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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十五章
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百三駅目 ココットの事情

「……失礼します」


 誠斗とノノンが部屋に戻ってから約三十分。

 控えめなノックのあとにココットが姿を現した。


 彼女は先ほどまでとは打って変わって、静かに入ってくると誠斗たちが座るベッドの横まで来る。


「そこの椅子に座ったら?」


 ノノンがそういうと、ココットは少し下がって部屋に備え付けてある椅子に腰かけた。

 それを確認すると、ノノンはベッドに座ったまま彼女に話しかける。


 彼女は軽く周りを見回した後に椅子に座り、誠斗たちの方へと視線を送る。


「あの……まずは変なことをしていてすいませんでした。あなた方を不快にさせて本当に申し訳ございません」


 彼女は深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

 ノノンはそんな彼女の姿をあまり感情の感じられないような視線で眺めていた。


「……それで? どうして、私たちについて来ようとしたの?」

「……それは、その……」


 ノノンの質問にココットは視線を泳がせて、明らかに動揺しているような態度を見せる。


「……誰かに頼まれたの?」


 ノノンが質問を重ねると、それが的を射ていたのか彼女はびくりと体を震わせた。

 そんな彼女の態度を見て、ノノンは納得したような表情を浮かべる。


「……なるほど、誰かに私たちについていくように言われたということですね。それで? スパイ活動でもするように言われたのですか?」


 この質問にはココットは首を振って答える。

 それを確認すると、ノノンは小さくため息をつき、さらに言葉を続ける。


「はっきりと言ってもらえないと困るのよ。何が目的で誰に言われてこんなことをしたの? そもそも、あなたは隠せているつもりだったのかもしれないけれど、かなり不自然だったわよ。昨晩はともかく、今朝は三組いた宿泊客の中で私たちにだけ、そういう話を持ち掛けていたものね?」

「いっいえ、あれは……シャラへ行く方がほかにいなくて……」

「そう。仮にそうだとして、どうして私たちがシャラへ行く話をしているってすぐにわかったの? 仕事中だというのにそんなすべての席の人たちの会話なんて全部理解できたりなんかしないでしょう? それとも、あなたにはそれができるの?」


 ノノンが質問を重ねるたびにココットがどんどんと委縮していく。

 その態度を見る限り、ノノンが指摘している点が間違ってなく、それからどうやって逃れようかと考えているのだろう。


「……この期に来ても言い訳を考えているの? 早く素直に話してくれないと、こっちも急いでいるのだけど」


 ノノンのさらなる追求にココットは視線を泳がせる。

 そして、ついには言い逃れできないと悟ったのか、ポツリ、ポツリと話始めた。


「……ノノンさんのいう通り、私はある方にあなた方の旅に同行するようにと言われました……」

「ある方っていうのは誰?」


 ココットはすぐに首を振る。

 話すことができないか、もしくはその人物が誰かはっきりとわかっていないのだろう。


「……それで? ただ同行するようにと言われただけじゃないでしょう?」

「はい。その、親しい方を人質に取られてしまいまして……それでですね。あなたたちと同行して、シャラハーフェンまで誘導すれば開放すると……言われました」

「人質ってそんなに大切な人なの?」


 ノノンの質問にココットは小さくうなづく。


「あの……本当にすいませんでした。あの、それでも……何とかシャラハーフェンまで一緒に行かせてもらえないでしょうか? その、本当にお願いします!」


 一通り事情を話してしまったせいですっきりしたのか、彼女は先ほどとは打って変わって勢いよく頭を下げる。

 それを見たノノンは小さくため息をついた。


「……って言っているけれどどうする? どうせ、シャラブールまで行くんだから隣町のシャラハーフェンぐらいまでなら行っても大して変わらないし、彼女自身は困っているみたいだけど」


