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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十五章
127/324

百二駅目 宿で迎える朝

 朝。

 誠斗とノノンは窓から差し込む朝日で目を覚ました。


 昨晩、湯船でのぼせるまで話し込んだ二人は部屋に入ってからもすっかりと話し込んでしまい二人そろって寝不足だ。

 しかし、いくら寝不足とは言えども先を急がなければならない。冷静に考えてみれば、こんなことをしている場合ではないのだ。


 それでもなお、調査を交えながら進んでいけるというのは、心のどこかでマーガレットなら大丈夫だという一種の信頼のようなモノがあるのかもしれない。とはいえども、なるべく早いにこしたことはないのだが……


「さてと……早速、準備しないとね……」

「うん。でも、その前に朝食食べたい」

「あーまぁそうしようか」


 寝起きのぼぅとした頭でそんな会話を交わしたあと、二人はそれぞれのベッドから出て服装を軽く整えてから食堂へと向かう。

 食堂は昨日とは違い何人かの宿泊客の姿があって、すでに食事をとっている。


「やっぱり三組だったのかな?」


 その光景を見て、ノノンが口を開く。


 確かに誠斗とノノンが席に着くと、自分たちを含めてグループはちょうど三つに分かれる。


 一つは昨日、食堂で酔いつぶれていた人物、二つ目は証人と思われる恰幅の良い男たち数人のグループ、そして最後に二人組の誠斗とノノンだ。


「あっおはようございます。ご朝食ですか?」


 食堂で席に着いた二人に気づいたココットが駆け寄ってくる。

 彼女の手にはしっかりとメニューがあって、彼女はそれを誠斗たちの前に置く。


「はい。注文は後でしまうのでまたきてもらってもいいですか?」

「かしこまりました。またお声掛けください」


 ココットは頭を下げて席から離れる。

 朝食のメニューは夜のメニューとは違い、酒などはなくパンをはじめとして軽食に近いものがメニューとして並ぶ。

 誠斗とノノンはその中から比較的値段の安いメニューを注文し、再び話し始める。


「それにしても、まだまだ先は遠そうだね……」

「まぁ確かにシャラ領まで行くっていうのは並大抵のことじゃないわ。ドラゴンでも使わない限りは長旅覚悟で行かないとだし……」


 今朝の二人の話題はこれからの旅路についてだ。

 昨日はすっかりと話し込んでしまった関係で忘れていたのだが、今日一日でどこまで行こうかという話ができていなかったのだ。

 誠斗としては別にそういったのはいらない様な気もするのだが、あまりにも行き当たりばったり過ぎるのはだめだと資料に書いてあるのでとりあえず、今日の予定だけでも立てたいところだ。


「お二人はシャラ領へ行かれる途中なんですか?」


 ここでまた会話を盗み聞ぎ……もとい、会話が偶然聞こえていたらしいココットが声をかける。


「えっとまぁ……はい」


 昨日とは違い、別に聞かれても困る内容ではないので誠斗は少し迷いながらも返答をする。

 それに対して、ココットは顔をパッと明るくさせて飛び跳ねた。


「あぁ良かった! 実はシャラハーフェンという港町まで行かないといけなくて、あちら方面へ一緒に行っていただける方を探していたんですよ。私も代理まで立てたはいいのですが、なかなかそういう方がいなくて……あぁそれで、その……皆様の会話をこっそりと拝聴していたのですけれども……」

「あぁそういうことか……」


 どうやら、彼女は偶然会話が耳に入って話しかけたというわけではなく、本当に盗み聞ぎのようなことをしていたらしい。

 それはそれでどうなのかと思うが、彼女はそれほどまで必死になって同行者を探していたということなのだろうか?


