれは明らかに怪しい。

 その人物が術者だと疑うには十分な理由だ。護衛がいるというあたりまで予想通りなので特段驚きはしないが、やはり問題になってくるのはその人物が術者であるという確固たる証拠を得ることとと護衛をいかに切り抜けて術者の不意を狙うかといったところだろう。


「さて、どうしたものかな……」


 自分の目で見たわけではないから、護衛の配置や雰囲気まではわからないが、少なくとも術者の周りに死角が生まれないようにはしているだろう。

 そうなると、その監視を抜けて術者に接近する必要がある。いや、接近する必要などあるのか?


「ねぇノノン」

「何?」

「作った聖水を術者の上空から大量に降らせるっていうのはどうなの? 相手は獣人と戦う前提で動いているだろうから、空にそこまで意識が向いていないだろうし、不意打ちとしては一番安全じゃない?」


 誠斗が提案すると、ノノンは少しの思考を挟んだ後、ゆっくりと口を開く。


「……なるほど。そういう考え方もあるかもね……うん。確かに相手は空からの奇襲なんて警戒していないだろうから、そこをつくことができれば十分に効果があるかも。その分、たくさんの聖水が必要になるのが難点だけど……」

「でも、それ自体はこのリュックを使えば何とかなる。最悪、水の出どころに関してはリラに尋ねればいくつか見つかるはずだから、それを頼りに集めればいい。リュックの中身については最悪の場合はあきらめるしかないかもしれないけれど……」

「まぁそのリュックの中が水とそれ以外をちゃんと分けてくれるぐらい万能なことを願うだけね」


 そんな会話を交わしているうちにだんだんとこの状況に慣れてきて、周りを見てみると、誠斗の視界の端に泉らしきものが映った。


「ノノン! あった!」


 誠斗が声を上げると、ノノンは一気に速度を落として誠斗の方を見る。


「あっち! 右側!」


 誠斗は指をさして泉があった方をノノンに知らせる。

 ノノンは小さくうなづくたあと、誠斗が指さした方向へ向けて方向転換し、先ほどよりもかなり緩い速度で泉へと向かう。


「泉……あれか……マコト、速度あげるよ」

「わかった」


 ようやくノノンも泉の位置を確認したらしく、今度は徐々に速度が上がっていく。

 泉までそうたいした距離があるようには見えないが、ノノンの中でもやはり急ぐ気持ちがあるのだろう。


「マコト。泉に着いたら私が浄化魔法を使って泉の水を聖水に変換するから、その間にリュックの中から二人を出して起こしておいて。さすがに人をそんなにたくさん連れて移動できないから、二人には濡れてはいけない荷物と一緒に待ってもらうわ」

「でも、それって大丈夫なの?」

「大丈夫よ。小規模だけど認識阻害と軽い防護の効果を持つ結界を張っておくから。そうすれば、よほどのことがない限りは安全なはずだから……」


 これから森の中を移動するに際して三人も引っ張りながら移動するのは手間だということなのだろう。もう少し言えば、ノノンからすればリラならともかく、ココットには正体を明かしたくないのかもしれない。いや、ほぼ間違いなくそうだろう。

 獣人のリラはともかく、ココットは人間だ。これまで一緒に行動してきたとはいえ、ノノンが妖精だと知ればどんな行動を起こすかわからない。最悪、マーガレットの救出という最終的な目標の達成を阻害する可能性がある。そういったことをなるべく避けるために不確定要素はできる限り避けるべきだ。


「わかった。それで大丈夫ならそうした方が安全かもね」


 今のところ空を飛ぶのは重力魔法の延長だとごまかしているが、あまり多用しすぎると不信感を抱かれかねない。

 幸いにもあの木を離れてからここに来るまでリラとココットは周りの状況がわかっていないだろうから、その間の移動のことに関してはごまかすことができるだろう。多少は言い訳を考えておく必要はありそうだが……おそらく、ノノンがいう二人を起こす準備にはそのあたりまで含まれているはずだ。


「マコト! 泉につくよ!」

「わかった!」


 気が付けば、視界の端に少し映っただけの泉は目の前まで迫り、ノノンはそこへ向けてゆるりと速度と高度を下げていく。

 誠斗はその泉をまっすぐと見つめながら、リラとココットにどうやって事態を説明するか考え始めた。

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