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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十六章
132/324

百六駅目 獣人の子供

 カルロ領の森の中。

 狐耳の女の子ことリラを連れた一行は彼女が住んでいたという集落を目指して森の中を進んでいた。


 これはノノンの提案によるものだ。

 とりあえず村に戻って手がかりを探す。そして、それをもとに連れて行った集団を探し出して、何とか戦わずに獣人たちを連れて脱出。そんなことはほとんど無理だろうといわれてしまえばそれまでだが、何もやらずにリラを置いていくということもできないと考えたためだ。


 ノノンはどこか含みのあるような言い方をしていたが、この目的は変わらないのだろう。もしくは集落を探す途中で別の獣人の集団にあったら彼女を預ける腹積もりでも立てているのかもしれない。


「わたしの、いえ。すぐ、そこにあったの……」


 リラが前方を指さしながらそういった。

 その指に従って注意を前方に向けてみると、木の柵のようなものが見えてくる。


 森の木々を使って作られたと思われるその柵を超えると、いよいよ獣人族の村の跡地だ。


「これはひどいですね……」

 

 村に入るなりココットが声を上げる。

 村の中にある建物や施設は破壊された後が生々しく残っているし、おそらく食料や道具はほとんど持ち出されているようだ。

 村の中へと足を進めれば、ところどころ戦闘の跡があり、穏やかな状態ではなかったことをうかがわせる。


 誠斗は後ろを歩くココットやリラに聞こえない程度の声量でノノンに話しかける。


「これはちょっと予想外だね。でも、なんでこんなところに見つかったのかな?」

「……そうね。亜人追放令を馬鹿正直に守って森の中でひっそりと暮らしている獣人族を見つけるのは並大抵じゃないわ。そもそも、私たちと同様に獣人族は森ですむことにたけた種族でもあるしね。一家族ぐらいならともかく、村全体となるとこれを攻撃してなおかつ全員連れていけるなんてただものじゃないわね」

「どうするのさ、結局助けるって言ったっちゃのにこれじゃ全員を連れ出すのも難しいんじゃないの?」

「それを迅速かつ早急に解決してマーガレットを連れていくの。それしか道はないでしょう?」

「まぁそうかもしれないけれどさ……」


 誠斗はそういいながら周りを見てみる。

 それにしてもひどい状況だ。いつの間にかリラもココットの背後に隠れてしまっている。


 その村の中を一通り歩いてみたが、残念ながらリラ以外の獣人族は見つからなかった。


 そのあとは夜の森に入るのは危険だからというノノンの意見で集落の近くにある見た目無事な建物で朝を待つことにした。

 もしかしたら、襲撃者が戻ってくるかもしれないので村の入り口に気配を探知するような魔法をかけ、さらに小屋の周りに防護結界を形成する。


 一通りの作業を終えたノノンは小さく息をついて小屋の中央に座った。


「これだけいろいろできて攻撃に魔法が使えないってちょっと驚くよ」

「……仕方ないでしょ? 世の中需要がないものはすたれていく宿命にあるのよ。統一国が全世界を支配下に置いてから八百年以上……統一国が実質的に崩壊した後も戦争なんて起きていないから、わざわざそういう魔法を習得する人なんてどんどんいなくなるでしょ? そうなれば、そういった技術もなくなって、最後は戦う手段も失っていって、結果的に大きな戦争はなくなる……いかにもあいつらが考えそうなことね。おそらく、そういった類の文献はうまいこと回収してどこかに封印しているのでしょうね」

「なるほどね……」


 “あいつら”というのが誰を指すのは少し気になったが、ココットたちが近くにいる中で聞いても答えてくれなさそうなのでここはいったん黙っておく。


 そういったことはいったん置いておくとして、彼女の言い分を採用するのなら、ここは良くも悪くも戦争のない……いや、そもそも戦争の手段が原始的なものしか存在しない平和な世界だということなのだろう。

