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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十五章
123/324

九十八駅目 宿場町ツリーム

 北大街道から少しだけ外れた場所にある宿場町の一つツリーム。

 シャルロッテ家の屋敷を出てから丸一日をかけて誠斗とノノンはこの町に到着していた。


 予定では昼頃にはこの町に到着していたいところだったのだが、慣れない歩きでの旅ということもあり、休息を挟みすぎてあまり進めなかったのが主な原因だ。

 もちろん、ある程度の遅れは覚悟していたのだが、ここまで時間がかかると少し計画を見直さないといけないかもしれない。


 夕刻あたりになり到着したこの町はきれいに整備された石畳のメインストリートが町の中心を貫き、その左右に木造の家が並ぶ。たとえるなら、石造りと木造の町といったところだろうか?

 中央のメインストリートには行商人や旅人と思われる人たちが溢れかえり、その人々を相手に商売をしている地元の商人たちの声が響き渡る。


 そんな街の中を歩きながら、誠斗は今夜の宿を探していた。


 例の資料によれば、この町で値段、質ともに上等な宿は二つあるらしい。中でも、そのうちの一つは信頼度も高いという評価がされている。

 誠斗は評価が高い方の宿を目指して歩いていた。


「ねぇまだ宿につかないの?」


 リュックから顔を出しているノノンが誠斗に尋ねる。

 誠斗は手元の地図に視線を落したままノノンの疑問に答え始めた。


「うん。そうだね……確か、この通り沿いに“アスナロ宿ツリーム”っていう宿があるらしいんだけど、どこにあるのかな……」

「アスナロ宿ってそんなにいいところなの?」


 ノノンが聞くと、誠斗は資料のページを何枚かめくって改めてその宿の概要を確認し始めた。


「……そうだね。アスナロ宿っていうのは、アスナロっていう宿屋ギルドが運営している宿のことで、このギルドの本部は新メロ王国にあるんだけど、旧妖精国地域を中心にいくつもの宿を運営しているみたいだね。まぁ要するに何店舗も展開できているし、それらがどれも評価が高いから、信頼がおけるっていうこともあるのかもね」


 まるで日本のチェーン店のようだと心の中で付け足しながら答えると、背後でノノンがうなづいているのが伝わってくる。どうやら、納得してくれたようだ。

 資料の書き方からして、このような形の宿屋はいくつか存在しているようで中でもアスナロが運営する宿屋は評価が高いとみることもできる。なお、もう一つ高い評価がついている宿はエルフ商会が運営する“隠れ家の宿アスナロ”という宿屋だ。


 ノノンを連れて行くのならある意味安全なのかもしれないが、例に漏れず路地裏のややこしい場所にあるらしく、素直に見つけづらいという難点がある。おそらく、シルクの店と同様にパッと見でわからないようになっているだろうから尚更だ。


「この地図だと、あと少しでつくはず……」


 だからこそ、誠斗はわかりやすい場所にあって評価の高いアスナロ宿ツリームを目指すことにしたのだ。町の中の状況が路地裏に至るまで詳しく書き記されているその地図を見る限り、その宿は町の中心部にある小さな広場の近くにあるようだ。

 自分たちの現在地は町の入り口付近なのでもう少し歩く必要がありそうだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、やがて視界の向こうに小さな広場が見えてきた。

 こうもあっさりとついた当たり、思ったよりもこの町は狭いらしい。


「ちょっとそこの旅のお方。少しいいですか?」


 誠斗が背後から声をかけられたのはちょうどそんな時だった。


「ボクのことですか?」


 振り向きながら答えてみると、白銀色の髪の少女がにっこりと笑みを浮かべて立っていて、彼女は誠斗の質問に何度もうなづいて答えながら誠斗の方へと歩み寄ってくる。


「今夜の宿はお決まりですか? そうでなければ、私の父がやっている宿なんてどうでしょうかという誘いなんですけれどもね。どうですか?」

「なるほど……そういうことか……」


 どうやら、少女は宿屋の呼び込みで来たらしい。

 正直なところ、宿はどこに泊まるか決めていたのだが、せっかく声をかけられたのだし、それに応じてもいいような気がする。


「……うーん。そうだな……」

「あぁそうそう。もしも、アスナロに泊まるつもりだったら、今から行ってもいっぱいですよ。あそこは人気ですからね。私たちはあそこにいっぱいだからと断られた人を中心に商売をしているわけでして……それで、私が知る限り今夜はあの宿はすでに満室です。信用できないというのなら、私はここで待っているので確かめてきたらどうですか?」