 それはそれでいいのだが、そんな理由で話を聞かれていたというのは何とも微妙なところだ。


「いやいや、一緒に行くって私たちみたいなのでいいの?」


 誠斗が複雑な表情を浮かべている横でノノンがココットに尋ねる。

 こちらからすれば、断りたいところなのだが、ノノンは彼女の行動の理由が知りたいようだ。


 ココットはなぜか、きょとんとした表情を浮かべてからすぐに笑顔を浮かべる。


「はい。一人で行くのが嫌なだけで誰でもよかったんですよ。もちろん、それなりには選んでいますけれど、私の代理として働いてくれる人まで用意した以上、そろそろ出発しなきゃなと思っていた矢先に、シャラ方面へ行く可能性がありそうなあなた方を見かけたものですから……話を聞かれていたことが不快だったら謝罪します」


 彼女は今度はどこか申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げる。

 こうしてみていると、表情がころころ変わる子だなという印象を受けた。


「あーとはいってもね……マコト」


 ノノンが誠斗に視線を送る。

 その表情には何とかして断ってくれと書いてあるようにすら思えた。


「あのね。その……ボクたちとしても君を連れていけないことはないかもしれないけれどさ……ボクたちにはボクたちなりの考えがあって、この二人になっているから……その……君を加えるというわけにはいかないかな……」


 少し遠回りに二人で行きたいから受け入れられないという意向を伝える。

 もっとストレートに断った方がいいのかもしれないが、日本人の悪い性というか、誠斗の言来の性格というか、微妙なところであるのか、どちらか微妙なところだが、あまりはっきりということが出来なかった。

 善処するといえば大体断るという日本人的な考えをココットが持っているはずがなく、ココットは誠斗があいまいな断り方をしたのをチャンスだといわんばかりに食いついてきた。


「そんなことを言わずにそこを何とか! お願いしますよ! ほかのところは屈強な男の方ばかりだとか、怪しい集団だったりだとかであまり安心感がないといいますか、なんといいますか……とにかく、護衛してくれなんて言いませんし、いつでも見捨ててくれてかまわないので! あぁそれとお礼金! これもちゃんと用意していますのでどうかお願いします!」


 彼女は必死に頭を下げる。

 なんではっきりと断らなかったのだと言わんばかりのノノン視線が誠斗の体に突き刺さる中、誠斗は何とか断ろうと次の言葉を考える。


「いや、あの……でもね……」


 しかし、最初に隙を与えてしまったことが災いしてうまく断る言葉を見つけることができない。


「……あなたはどうしてシャラに行くの?」


 助け舟を出したつもりなのかわからないが、横からノノンが口を挟む。


「えっ? シャラハーフェンへ行く理由ですか?」

「そうよ。何かあるんじゃないの……私たちに話しかけた理由も実は別にあったりするんじゃない?」

「えっいや……その……」


 ノノンの言葉に次はココットが言葉を詰まらせる。


「あのね。礼金まで用意して、旅に同行させてくださいっていうぐらいなら、それなりのところに頼めばいいじゃない。なのにただの旅人である私たちに頼むっていうのはどういうことなの?」

「……それは……」

「それも話せない様だと、根底からだめね。ほかをあたってちょうだい」


 回答に窮するココットを横目にノノンは目の前にあったパンをスープを口の中へ詰め込んで立ち上がる。

 誠斗も残っていたパンをもって彼女の背中を追いかけて歩き始めた。


「……待ってください」


 そんな二人を呼び止めるようにココットがか細い声で話しかける。


「……何?」


 呼び止めるココットにかけられるノノンからの声はかなり冷たい。

 それに怯えながらもココットはゆっくりと口を開く。


「わかりました。お話ししますので……それでいいですか?」

「……聞かせてもらおうかしら? 部屋でいい?」

「はい……あとでうかがいます」


 降参したといわんばかりに頭をうなだれるココットをしり目にノノンは食堂から出ていく。


 誠斗は一瞬、迷ったが彼女の背中を追いかけてすぐに食堂から出ていく。


「ちょっと、ノノン」

「……これでいいのよ。私としても彼女の行動は気になっていたところだし……」


 狙い通りだったのか、ノノンはどこか満足げだ。


 しかし、この調子だとなんとなく厄介ごとが増えそうな気がする。


 誠斗は部屋へと向かうノノンの背中を見ながら小さくため息をついた。

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