 ただ、誰もそういった魔法を知らないということは残念ながらないのだろう。人に伝えるかどうかは別として亜人たちの中にはそういった技術を持っている集団もあるだろうし、マーガレットのように寿命的な意味で規格外の魔法使いがほかに存在していたらそういった手段を知っている可能性がある。


 しかし、誠斗もココットもノノンもその方法は知らないし、これから知る機会もないのかもしれない。それでも、こういったときに攻撃の手段がないというのは困ったものだ。

 相手が魔法を使って攻撃してくるという可能性もないことはないし、魔法を使わないにしても集団もしくは個人でそれなりに戦い慣れしている可能性が高い。そうなると、戦闘経験がないに等しいこちらは圧倒的に不利だ。


「まぁ相手の技量もわからずに使えもしない攻撃魔法の話しても机上の空論でしかないわ。敵に実力やそれに付随する情報を調べたうえで隙をついて獣人族を救出。これが一番いい結果よ」

「そうだね。とりあえずは情報収集に努めようか」

「えぇ。それが一番いいわ……というわけで私は少し散歩に出るからここで待ってなさい」


 ノノンは一方的に宣言をして立ち上がる。

 そんな彼女の行動に会話のほとんどを聞いていなかったココットやリラも視線をノノンに向けた。


「ノノンさんどこに?」

「散歩よ。大丈夫、十分もすればすぐに戻るわ」


 彼女はそれだけ言うと、それ以上意見は受け付けるつもりはないといわんばかりの速足で小屋から出ていく。


「……ノノン、おねえさん。だいじょうぶ?」


 ぽつんと取り残された三人の気持ちを代弁するかのようにリラが口を開く。


「……まぁ大丈夫だとは思うけれど……何かあったら上手に隠れるだろうし……」

「ならいいんですけれど……このタイミングで外に行くなんて」少し気になりますね」

「そうは言われてもね……」


 おそらく、尾行したところで彼女を相手にすればすぐに気づかれるだろう。


 そう考えると、ノノンを追いかけるのはあまり得策でははないだろう。


「……まぁずっとリュックの中にいたから動きたいんじゃないの?」


 結局、誠斗は適当なことを言って自分自身を含めて納得させるかのようにつぶやく。


「そうですね……それにしても、ノノンさんって何者なんですか?」


 どういうつもりなのかわからないが、ココットからそんな質問がぶつけられる。


「そうだね……」


 彼女の意図が読めない誠斗はじっくりと答えを考えながら口を開く。とそうし始めて、誠斗はあることに気が付いた。

 ノノンという人物について誠斗が知っている情報とすれば、大妖精という種族でバックに何かしらの存在があるという程度で、性格についてもそれなりの期間近くにいるので表面的なものは把握しているものの実際に人となりがどうだと聞かれたら少し答えに困ってしまう。


「……ご迷惑な質問でしたか?」


 誠斗が急に黙ったことを気にしているのか、ココットが不安げな声を上げる。


「あーいや、そうじゃないんだけど……よく考えてみたらノノンのことよく知らないなって思っただけで……」


 嘘は言っていない。ただ、傍から見れば都合の悪い情報をごまかしたかのように映るのかもしれない。

 実際、彼女は少し考え込むようなしぐさを見せながら“そうですか”と短くつぶやいて口を閉ざす。


「……ノノン、おねえちゃんと、マコトお兄ちゃん……って、どうしていっしょ、なの?」


 そんな誠斗たちの様子を気にしたのかリラが小さく首をかしげながら問いかける。


「……ノノンとボクがいる理由ね……何だろう……偶然目的が一緒だった。とかそのあたりかな……」


 誠斗は当たり障りのないような答えを返しながらリラの頭をなでる。


「ふーん」


 リラはつまらなそうな声をあげて寝転がる。


「それじゃノノンが待っている間、ボクたちの旅の話をしてあげようか?」

「ほんと……なの?」


 なんとなく提案したことだが、思いのほか食いつきがよくリラは満面の笑みを誠斗に向ける。


「うん。それじゃどこから話をしようか……」


 そんな風に前置きを置いて誠斗はゆっくりと話し始めた。

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