 彼女は自信満々に絶対に間違いないと言わんばかりに真っすぐと誠斗の目をいるような視線を向ける。

 確かに今目指していた宿屋は人気のようだし、近くを通る北大街道は通行料が多いので彼女の話もあながちウソには思えない。そうなると、本当にアスナロ宿ツリームは満室で彼女はそのおこぼれを拾おうとしている宿屋の一人娘ということになるのだろう。別に宿がどこがいいとか、大きくこだわりがあったわけでもないし、ついていくのもいいかもしれない。


「ノノン。どうする?」

「……マコトに任せるわ」


 リュックの入っているノノンから実質的な了承を得た誠斗は改めて白銀の紙の少女に視線を戻す。


「それじゃ頼んでもいい? 宿屋まで連れて行ってくれるってことでしょ?」

「はい。ありがとうございます! それではついてきてください!」


 彼女はパッと明るい笑顔を浮かべて、誠斗の手をつかむ。

 そのあと、広場がある方向とは逆に向けて歩き出した。


「それにしてもよかったですよ。大体の方は直ぐに信じてくれなくて、あのあたりで待っていたりするんですけれどね。そうしている間にあのアスナロ宿の周辺で別の宿の勧誘につかまってそのまま来ないなんてことも結構あるので」

「そうなんだ……」


 それはアスナロ宿の前で勧誘をしないあなたが悪いんじゃないかといいたいところだが、それには事情があるのだろうから、下手に追及しない方がいいだろう。この町にはこの町のルールがあるから、彼女もそれに従った結果だと返してくるだろうと予想するのはかなり容易だ。仮にそうではないとしても、何の意味もなくこんなことはしていないだろうから、それを非効率だと勝手に指摘するのはあまりよろしくないだろう。


「ねぇ。なんでアスナロ宿の前で勧誘しないの?」


 しかし、誠斗のそんな考えなどまったく知るよりもないノノンが質問をぶつける。

 彼女の声が聞こえるまでその存在に気付いていなかったらしい少女は周りを何度か見回した後に誠斗の方を見る。

 誠斗は苦笑いを浮かべながらリュックからノノンを引っ張り出して、彼女の前に下ろす。もちろん、彼女の羽は他人から見えないように魔法を使って隠している。


「あぁなるほど、お子様をリュックに入れていたんですね。旅にしては軽装だと思いましたが、そういうカバンでしたか。たまにいるんですよね。そういった特殊なカバンに旅の荷物とお子様を入れて移動する方。ということは二人部屋を用意しないとですね……とそんなことを言っている場合じゃなかった」


 都合よく誠斗とノノンの関係を親子だと勘違いしてくれた少女はノノンの視線の高さに合わせるようにしてしゃがむ。


「あのですね。この町だけじゃないんですけれど、宿場町というのは基本的にいくつかの区画に分けられていてですね。それぞれの宿屋の建っている場所に合わせてお客様に声をかけてもいいエリアというのが決まっているんですよ。例えば、とってもお金をたくさん持っていて、従業員がたくさんいる宿屋の主人がそれらを使って、町中で呼び込みを行えばほかの宿には人がいかなくなってしまうっていうことを阻止するための決まりです。まぁ私のところみたいにそれのせいで損をしている場所というのも多いですけれど……と子供には難しすぎましたかね? 私、こういうの苦手で……」

「あぁいえ、ありがとうございます。こいつにはボクからも話しておきますので」


 誠斗はそういいながらノノンの頭をポンポンと軽く触る。

 自分とノノンが親子ではないと否定したうえでどういった関係なのかという点を真実をごまかしながら説明するのも面倒だし、相手が親子だと勘違いしているのならそれらしい行動を取った方がいいと判断したのだ。


 少女は誠斗の答えで納得することができたようで小さくうなづいて立ち上がる。


「そうですね。それでは案内を再開しましょうか」


 彼女はそういうと、にっこりと笑みを浮かべてから、誠斗たちの少し前に立って歩き始めた。

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