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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十六章
136/324

百十駅目 厄介な敵

 森の中にある広場の近く。

 誠斗の横でノノンは深刻そうな表情を浮かべて崩さない。


「ねぇ何があったの?」


 誠斗がリュックから顔を出しているノノンに話しかける。


「……マコト。私たち、想像していた以上の厄介事に巻き込まれていたみたい……」


 しかし、返ってきた答えはそれだけだ。彼女の様子を見る限り、状況を完全には把握していないか、状況を把握はしたがそれを信じたくないかのいずれかだろうか? そう思わせるほどにノノンの表情は深刻そのものだ。


「ノノン!」


 彼女の考えはともかく、事情は知らなくては話が進まない。


 誠斗はノノンの名前を呼びながら彼女の肩に手を置く。


「ねぇなにがあったの?」


 そして、改めて聞いてみる。

 しばらくの沈黙のあと、ノノンがゆっくりと口を開いた。


「……マコト。死霊術って聞いたことある?」

「死霊術?」

「……うん」


 死霊術といえば、ファンタジーなどで登場するイメージだけでいえば、死体だったりその魂を操る類の術だという印象がある。

 だが、この世界のそれが必ずしも誠斗の知識と一致することはないだろうからと考えて、誠斗は首を横に振った。


「……それもそうよね……時間がないから簡単に説明するけれど、死霊術っていうのは死んだ人間の魂をこの世に呼び戻して戦わせるっていうものなの。現在、新メロ王国を治めているメロエッテ家の人間が得意としているのだけど、その術自体が禁忌とされ、彼ら自身の手によって封印された……といわれているものよ。私も一度だけ見たことがあったんだけど、あれは……とんでもなくおぞましいものだったわ……それで、今向こうから感じる魔力がそれに近いものを感じる……おそらく、いえ、ほぼ間違いなく黒い集団の方が死霊術を使っているみたい」


 ゆっくりとした口調で語り終えたノノンは過去に死霊術を目にした時のことを思い出しているのか、少し動揺しているようにも見える。

 仮に死霊術なる厄介なモノが使われていて、それがノノンの話から得られた印象通りなら、今回のことには簡単に説明がつく。


 要するに獣人たちを簡単に誘拐できるような魂をこの世に召喚し、その術が切れたタイミングで獣人たちが反乱したのだ。そうして、いったん戦いは終わったかのように見えたが、実際はそうではなかった。

 術を再発動した術者の手によって再び戦いが始まったのだ。


「……ノノン。状況わかる?」

「そうね……ちょっとやってみる……」


 彼女はそういった後、ゆっくりと飛び立ち木の上の方へと移動する。


 誠斗は周りの様子を確認して、周囲に危険がないか確認した後、リュックを自分のそばに持ってきて、背中に隠すようにして木の幹に体を預ける。

 大きな爆発音やら何らやが聞こえる中、誠斗はできる限り周囲への警戒を怠らないように気を付けながらノノンが戻ってくるのを待つ。


 それから十分ほどそうしていると、偵察を終えたらしいノノンが戻ってきた。いや、体感でそう感じていただけで実際はもう少し短かったかもしれない。

 誠斗のすぐ目の前に降り立ったノノンは相変わらず深刻そうな表情を浮かべたままだ。


「……どうだった? やっぱり……」

「……うん。死霊術で間違いなさそう……どうしてそんなものが……」

「まぁそれも大切だけど、とりあえず今は状況を整理しないと……具体的に何が見えたの?」


 誠斗が尋ねると、ノノンは少しの沈黙を置いた後にゆっくりと口を開いた。


「……使われているのは死霊術の中でもごく少数の人間しか使えないとされている術で死者を生きているときの姿で召喚し、操るというモノ……だと思う」

「えっと……その召喚されている人の数って多いの?」


 誠斗の質問にノノンはゆっくりと首を振る。

 そして、誠斗の顔をまっすぐとみて口を開いた。


「ねぇマコト。ここはおとなしく撤退した方がいいかもしれない。どうやったのか知らないけれど、相手は結構な人物を召喚してるみたい」

「結構な人物……っていうと、過去に活躍した大魔法使いとかそんな感じ?」

「……えぇ。私が見た限り、相手が召喚しているのは“オリーブ・シャララッテ”。十六翼評議会の書記長を務めていた人物で翼下準備委員会の創始者……マミ・シャルロッテが死んだ直後は一時的にとはいえ議長代理の座にもついているほどの大物でシャララッテ一族が得意とする時間操作魔法を最も使いこなしていたとされる人物……私は森の外に出たことがなかったからあまり詳しくないけれど、カノン様があれほどに厄介な相手はいないって言っていたの……彼女だったら、一人で獣人族の村を壊滅させることなんてたやすいかもね」


