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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十五章
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幕間 サフランの思惑

 シャルロ領を収めているシャルロッテ家の一族が代々住んでいる屋敷。

 その屋敷には初代をはじめとして何人もの思惑や思わぬ置き土産の集合体ともいえる。


 現に今サフランは六代目領主マリナ・シャルロッテが作ったとされる秘密通路を歩いていた。


 長らくの間、この通路の存在は知られていなかったのだが、つい最近になって掃除をしていたメイドが発見したものだ。

 その後、信頼のおける使用人数人を使って調査を行ったが、そこにあったのは暗い廊下とその奥にある部屋のみで、その部屋に残されている書籍等から、奥にある部屋の主はマリナ・シャルロッテである可能性が高いという結論へと至った。


 魔法を使った仕掛けを作ることが多かったという彼女の建造物であるかのことを証明するかのようにその部屋にはたくさんの魔法が施されていて、その数はおそらく屋上にあるマミ・シャルロッテの秘密書斎を超える。と言われているだけでその実態はわからない。

 そもそも、その部屋がなぜ存在しているのかすらわからないし、彼女が残した公式文章にはそれを紐解けるほどの情報が残っていない。もともと、シャルロッテ家の各当主に関する記録というのはあまり多くないのだが、その中でも特にマミ・シャルロッテとマリナ・シャルロッテ、それと十代目領主のエリナ・シャルロッテに関してはあまりにも情報がほとんどないに等しい。


 そんな彼女たちは決まって、シャルロ領およびシャルロッテ家に大きくかかわるような何かにかかわっていて、シャルロッテ家当主兼十六翼評議会議長代理を勤め上げた人物だ。

 その情報を加えるだけで自然とこの状態に違和感を感じなくなってくる。要するに議長代理を務めていた故に記録が抹消されているということだ。さらに言えば、この三人は十六翼評議会というあまりにも強大な権力をバックにつけたせいで幸か不幸かシャルロッテ家に大きな影響を及ぼすような出来事にかかわっている。


 例えば、初代領主マミ・シャルロッテはシャルロッテ家が領主一族になる一番大切な過程にかかわっており、ほかにも鉄道のことやその最期など現在に与えている影響は各所でいまだに残り続けている。これは六代目領主マリナ・シャルロッテや十代目領主エレナ・シャルロッテにも言えることだ。

 そして、今回……マコトやノノン、それと用意しておいたゲストが思惑通りの動きをしてくれれば、自分もまた、四人目としてそこに加わることになる。


 十代目領主を最後にシャルロ領の政治にあまり関与してこなかった十六翼評議会が再びシャルロ領の政治へ干渉し始めるのだ。

 アイリス・シャルロッテが死亡したという情報を意図的に流した上で、それをシャルロッテ家として認める文章を出せば、サフラン・シャルロッテは領主代理ではなく、本当の領主になる。そのための準備はしてきたはずだ。


