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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十五章
125/324

百駅目 宿屋の食堂にて

 宿についた後、しばらくの間ゆっくりと休んでいた二人は、少し遅めの夕食を取るために一階へと降りていた。

 食事をするには少し遅いという時間だからか、食堂にはあまり人の姿がなく、酔いつぶれた男が寝ているぐらいである。


「あっいらっしゃいませ。今はほとんど空いているのでお好きな席へどうぞ。メニュー取ってきますね」


 誠斗たちが食堂に入ってきたことに気が付いたのか、給仕服を着たココットが明るい声で出迎える。

 彼女が掃除道具を手に持っていた当たり、客が来ない時間だからと片づけをしていたのかもしれない。珍しい時間の来客に少し焦っているのか、彼女はパタパタと音を立てて厨房の方へと入っていく。

 もう少し早く食事に来ればよかったと少し思ったが、食堂、浴場はいつでも利用できるといったのはあちらなので問題はないだろう。


 適当に開いている席に座って、五分少々待っていると、厨房からメニューと思われる紙を持ったココットが戻ってくる。


「お待たせしました。ご注文が決まりましたらまた声をかけてください」


 彼女はそういうと、軽く頭を下げて立ち去っていく。


 メニューに目を落として見れば、比較的安めの値段でいくつかの料理が提供されていることがわかる。

 誠斗とノノンはそれぞれ適当なメニューを選んでそれを注文する。


 注文を受けたココットは再びパタパタという足音を立てて厨房へと入っていく。


「それにしても、この宿屋は少ない人数でやっているみたいね」


 ココットの背中を見送りながらノノンがつぶやく。


「そうだね。まぁでも、町の宿屋だとこんな具合なんじゃないの? 確かにシャルロシティあたりの宿屋は従業員もたくさんいたけれど、泊まる宿によっては全然違うだろうし」

「……まぁそうかもしれないね。それで? ここまで来たけれど、明日からはどうするの? もっと先に向かう? それとも、もう少し滞在して調査記録でも作っておく?」


 机の上に肘をつきながらノノンが尋ねる。

 そもそも、今回に旅の目的はマーガレットとアイリスの救出であるが、その一方で名目上は鉄道建設のための調査なのでそれ相応の何かを用意しなければならない。

 本来なら適当に済ませたいところだが、それが原因でのちに問題が発生するようなことにはしたくないので、何かしらの調査資料を早く、確実に作成するというのも重要だ。

 誠斗は、そのあたりのことを精査しながら口を開く。


「……そうだね。実際に鉄道を敷設するとなるといくつかの街を経由していく必要があるだろうから、具体的なルートというよりもどこを経由するべきかの調査だって説明して、道中にある宿場町をいくつか見ていく方式なんかはどうかな? それなら、調査資料として成立するし、その日の宿がある町で少し休む時間を削って町の中を見ていけば時間の無駄も省けるかもしれないし」

「あーなるほどね。確かにそれなら問題なさそうね。それをしたうえで各町と町を結びルートはどこを通るか決定してから決めますっていうことでしょ? なかなかいい案じゃない」


 誠斗の提案にノノンもどうやら乗り気のようだ。

 ただ、ツリームの状況を調査しないわけにはいかないのでそこのあたりの時間は少なからず発生してしまうが、次の街からはやり方さえ工夫できれば、移動時間を延ばさずに調査が完了できる可能性もある。

 もちろん、各領の中心街をはじめとした大きな都市はそれなりに時間を食うことになるかもしれないが、地図を見る限りそこまでの規模の都市はカルロフォレストぐらいであり、その次に到達するシャラブールはマーガレットがいる可能性が高いとされている目的地だ。