 話を聞き終えたノノンはここにきて、唐突に誠斗に対して判断を求めてきた。

 彼女からすれば、断るにしても彼女を連れていくにしても最終的には誠斗に判断を仰ぐべきだと考えているのかもしれない。


「えっと……」


 しかし、こうも唐突に判断を振られても誠斗はすぐに返答できない。

 なので結果的には答えに詰まるだけだ。


 そんな誠斗をノノンとココットはそれぞれ機体のまなざしで眺めていて、それを見ているとノノンが何を言いたいのか徐々にわかってきたような気がする。


「……はぁ仕方ない。とりあえずついてきてもらおうか……その代わり、いろいろとやってもらうけれど……」


 結果的にノノンも誠斗もとんだお人よしだという結論へとたどり着いた。

 ノノンとしても、結局彼女の申し出を完全に断るという選択肢に出ることができない一方で、あんなことを言った手前、今更ついてきてもいいなどとは言いだしづらく、誠斗に助け舟を求めたといったところなのだろう。

 誠斗は内心ため息をつきながらも彼女を引き受けることにした。もちろん、警戒は怠るつもりはない。


「ねぇどういうつもりなの?」


 ほっとしたように胸をなでおろしているココットの耳に届かないような声でノノンに問いかける。


「……確かに普通なら断りたいところだけど、誰が彼女を送り込んだのかわからない以上、警戒するべき敵がわからないじゃない。せっかくなら、その敵さんの思惑に乗って、叩き潰そうっていうぐらいにか考えていないわ」

「あーそういうことか……」


 要するに見えない敵をむやみやたらに警戒するよりも、あえて敵の策略に乗って、その敵を見つけようということらしい。

 確かに相手の目的がわからないうえに、その正体もわからないとなれば対策の取りようがない。


 その一方でココットがしっかりと誠斗たちをシャラハーフェンまで連れていくとなれば、その道中で直接手を出してくる可能性というのは低くなる。

 それにココットもわざわざ、“ばれましたけれど、ついてきてくれることになりました”というような報告はしないはずなので、敵からすれば作戦は順調に進んでいるという風に見て取れる。そうなれば、余計に手を出してくることはないだろう。


「ココット」

「はい」

「あなたは、敵さんに首尾はどうかと聞かれたら、順調に言っていると答えなさい。それと私たちの行動について聞かれたら、シャルロッテ家の依頼で調査を行っているらしい。その内容はわからない。って答えるの。いいわね」


 そんなことを考えている誠斗の横でノノンはちゃっかりとココットが自分たちにとって都合のいい報告をするようにと仕向け始めていた。

 念には念をということだろう。ココットは真摯に話を聞いている。


 出発して二日目にしていきなり大きな不安にぶつかったわけだが、今のところは何とかなりそうだ。


「さて、時間が惜しいわ。話はこれぐらいにしましょうか……それと、私たちは結局ココットが交渉した結果、仕方なく旅に同行されることにしたわけだから、これ以降は敵がどうとかいうのはやめてちょうだい。それと、もしものことを考えてココットは調査に参加しないでおいてちょうだい」

「……わかりました」

「はいはい。そういうのもいいから……っていうのは難しいでしょうけれど、宿を出るときぐらい明るくしなさいね」

「はい」


 宿屋で接客していた時よりもはるかに小さい声で返事をするココットを見て、ノノンは小さくため息をつく。


「それじゃ行こうか」


 改めて誠斗がうなづくと、二人はうなづいて立ち上がる。

 ノノンはすぐにリュックの中に入り、持ち上げてくれと言わんばかりの視線を誠斗へとむける。


「はいはい。わかってるよ」


 誠斗は半ばあきれながら、カバンを持ち上げ、ココットは荷物を取りに行ったのか、パタパタと足音を立てて部屋から出ていく。


「全く、厄介なことになったわね」

「……そうだね」


 誠斗はノノンとそんな短い会話を交わしてから、忘れ物がないか軽く部屋の中を見て回ってから、その部屋を後にした。

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