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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十六章
131/324

百五駅目 森の影から

 カルロ領最南部の森の中。

 盗賊と思われる集団を振り切るために全力疾走をした直後の誠斗は近くにあった木に背中を預けて休息をとっていた。


「……さっきから何か怪しい音が聞こえるような……」


 そんな中でノノンが唐突に不吉な一言を放つ。


「えっ? もしかしてまた逃げないといけないの?」


 誠斗が尋ねると、ノノンは静かに首を振る。


「……違うわ。そういう感じじゃない……さっきの男たちじゃないみたい……これは亜人? 獣人族あたりかしら?」

「えっ?」


 ノノンの一言に誠斗が声を上げる。

 誠斗は周りの音を聞こうとよく耳を澄ませてみるが、やはり誰かが迫ってくるような物音など聞こえてこない。


「本当に来てるの?」

「来てるわよ。何でわからないの?」

「なんでって言われても……」


 この世界と日本ではあまりにも治安が違いすぎる。

 それにこの世界に来てからも実際に身の危険を感じたのは先ほどの集団に追いかけられたのが最初なので危機管理能力というか、周りの状態をしっかりと察知するような能力は持ち合わせていない。と思っていたのだが、ココットも首をかしげているあたり、妖精と人間ではそもそも感覚が違うのかもしれない。


「……まぁいいわ。別にこっちには近づいてきているけれど、悪意を感じるわけでもないし、放っておいても問題なさそうね」


 ノノンは特段焦る様子もなくその気配が近づいてきていると思われる茂みの方へと視線を向けている。

 しばらくすると、茂みが少し揺れてそこから女の子が顔を出す。


「……あなたたち……だれ? わたし、しらない。ここの……ひとじゃない。あなたたち、わるいひと?」


 頭に狐耳を生やした女の子は茂みに隠れたままじっとこちらを見ている。

 ノノンはゆっくりと立ち上がり、笑顔を浮かべたまま女の子に近づいていく。


「……大丈夫よ。私たちは悪い人じゃないから。ちょっと、休憩しているだけ。それが終わったら道に戻るから」


 普段よりも柔らかいやさしい口調で語りかけながら女の子に近づいていく。

 その姿はおびえる妹を必死に安心させようとしている幼い姉のように見えなくもない。そのぐらいには二人は小さく見える。


「……ほんとうに? だいじょうぶ、なの……なにもしない?」

「はい。何もしないよ。むしろ、何かあったら助けてあげちゃうかも」

「そう……なの?」

「うん。そうなの」


 何だろうか。具体的に言えと言われれば難しいが、何か問題が起きそうな予感がする。

 それも飛び切り面倒なものだ。


「……なんで一人でいるの? お父さんとかお母さんはいないの?」


 そして、ついにノノンが一番気になっていた部分に切り込んだ。

 ココットも誠斗も視線を女の子に向ける。


 女の子は少し肩を震わせた後にゆっくりと頭を下げる。


「……いなく、なっちゃった……」

「いなくなったって……なんで?」

「……わるい、にんげんにつれていかれちゃったの……わたしは、みつからなかったけど、ほかのみんな……つれていかれちゃったの……」


 女の子はそこからノノンに聞かれるままにゆっくりと事情を説明していく。

 自分たちが住んでいた村が近くにあること、そこに盗賊らしき人たちがやってきて荒らしまわったこと、その結果獣人たちは珍しいからと皆連れていかれてしまったということ……

 ノノン曰く亜人は裏で奴隷として売り買いされることが多いらしく、特に人魚族と獣人族、エルフ、妖精当たりはその希少価値とに加えて人魚族は見た目の美しさ、獣人は力仕事向きの体力、エルフは魔法にたけている点などそれぞれの特徴が特出していることから高値がつきやすい傾向にあるのだという。そんな中で妖精だけは本当の意味で希少価値のみで天文学的な金額が付くそうなのである意味で別枠なのだそうだが……


「……そっか。それは怖かったね。でも、大丈夫。私たちは悪い人じゃないから……ちょっと、あの二人と話をしてくるけれど、待っていてくれる?」


 一通りの話を終えたノノンはや若い笑みを浮かべたまま彼女の頭をなでる。


 そうしながらのノノンの問いかけに女の子はゆっくりと顔をあげてうなづいた。


「うん」

「わかった。それじゃちょっとだけ待っていてね」


 ノノンはもう一度女の子の頭をなでてから誠斗たちの方へと移動してきた。


「……それで? どうするの?」


 そのうえで先ほどの笑みなどどこかへ吹き飛んでしまったかのような無表情で誠斗に質問をぶつける。

 そんなことを言われても答えはほとんど決まっているようなもので、ノノンもおそらくそれを分かった上で聞いてきている。


「まぁ助けたい気持ちは山々だけどどうするの? ボクたちの中に戦える人なんていないでしょ? できるとしたら、彼女を安全なところに送り届けるぐらいかな?」

「……はぁやっぱりそうね。ココットは?」

「……私もマコトさんの意見に賛同します。実際に先ほどの盗賊集団からは逃げることしかできませんでしたから……彼女の家族を助けるのだとしたらほかの助けを求めるべきなのでしょうが……」


 ココットが言葉を詰まらせる。

 それでも、誠斗はなんとなく彼女が言おうとしていることが分かった。いや、誠斗も同じようなことを考えている。

 今、目の前にいる女の子は獣人族……つまり、亜人だ。そんな彼女を町に連れて行って、助けを求めればどうなるか。そんなものは明白である。


 亜人追放令によって彼女が町に追い出されるか、もしくはつかまるか……下手をすれば、亜人を連れ込んだとして誠斗たちも拘束される危険性がある。そうなると、もはやマーガレットやアイリスの救出どころではなくなってしまう。

 しかし、誠斗たちには獣人たちをさらっていった集団を討伐して連れていかれた人たちを救出できるほどの実力はかけらもないといっても過言ではないだろう。


 誠斗は魔法が全く使えないうえに日本にいた時は誰かと戦うなどということはなかったので戦い方を知らないし、ココットはココットでどこにでもいるようなごく普通の町娘のはずなので戦闘力など持ち合わせているはずがない。

 最後にノノンだが、彼女は妖精なので人間に比べれば魔法にたけているが、それでも戦闘向きの魔法というのは今まで見たことがないように感じる。


 それなのにどうやって獣人たちを救出というのはなかなか難しい話に思えてしまう。


「……ところで私にちょっとした案があるんだけど、それに乗ってくれたりする?」

「いい案?」

「そう。いい案」


 誠斗とココットの意見を聞いたノノンは不敵な笑みを浮かべながらそう告げる。


「……あのね。ちょっと難しいかもしれないけれど……」


 誠斗とココットの興味を十分に引き付けたノノンは自分の思惑をゆっくりと語り始める。


 誠斗たちはその話にすっかりと聞き入っていた。

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