 そう考えてみれば、大きな問題は発生する気配はないように思える。


「お待たせいたしました」


 その直後、料理を持ったココットが席へとやってきた。


「何かの調査で旅をしているんですか?」


 先ほどの会話を聞いていたらしい彼女は料理を置きながら誠斗たちに問いかける。


「まぁそうだね。具体的に説明しろと言われると、難しいけれど調査の依頼を受けて旅をしている途中であることは確かだよ。まぁこんなところで何を対象にどんな調査をするかなんて言う話をしているような状態だけれどね」

「なるほど、そうですか。でしたら、私からこの街の情報を提供しましょうか? 必要な情報を提示していただければ、答えられる範囲でお答えいたしますよ」

「ありがとう。それじゃあ、後で聞いてもいいかな?」

「はい。わかりました」


 思ってもみない方向から提案に喜ぶと同時にこういった話をするところを考えないといけないと誠斗は感じた。

 ココットからすれば完全に善意の提案なのだろうが、それは誠斗とノノンの会話がほかにも聞こえていたということにもつながるからだ。


 席から離れていくココットの背中を見送りながら、誠斗はノノンに目配せをする。


 ノノンはその意味を理解したのか、何度かうなづいた後口を開いた。


「それにしても、何を聞こうかしら? そのあたり、整理してから聞いたほうがいいわよね?」


 いや、理解していなかった。

 彼女は出された料理を食べつつもどこからから羊皮紙とペンを取り出して、要点の整理を始める。


 そもそも、この食堂にはココットのほかに酔いつぶれた男が一人いるぐらいなのでそこまで気にする必要もないかもしれない。

 誠斗は改めて食堂の中を見回して見るが、やはりほかの客の姿は見えない。


「まぁそれじゃ食べながら整理していこうか」


 先ほどよりも声を潜めて誠斗はノノンに話しかける。

 彼女は口いっぱいにパンをほおばりながらコクンとうなづいた。


「そんなに急がなくてもパンは逃げないよ」

「はいほうふふぁよ。ふぁんとふぁんでるから(大丈夫だよ。ちゃんと噛んでいるから)」

「せめて、飲み込んでから話してほしいんだけど」


 誠斗が指摘すると、ノノンはそのままほおばっていたパンを一気に飲み込んで、横に置いてあった水を勢いよく流し込んだ。

 流れるようにそこまでの作業を終えた彼女はそのまま何事もなかったかのように誠斗の方へと向き直った。


「……はいはい。それで? どうするの?」

「どうするのって、まぁそうだね。とりあえず、一番なのはこの町を通って、もしくはこの町を目的地にしてきたりする人やこの町とほかの町を行き来している人の数が知りたいよね」

「……長い。まとめて」


 少し説明が細かすぎたようでノノンは持っていたフォークを誠斗へと向ける。

 その表情は不満そのものだ。


 これはまずいと判断した誠斗は頭の中を若干整理してから再びノノンに説明する。


「つまりは人の流れを知りたいわけで……」


 随分と簡単にまとめたこの説明でノノンはようやく納得したようにうなづき、手元にあるパンをほおばる。


「それそれ。そういう簡単な説明がほしかったの」

「あーうん。次から気を付ける」


 ノノンは誠斗の説明に満足出来たようで、とても上機嫌だ。

 誠斗は自分の説明がそんなにわかりづらいのかと考えつつ、羊皮紙にペンを走らせるノノンに視線を送る。


「とりあえずはそれぐらいにしておく? 町の規模なんかは調べれば後からでもでしょうし……」

「そうだね。どうやって線路を引けばどういう風に人が移動するかっていうのは根拠として重要だから、それに重点を置くっていうのはいいと思うよ」


 いかにもちゃんと調査していそうな内容だ。

 これの利点としては町の宿屋で話を聞けば、ある程度把握できるので必要以上に出歩く必要がないという点になる。

 我ながらいい提案だと思いながら、今度はどうやって聞くかと頭の中で整理し始めた。


 そうしている間にノノンは食事をすべて胃袋の中へ流し込み、こっそりと誠斗の分にも手を伸ばす。


「こら」


 その手をはじいたあと、誠斗は目の前にあるパンを食べ始めた。

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