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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十五章
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百一駅目 ツリームの現状

 食事を終えた後、誠斗とノノンはココットを呼んでさっそく、先ほど二人で考えた質問をぶつけた。

 ただ、鉄道はいまだに表に発表されていない技術のため、調査目的を伏せるためにいくつかカモフラージュのための質問を用意して、その中の一つとして人の流れについて聞くことにした。

 もちろん、こんな食堂で話をしていた時点で秘密も何もあるのかと聞かれればそれまでかもしれないが、それについては次から気を付けるようにすればいいだろう。


「なるほど……人の流れですか……」


 ついに本命である人の流れについて聞いた時、ココットは初めて悩むような反応を見せた。

 当然だ。ここまでは各町の現状調査と称して名物や人口、宿屋の数といったあたりを聞いていたのだから、これまでとは少し毛色の違う質問に戸惑っているのだろう。

 誠斗は彼女をせかすわけでもなくのんびりと構える。明日の朝ぐらいに町を発つつもりなので時間はまだまだあるし、必要以上に焦られて、情報の正確さが失われるのはどうしても避けたいところだ。


「そうですね。この町は宿場町ですから確かにたくさんの人が出入りします。ただ、北大街道から少し外れているので通過だけという人は意外と少ないと思います。なのでこの町に来るのはほかの街に移動する途中で休息のために寄るという人が圧倒的多数を占めていますね。町の外との交流となりますと、北大街道方面以外はあまり大きな通りはなく、外周街道とも接続している街道というくくりにはなっていますが、距離があります。そのあたりもあって、周辺都市との交流というのは意外と少なく手ですね。食料等もほとんどが町の周辺の田畑で生産されて、町の中で大半が消費されます。工業製品も似たようなものです。こんな具合でどうでしょうか?」


 対して息継ぎをするわけでもなく、一辺に以上の内容を話したココットはどこか達成感を感じていそうな表情を浮かべている。

 誠斗としてもちょうどほしい情報も含まれていたのでそれを必死にメモへとしたためていった。


「なるほどね。確かにそれだと人の流れは活発じゃないほうっていうことになるのかな?」

「残念ながらそうですね。もう少し街道沿いにあればなんとかなんとかなるのかもしれませんが、現状はなんとも……」


 彼女はそう言いながら人のいない店内へと視線を動かす。

 本来なら、この食堂はもっと活気があふれていてもおかしくないのだろうが、街道が近くないことに重ねてアスナロ宿が一気に客をもっていくせいでこのような状態になっているのだろう。

 誠斗の記憶が正しければ、誠斗とノノンで三組目の客のはずだ。あの後、ほかの宿泊客が現れていないとすれば、宿泊客全員が集まってもこの食堂の机はほとんど埋まらないだろう。


 実際は大きな建物を持つアスナロ宿が繁盛して満室だというのだから、たくさんの人が宿を求めてこの辺りに来ているのだろうが、必ずしもそれがすべてこの町で乗り降りする旅客になるかどうかと聞かれると話は別だ。

 誰もがあくまでここは単なる経由地だと考えているのなら、鉄道が出来てスピードアップが図られたときに降りる人がどれだけ存在しているのかという点について疑問符がつく。


 もちろん、、町の規模からして周りの街との接続を図ればそれなりに乗客は望めるのだろうが、現状町の中で商取引が完結しているのなら、劇的にほかの街と交流が増えるといった可能性は低いかもしれない。


 自分の考察も交えつつ羊皮紙に書き終えると、誠斗は顔をあげてココットの顔を見る。


「ありがとうございます。これで大丈夫です。あと、お風呂入りたいんですけれどいいですか?」

「えっはい。かしこまりました。それではお食事代とお風呂代を併せて請求させていただきますね。会計までどうぞ」

「はい」


 誠斗は話の途中から名残惜しそうに開いた皿を見つめていたノノンを引っ張るような形で立ち上がる。

 マーガレットと一緒にいるときは全く見せなかったが、どうやらこの大妖精は食事の量が一般よりも多いらしい。

 なんでマーガレットと一緒にいたときはそういった一面を見せなかったのか気になるが、それについてはわざわざ追及するほどの問題ではないだろう。


 誠斗は小さくため息をつきつつも最初に案内されていた浴場のほうへと向かった。




 *




 カポーン。まさにそんな効果音をつけたくなるような大浴場。

 本来、男女に分かれて入るはずのそこで誠斗とノノンは同じ湯船につかっていた。


 当初は二人とも別々に入ろうとしたのだが、掃除中で片方しか開いていないということと、ほかの宿泊客がすでに入浴しているということから、二人で一緒に入ってほしいということにつながったのだ。

 相手からすれば、親子のようなものだという勘違いもあったし、ノノンは別に問題ないと答えたのでこうしているのだが、誠斗としては何とも目のやり場に困るような状態だ。


 別に彼女をずっと見続ける必要はないので視線を外してもいいのだが、ノノンはそれが不服のようだ。


 なぜか、誠斗の視界に回り込むように移動しながら必死に視界に入ろうとする。


「……あのさ……何がしたいの?」


 彼女の不可解な行動に誠斗はようやく疑問を口にした。


 ノノンは誠斗からの疑問の意味を理解できなかったのか、しばらくの間首を傾げた後に口を開いた。


「何って、話がしたいだけだけど? だって、目を見ないで話すなんて失礼でしょ?」


 返ってきたのはものすごく単純な答えだ。

 確かに人と話すときに目をそらして話すというのは十分失礼にあたる。


 彼女はそう考えたうえでこういった行動を取っているようだ。


「あぁそういうことか……」


 普段は肘をつきながら話していたりと十分に失礼な態度をとっているような気もするが、彼女の中でこれは最低限気を付けるべき事項なのだろう。


「あぁそういうことか……まぁなんというか」

「ん? 何?」

「いや、なんでもない」


 あまり異性の裸体を見るのはよろしくないからこうしていたと言おうとも思ったが、ノノンの場合そんな誰にでもそういったことをするようには思えなかったのでとりあえずは何も言わないでいいだろう。


「それで? 何を話に来たの?」


 誠斗が尋ねると、ノノンは小さく笑みを浮かべる。


「別に? これっていうほどはないかな。ただ、なんとなくマコトと話しがしたくなったの。だって、ここに来るまであんまり話しなかったでしょう?」

「なんとなくね。それじゃ、何を話そうか?」


 誠斗がそういうと、ノノンはさらに笑顔を浮かべる。


「えっと、そうだ。せっかくだからさ、マコトがいた世界の話。何か聞かせて。例えばさ……あっちの世界のお風呂ってどうだったの?」


 今、ふろに入っているからと言ってその話題はないだろうと思うが、ノノンが眼をキラキラと輝かせながらそういうものだから、たまにはそういう話も面白いと思い直して話し始める。


「そうだね。これはあくまでボクの住んでいた町がそうだったっていう話なんだけれどね……」


 そんなある意味で典型的(テンプレート)ともいえるような出だしで誠斗は話し始める。


 それをきっかけにして、これまであまり話してこなかった鉄道以外に関する話を話していく。

 あまり長話をするとのぼせてしまうのである程度で区切って風呂から上がるということも考えないといけない。


 そんなことを考えつつも、話の内容によって変化するノノンの態度が面白くて、気が付けば二人は湯船の中ですっかりと話し込んでいた。

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