 そう語る彼女の表情は真剣そのものだ。

 おそらく、相手を見て状況を冷静に判断したうえで撤退した方がいいといっているのだろう。


 誠斗は手元にあるリュックに視線を落とす。


 このリュックの中で眠っている少女は一族が無事だと安心しきっていることだろう。このまま撤退したとしてリラに結果的に逃げ出したということをどうやって伝えるべきだろうか?


 そこまで考えたところで誠斗の思考は別の方向へと動き始めた。


 約束にしたのにそんな結末でいいのか? といった具合にだ。


 いや、撤退するだけなら問題ないだろう。ノノンが言うことが本当なら相手が悪すぎる。だが、何もしないで撤退するというのもなんだか後ろめたいものがある。


「……ノノン。死霊術に対する対処法って何かないの?」


 ここで何もないという答えが返ってきたら諦められる。

 それぐらいの気分で誠斗はノノンに尋ねた。


 ノノンは空を仰ぎながら考えを巡らせるようなしぐさを見せ、その大勢のまま少し間を置くとゆっくりと口を開いた。


「いや……あるにはあるみたいだけど……」

「本当に?」

「……うん。確か……死霊術の弱点は清い水……つまり、聖水だって聞いたことがあるけれど……こんな森の中じゃ聖水があるような教会もないし、森の中でそんなに都合よく聖水が湧き出ているような場所なんて……あっ」


 そんなものをないと言い切る前に何かを思い出したのか、ノノンの動きが固まった。


「もしかして、心当たりがあるの?」

「うん。あのさ、私たちとリラが出合ったあの泉。結構きれいな水が溜まっていたよね?」


 ノノンに言われて誠斗はリラと出会った場所を思い浮かべてみる。

 確かにあの場所にはそのまま飲めるのではないかと思えるほどにはきれいな水が湧き出ていたような記憶がある。


「それが聖水なの?」


 あの泉までなら多少の距離はあるが、水を取りに行けないことはない。そんな考えから尋ねてみるが、ノノンは静かに首を横に振る。


「あれ自体はただの水。正確にはあれを聖水にするの。きれいな水に浄化魔法をかければ、完全とは言わないけれど聖水と同等の効果を持つ水が作れるの。とりあえず、あの泉に行ってカバンの中にたくさんの水を入れてそれを全部聖水にしたうえで不意打ちのような形で術者のそれをかければ、操られている魂は術者の操作から離れるの。そうしているうちに魂の方をもう一度成仏させてあちらに送り返せば、術者はしばらく新しい召喚を行えない。大量の聖水を用意すればその分だけ、新しい召喚までの期間が開くはず……どう? やってみる?」


 先ほどまで撤退しようといっていたノノンも策を思ついて乗り気になったのか、そんなことを尋ねてくる。

 そのあと、少しの間の思考を挟んで誠斗は口を開いた。


「……うん。やってみよう。とりあえず、作戦は泉の水を聖水にした後に立てる?」

「……そうね。できれば、今から作戦会議をしたいけれど、あまり悠長なことは言っていられないし、移動しながら話をしようか。もっとも、この森の中ならあの泉にこだわらなくてもきれいな水なんていくらかありそうだし、そのあたりもちゃんと探しながら言った方がいいかもね」


 ノノンはそういいながらふわりと舞い上がり、誠斗に手を差し伸べる。

 誠斗は近くに置いてあったリュックを背負うとその手を取った。


「それじゃ、広場から気づかれない程度の高度で飛ぶからちゃんとつかまっていてね」


 彼女はそういうと、誠斗を引っ張り上げるような形で浮上し、そのまま森の木々の間へ向けて飛び立った。

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