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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十六章
133/324

百七駅目 白い石と森の小道

 朝。

 獣人族の集落だった場所で無事に夜を明かした誠斗たちは改めて村の中の調査をしていた。


 だが、襲撃者が残した手がかりだけではなく、獣人たちがどこへ連れていかれたのかという手がかりすら見当たらない。村が崩壊していることを除けば本当にそんなことがあったのかと聞きたくなるぐらいだ。


「……ノノン。どう?」


 誠斗は自身の横で魔力痕をたどっているノノンに話しかける。


「……ダメね。まったく感知できない……魔法は使っていないかもしくは偽造しているかのいずれかね……」

「偽装?」

「そう。魔力痕はある程度消すことができる。もちろん、完全にはできないから大規模な魔法を使うとどうしても残留してしまうけれど……まったく残っていないところを見ると、そもそも魔法を使わなかったか、魔力痕が簡単に消せる程度の魔法しか使わなかった、もしくは術者が魔力痕を消す魔法にたけていたかのいずれかね」


 ノノンは道にある雑草を手に取って太陽にかざす。


「……どうかしたの?」

「いえ、気のせいね……そんなことよりも、魔力痕を消せるほどの魔法が使える人物はあまりいないだろうから、一番可能性として高いのは最初に挙げたそもそも魔法を使わなかった可能性ね」

「魔力痕を消せる術者ってそんなに少ないの?」


 誠斗が尋ねると、ノノンは小さくうなづく。


「私が知る限りだと、カノン様とシノン様、マーガレットにシルク、カシミアといったあたりかしら? あとは……噂程度の話なら、シャラ領の領主一族に名前を連ねるカレン・シャララッテもそういった方面の魔法にもたけているという話を聞いたことがあるぐらいね」

「なるほどね……カレン・シャララッテのことはよくわからないけれど、確かにその面々だけだといわれるとすごいのかもね……」


 カレン・シャララッテという名前はどこかで聞いたような気もするが記憶に霧がかかったかのように思い出せない。


「とにかく、今はわずかでも手がかりを探すことね。見つけられないんじゃ話にならないわ」

「まぁそうなんだけど……」


 そういったところでまったく見つからないのでは話にならない。

 そんな中、一緒に歩いていたココットが歩みを止めた。


「これって……」


 彼女がそういいながら道端にしゃがんだので誠斗たちもそれにつられて立ち止まる。


「それがどうかしたの?」


 ココットが見つめているもの……白くて丸い石を背後から見たノノンが声をかける。

 ココットはその石を拾い上げると、自分の視線の高さまで持っていて観察し始めた。


「……これって自然のものじゃないですよね? きれいに丸くなっていますし、何よりも糸を通すための穴が開いています。おそらく、ネックレスとかそういうたぐいの装飾類に使われていた可能性がありますね」


 そういいながら、ココットはその石の糸通しと思われる穴の部分を誠斗やノノン、リラに見せる。

 よく見れば、それと似たような石が近くの茂みの前にも落ちているのが確認できた。


「……なるほど。つまり、連れ去らわれた人のうちだれかがひもを解いて一つずつ落としていった可能性があると……とりあえず、追ってみた方がよさそうね」


 それを確認したノノンの意見に全員が異論なくうなづいた。

 これだけの時間をかけてやっと見つけた手がかりだ。これを利用しない手はない。


 誠斗たちは次の石が落ちている茂みの方へと向かう。


 茂みの中にはもう一つ石があって、その先にはつい最近誰かが通ったことを示すように草木が倒れていた。


「なるほど。こっちの方へと行ったわけね」


 ノノンがそうつぶやきながらその道を追い始める。


 そのすぐ後に続くような形でリラ、ココット、誠斗の順で歩いていく。


「……このあたりにも魔力痕は感じられないわね。そうなると、そもそも魔法を使っていなかった可能性が高くなってくるわね」

「どうして?」

「どうしても何も、こんなところまでずっと魔力痕が消せる魔法を使っていたら手間がかかってしょうがないじゃない。だったら、多少それを残してでもさっさと撤退した方が効率的よ。そう考えると、敵は魔法を使わずに制圧した可能性が高くなる。何か間違ってる?」


 自信満々で主張を述べるノノンの意見を聞いて誠斗はすんなりと納得できた。

 それは同行している二人も同様らしく、うんうんとうなづいている。


「……ねぇノノンって本当に何者なの?」


 前を歩くココットがこっそりと耳打ちする。


「……ボクもよくわからない。って答えたことがあるような気がするけれど?」


 ノノンは大妖精だからなんて言えるわけがない。

 確かに見た目だけで言えばただの子供であるノノンは容姿に反してかなり頭が切れる。そのことに対して、適当な理由が思いつかないから、誠斗からするとただ単に知らないといって逃げることしかできない。もちろん、亜人追放令なんてものがなければ、わざわざそんな配慮をする必要などないし、それがある現在でもココットが相手なら話してもいいような気がするが、彼女のバックにいる人物がどんな考えを持っているのかわからないので下手にそういったことをべらべらと話すといったことははしない方がいいだろう。


 誠斗は周り……特に背後を注意深く観察しながら歩いてく。


「結構な数があるのね。この石……よく気づかれないでこれだけ置いたものね」


 先頭を歩くノノンが唐突にそんなことをつぶやいた。

 誠斗は一番後ろを歩いているのでよくわからないが、ノノンが定期的にしゃがんで立ち上がるという動作を繰り返しているあたり、今のところは石が落ちているということだろう。


「確かに集団で連れていかれるにしたって複数人で見張っているはずだから石なんてそう簡単には置けないよね。そんなことができるぐらいなら逃げ出すことも可能だろうし、そもそもそんなことすら許してしまうような集団に簡単につかまるとは思えないし……」

「……これは何かありそうね。ただ単に連れていかれたとかじゃなくて、彼らがおとなしくついていかないといけない理由があったのか、それとも本当に魔力痕を出さないように気を付けながら軽く洗脳の魔法でも使っていたのか……はぁこれだけの事象だと何がどうなっているのかさっぱりね」


 確かにこれまで見つかった痕跡といえば、草木が倒れているこの道とそこに落ちている白い石ぐらいで、それ以上のものは見つからない。


「……それでいて、そのヒントもいよいよなくなるみたいだし……」


 先頭を歩くノノンがそんな声を上げる。

 どうやら、白い石がとうとうなくなったらしい。


 ただ、この先に道はまだ残っていて、一本道のようなのでまだしばらくは後を追えるだろう。


「周りを見ながらも少しペースを上げましょうか」


 ノノンが声をかけると全員が同意の声を上げる。


 この先、基本的には道をたどっていくのだが、それ以外に何かあったときにやすやすと見逃すのはいただけない。そういった意味でもこの場では正しい判断といえるかもしれない。


 そのあと、ノノンは宣言したとおりに少し歩調を速めて歩き出す。


 四人はきょろきょろと周りを見回しながら森の奥へ奥へと入っていった。

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