「………………姉さま。私の選択は正しいのでしょうか?」


 手に持っているランタンの灯り以外の光がない暗闇の中でサフランがつぶやく。

 その声は暗い通路に少しだけ反響するが、それにたいして答えは返ってこない。


 当然だ。彼女が姉と慕うアイリスはこの場にいないのだから……


「………………考えても仕方ないですね。今は目の前にある問題を一つずつ潰していくことに集中しましょうか……」


 彼女は誰かと会話するわけでもなく、ポツリ、ポツリと言葉を漏らしながら通路を進む。

 やがて、一番奥にある隠し部屋の入り口がある壁の前に到達すると、そこで小さく息を吐いた。


 一見、行きと止まりに見える壁の右側にある一つだけ飛び出しているレンガを思いきり押すと、鈍い音を立てながら壁か開き、大きな魔法陣が描かれた扉が出現する。

 サフランはそれに手を触れると、ゆっくりと魔力を流し始めた。


「我はシャルロッテの後継者なり、この扉開くことを願わん」


 マリナ・シャルロッテが残したわずかな文献のうちの一つに記されていたこの扉の解除方法について書かれていた部分に記されていた文言だ。


 扉に描かれた魔法陣は淡い光を数秒間発したあと、カチャリという小さな音を立てる。


 鍵が開く音を聞き届けたサフランはいったん、魔法陣から手を放して扉を押す。


 ギギッという音を立てながら扉はゆっくりと開き、サフランは部屋の中へと入っていく。


 そこまでの通路と変わらず、真っ暗なその部屋の入り口横にある魔法陣に手を触れると、部屋の中に多数設置されている魔法灯が一気に点灯し、部屋の中を明るく照らし始めた。


「………………ここにこれだけの数の魔法灯を設置するぐらいだったら、少しぐらい通路にもおいてほしいものですけれど……」


 部屋を煌々と照らす魔法灯の数は約二十。部屋の広さを考えれば過剰ともいえるような数だ。そもそも、マリナ・シャルロッテの時代からこの部屋が放置されている可能性を考えると、ちゃんと灯りがつくこと自体、この部屋の仕掛けが高度なものだと裏付けているようなものだ。

 先ほどまで足元すら見えないほど真っ暗な空間から急に明るい空間に来たためか、いまだに目が慣れていないが、サフランは目を細めて目的のものを探す。


 それはすぐに見つかった。

 おそらく、この部屋自体が隠し部屋で発見されない前提で作られているので部屋の中でさらに隠し事をする必要はないと考えているのだろう。

 部屋の片隅に置かれた巨大な装置……マリナ・シャルロッテが生前求め、研究し、ついぞ完成されることのなかった装置……


 “空間転移装置”と文献には記されているそれは、永久の時を生きる魔法使いマーガレットが実現は不可能に等しいと断言した魔法を実現させるためのものだ。

 いったいどういう仕組みで動かそうとしていたのかわからないが、彼女の記録を見る限りこれはほとんど完成形に近づいているようだ。


 残課題としては移動先の座標指定と移動距離、時間による人体への影響の可否の分析だと書かれているあたり、もしかしたら移動自体は成功しているのかも知れない。

 もっとも、この研究自体かなり極秘で行われていたようでその実態はわからない。

 この部屋の中を探ってみても、先のことが示されている文章以外は見つけることができないし、そもそも文献自体がないに等しい状態だ。

 これはある意味でマミ・シャルロッテと対照的なところだろう。


 彼女はあの秘密書斎に膨大ともいえるような文章を残していたが、マリナ・シャルロッテが残してるのはメモ書き程度で、文献といえるほどの文献は全くと言っていいほど存在していない。

 この装置の仕組みや運用方法、計画、研究の記録に至るまで何も残っていないのだ。その理由はよくわからないが、彼女がそういった記録をとることを怠っていたのか、サフランが発見されるより以前に誰かに発見されて、回収されたかのいずれかの可能性が高い。

 真相がどうであれ、彼女が生きていたのははるか昔のため、その時に何があったのかなどは全く持ってわからない。


 サフランは装置を一瞥すると、その横に置いてある羊皮紙を手に取る。

 随分とボロボロになって読み見くくなっているそれは、申し訳なさ程度に残っているメモ書きの一つだ。


 “この空間転移装置に関して、さらなる研究の前進が求められる”


 記されている文章はいたってシンプルだ。

 その下には改良するべき点がいくつか並んでいるが、そのすべてを読むことはできない。


 文章を復元するような魔法を使えればいいのだが、文献自体が古いためにサフランの実力では到底不可能だし、内容が内容だけに外部に依頼するというのも難しい。

 しかし、これさえ実現すればその意義はとても大きくなる。


「…………やっぱり、仕組みを解明するには分解するしかありませんかね……」


 ほとんどものがおいていない地下空間に声が響く。

 残念ながらこの文章を何とかして解明する時間も、ごちゃごちゃと考えをまとめているような時間も残されていない。

 もし、マコトやノノンがシャラハーフェンまで到達すれば、完全にそれどころではなくなってしまう。


 わざわざ、時間稼ぎのために調査依頼まで出しておいたが、それがどれほどの効果を生むのかわからないし、下手をすれば効率よくなおかつ見た目の良い調査方法を見つけて想定される最短時間でシャラハーフェンに到着する恐れもある。

 そうなってしまっては手遅れだ。そうなってしまうと、完成するかどうかわからない装置の研究のための時間など無くなってしまうからだ。


 サフランは愛用の工具を手に持ち、その装置の仕組みを解明するために分解し始める。


 設計図すら残されていないので、あとでもう一度組み立てられるように各部の状態を詳細に記録に残しながら、サフランは分解作業を進めていった。

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