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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十四章
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九十六駅目 出発前夜

 誠斗とノノンが市場で必要なモノを買いそろえた日の夜。

 二人は屋敷に戻るなり、すぐに出発の準備を始めていた。準備といっても、必要なモノは昼間に買いそろえたのでやるのは主に荷物の確認とシャラまでのルートの確認である。

 昼間、シルクにまとめてもらった旅路に関する注意事項を参考に二人は地図に線を引いていく。


「まぁ行きはなるべく早く移動したいし、北大街道をずっと北進するのは確定よね。それ以外にはあまり大きな街道はなさそうだし」

「まぁそうだろうね。それを通らないとなると、今度は各地に散らばっている細い街道をいくつも経由していくみたいだし、それをしたからといって結局、最短ルートは北大街道みたいだしね」

「結局、そこに行き着くのね。まぁ何もない時に造ったんだからそうならない方がおかしいというかなんというか……」


 ノノンの言う通り、そもそも北大街道というのは当時未開の地であった旧妖精国を開拓するために造られた街道の一つであり、町があったわけでもないので地形的な理由がある地点と一部例外を除けば、北大街道は気持ち悪いぐらい真っすぐと地図に一本の線を引っ張っている。正確にいえばシャルロ領内は中央付近で緩やかな半円を描いていて、カルロは一直線、シャラ領入り口の丘陵地帯では地形に沿って蛇腹のように道が曲がっている様子がうかがえる。

 ただし、北部の丘陵地帯を抜ければあとはシャラブールまで真っすぐと街道は伸びていた。途中で近くの町や近隣都市と接続するための分岐路が存在しているが、北大街道はかなり道幅が広い街道なのである程度気を使っていれば間違える可能性は低いだろう。


 そこまで結論付けて誠斗は地図の前を離れる。


 次はシルクから受け取った数々の情報の整理だ。

 それぞれの町の情報に加え、おいしい料理を出す定食屋から優良な宿屋の詳細情報まで、日本で有名な某旅雑誌以上に充実した内容となっている。

 もちろん、情報は多ければいいというものではないので、必要以上の大盤振る舞いに正直困惑しているのだが……そんな考えを秘めながら、誠斗は辞書並みに分厚い資料へと向かう。


「なるほどね……とりあえず、この近くにある街の情報だけ厳選して見ていった方がよさそうだな。ほかの町が近づいたら、宿屋で見ればいいだろうし……」


 そんなことをつぶやきながら誠斗はシャルロ領内にある北大街道の近くの町について書かれている情報を探し始める。


「ねぇマコト。なんかいい情報あった?」

「どうだろう? 情報が多すぎてなんとも……」

「でしょうね」


 ノノンは机の上に置かれた資料を見てため息をつく。

 そもそも、これほどの量の情報を精査していたら出発できるものもできなくなってしまう。ちゃっかりと情報料として追加料金も請求されているのでこれ自体は大切にとっておいて、今必要のない情報は今後生かしていくべきだろう。


「ねぇこの町って次の宿場町よね?」


 そんな中、ノノンが紙の束から一枚の紙を引っ張り出した。

 そこには確かに次に到達するであろう町の名前が記されている。誠斗はノノンからその紙を受け取って中身を口に出しながら読み始めた。


「……宿場町ツリーム。規模“小”、宿屋の質“中”、食堂の質“中”、物品の調達“やや困難”、周辺の街道“北大街道、北小街道(きたしょうかいどう)、外周街道、シャルロシャラ東回り中街道(ちゅうかいどう)か……あとは宿屋と食堂の詳細情報みたいだね」

「そうね。それにしても主要なところならともかく、小街道や中街道についても載っているなんて、充実しているっていうレベルじゃないわね。これ」

「あぁやっぱりそうなの?」


 先ほど見ていた地図もそうだが、シルクの情報は非常にきめ細やかだ。

 以前、旧妖精国の地図を見たことがあるが、そこに載っていたのは北大街道や北央大街道、シャルロ西街道、シャルロ東街道など本当に主要な街道のみである。

 しかし、シルクにおまけで渡された地図は大街道はもちろん、街道よりも幅が狭く、重要度が低い中街道や馬車すら通れないような小街道までしっかりと掲載されている。

 情報というのは確かに多くて正確ならばいいのかもしれないが、多すぎるのも少し問題だと感じてしまう。


 とにかく、一番見たい情報は見つかったので一日目の宿はそれを見ながら決めればいいだろう。


 荷物の確認も先ほどしたので、あとは明日の朝の旅立ちに備えてしっかりと睡眠をとって体を休めておくぐらいの事しかできないだろう。

 誠斗は先ほどのツリームの町について書かれた紙に印をつけてその場から離れる。


「あれ? もしかして、もう寝るの?」


 誠斗がベッドの方向へ向かったのがわかったのか、シルクの情報が書かれた紙とにらめっこをしていたノノンが尋ねる。


「うん。明日は早いだろうからね。ノノンも早く寝たらどう?」

「それもそうね……早く寝ましょうか」


 そういいながらノノンも立ち上がり、ベッドの方へと向かう。彼女は早歩きで誠斗を追い抜かすと、そのまま彼女はベッドで横になってしまった。


「そういうわけでおやすみ」


 ノノンはそれだけ言って、ベッドの上で、掛け布団もかぶらずにうつぶせになる。


 それ自体は別にいいのだが、ここで一つ問題が発生する。


 この部屋にはベッドは一つしかないのだ。

 相手は一応、異性であるし、そうでなかったとしても一人用のベッドで寝ている相手に対して、一緒に入れてほしいとも言いずらい。今から出てくれともいうのはもってのほかだ。


 仕方がないので誠斗は適当に周りを見て、近くにあるソファーを視界に入れる。大きさ的に少し狭いとはいえ、人が寝られるぐらいの幅があるように見えたので誠斗はそのままソファーに向かっていき、クッションを枕代わりにして寝転がった。


「……明日、出発なんだよな……」


 魔法を使っていたノノンが寝たことが原因なのかわからないが、部屋を照らしていた魔法灯の光が消えて部屋が暗闇に包まれる。ソファーに寝転がった誠斗は暗くなった天井を見ながら小さな声でつぶやいた。


 今日、町に出て一気に旅の支度を済ませて、先ほどまであわただしくルートを選んでいたときは全くと言っていいほど実感がわかなかったが、明日から自分はシャルロを離れてシャラへと向かうのだ。この世界から来て初めて、シャルロ領の外に出るわけだ。

 もちろん、泊りがけでどこかへ行くということはつい先日まで行っていた調査でやっていたわけで、それ自体に何かあるわけではないのだが、シャルロ領内の調査との違いはマーガレットがいないという点だ。


 今回は表向きの理由はともかく、マーガレットとアイリスを連れ戻すことが主な理由だから、彼女がいないのは当然なのだが、もしかしたら誠斗が一番不安に感じている点というのは間違いなくそこだ。これまでは当たり前のようにマーガレットが手を貸してくれていた。それがなくなったとき、果たして自分はちゃんとことをなすことができるのだろうか?


 誠斗はゆっくりと天井へ手を伸ばす。


「……でも、やりきるしかないよね……」


 そんなことをつぶやいたあたりで昼間の疲れが眠気という形になって襲い掛かり、誠斗はゆっくりと瞼を閉じた。

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