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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十五章
122/324

九十七駅目 旅立ち

 シャルロ領を治めるシャルロッテ家の屋敷の玄関前。

 早朝にも関わらず、そこにはいくつかの人影があった。


 誠斗は昨日買ったリュックをわきに置いて立っていて、リュックがおいてある方の反対側にはノノンが立っている。そのほかの人影は早朝にも関わらず集まってくれた見送りの人たちだ。といっても、そのほとんどはシャルロッテ家の屋敷に住んでいる人たちで部外者といえば、シルクぐらいしか見当たらない。


 その中で一番最初に口を開いたのは誠斗とノノンから見てちょうど向かい側に立っているサフランだ。


「………………早く行った方がいいということはわかりますが、予想以上に早いですね」

「まぁボクでもびっくりしてるよ。本当に」

「………………まぁいいです。いい買い物もできているようですし、あとは道中気を付けていくだけですね。調査はもちろん“目的”もちゃんと果たしてください」

「それはもちろん。全力でやらせてもらうよ」


 おそらく、周りにシャルロッテ家で住み込みで働いている人たちがいるから伏せたのだろうが、彼女がいう目的はマーガレットとアイリスの救出とみて間違いないだろう。

 だからこそ、誠斗もしっかりとうなづいてサフランと握手を交わす。


「…………くれぐれもお願いします」

「はい。もちろん」


 サフランが離れると、次はシルクがやってくる。


「まったく、予想外の展開だね。まぁでも、シャラはいい町だ。目的をちゃんと果たした後は少しぐらい観光してきてもいいかもな」

「うん。ありがとう」


 そのあとも住み込みで働いている鍛冶職人やら使用人やらから少しずつ言葉をもらって誠斗はリュックを背負おうとする。


「あっちょっと待って!」


 しかし、ノノンは直前になってその行動を止めた。

 誠斗がきょとんとしていると、ノノンはリュックの口を開けて、その中に頭から入る。しばらくごそごそとした後にリュックの口から頭を出した。


「これでよしっ」

「なんでそうなるんだよ」


 あきれ返る誠斗に対して、ノノンは対して気にする様子はなく、早く持ち上げて出発しろと言わんばかりの勢いである。

 あれだこれだと文句を言いつつもどうやら、リュックの中が気に入ったようだ。別に中身が増えたところで重くなるわけではないので気にはならないが、若干荷物が取り出しにくい気がする。いや、そのあたりはすべてノノンにやらせればいいのだろうか?

 誠斗の心情などお構いなしで上機嫌になっているノノンはキラキラとした目でこちらを見ている。誠斗はそんな彼女の様子に対して、ため息をつきつつリュックを背負ってサフランたちの方を向いた。


「まぁ改めて……行きますか」

「うん」


 背中からノノンの返事が聞こえると、サフランが一歩こちらへと歩み寄る。


「………………くれぐれも頼みましたよ」

「うん。わかっているよ」


 そんな短い会話を交わしたのち、誠斗は踵を返して歩き始める。


「マコト。私がくれてやった情報ちゃんと使えよ!」

「わかってる」


 背後から聞こえてくるシルクの声にこたえつつ、誠斗はシャルロッテ家の屋敷を後にする。

 背中に背負ったリュックがさっきから小刻みに揺れているのは、ノノンが全力で手を振っているからだろう。

 彼女は自分の置かれている立ち位置がわかっているのだろうかと思ってしまうが、ここでしんみりとされたり、よそよそしい態度を取られてもいやなのでこれはこれで問題ないだろう。


 誠斗はシャルロッテ家を出ると、そのまま東を目指す。


 当初は西に向かって、シャルロの森の周囲を回る外周街道を経由、その北部で接続する北外連絡(きたそとれんらく)中街道(ちゅうかいどう)を通って北大街道へ抜ける予定だったのだが、シャルロッテ家の屋敷が外周街道よりも北大街道に近いということと中街道は本来、旅人や行商人が通る道ではなく、その周辺で暮らす人々が使う生活道路の色が強いため、地図上で見るよりもかなり遠回りになる見込みがあったことなどからこういったルートで行くことにしたのだ。

 今、誠斗が歩いている道はシャルロッテ中街道と呼ばれる街道らしく、その名の通りシャルロッテ家の屋敷との接続を図るための道だったりする。


「それで? ずっと、そこに入っているつもり?」


 シャルロッテ家を出てから約十五分。

 ようやく誠斗は背中にいるノノンに声をかけた。


「……えっ? なんでここから出なきゃいけないの? だって、空飛べないし、歩くのも慣れていないからどんどんとシャラブールに到着するのが遅くなっちゃうかもよ?」


 普段、ノノンやシルクといった亜人といることが多いので忘れがちだが、この世界には亜人追放令が存在していて、亜人たちは本来自由に町を歩くことができない。

 そんな中でノノンと旅をしようとすれば、当然ながら彼女には歩いてもらうことになるのだが、体が人間の子供ほどしかないノノンがそれをすれば、確かに時間がかかってしまう。こんな風に周りに人がいなさそうな場所でも、いつどこで誰が見ているかわからないのでノノンの言い分はある意味で合理的だ。

 ただ、誠斗からすれば楽をしたくて、そんな理由を後付けしたという風にしか見えないのだが……


 おそらく、ケロッとした表情をしているであろうノノンの顔を思い浮かべて、誠斗はおおきくため息をつく。

 このリュックは中の荷物がいくら増えてもある一定以上は重くならない仕組みになっているらしく、ノノンが入ったぐらいでは特別重たいとは感じないのだが、なんだか腑に落ちない。


 いずれにしても、今はノノンを説得できるだけの反論ができないので誠斗はそのまま押し黙って歩くことにした。


「……ねぇ地図とか見たりする?」


 ただ、一人で歩いているわけでもないのでそれをさせまいと相手が出てくるのはある意味当然だったのかもしれない。


 誠斗の返事を聞くよりも前にノノンはリュックの中から昨晩、二人で見ていた地図を取り出して誠斗の首元に差し出した。彼女がリュックの中でどんな動きをしていたのか気になってしょうがないが、誠斗の後頭部には目がないのでそれを確かめることはできない。


「ありがとう」


 だが、地図がほしかったのもまた事実なので誠斗はおとなしくそれを受け取る。


「ねぇねぇ。今日はどのあたりまで行けそう?」

「……そうだな。やっぱり、ツリームを目指すべきかもね。距離的にはかなり近いけれど、実際に歩いた感覚から計画を見直してみたいし……」

「うん。それじゃそうしよっか」


 別にノノンが歩くわけではないのだが、彼女は元気よくそんなことを言ってのける。


 現在地から言えば、ツリームの町は北大街道に入った後、再び外周街道に少し近づいた場所にある宿場町だ。地図だけでいえば、外周街道からはそれなりに距離があるのだが、馬車を使った旅向けでは一応、外周街道も接続街道に入っているようだ。


「私、こんなに長い間、森の外出たことがないから、ちょっと楽しみ」


 誠斗が町の情報を思い出している背後からノノンの声がかかる。


 そんな、ある意味で場違いともいえるような発言に誠斗は小さくため息をついた。


「……楽しみって……早速目的を忘れたりしてないだろうね?」

「大丈夫! そこはちゃんと覚えているから!」

「……本当かなぁ……」


 誠斗は先ほどまで黙って歩こうなどと考えていたことはすっかりと忘れて、ところどころでノノンの会話をしながら東にある北大街道を目指して歩みを進めていった。

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