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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十四章
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九十五駅目 調査用の紙

 人々が行きかう市場から少し離れた場所にある路地裏。

 誠斗はあの露店で買ったバッグにたくさんの食料と野営セット、その他必要物品とノノンを詰め込んで背負っていた。


「マコト……まだ?」

「もう少しでつくから……というか、自分の足で歩いたらどうなの?」

「……これが本物かどうか知りたいからって、私をバッグに詰め込んだのはマコトでしょ? どうせ、私はしゃべる荷物ですよ」


 リュックの口から顔だけ出しているノノンがすねたような口調でそんなことを言う。

 露店を出た直後にノノンの言葉が本当か確かめるために彼女にリュックに入ってもらったのだが、そのあとからずっとこの調子だ。

 もしかしたら、ただ単純にすねているだけではなく、思いのほかリュックの中は心地良いのかもしれない。


 そんなことを思いつつ誠斗は見慣れた路地を右へ左へと曲がっていく。


 最初こそ、迷ったりもしたのだが、最近になってこの路地で地図を見なくても目的地へとたどり着けるようになった。

 もっとも、それは路地裏で目指すような目的地が一つであることが大きいのかもしれないが……


 そんなことを考えているうちに最後の曲がり角を曲がり、誠斗はようやく目的地へ到着する。

 一見すれば、普通の家の裏口にしか見えないようなその扉は見慣れたシルクの店の入り口だ。軽くノックした後に扉を開けると、羊皮紙とインクのにおいが鼻を刺激する。


「いらっしゃい」


 店に入るなり、すぐに扉を閉めた誠斗に声をかけるのはこの店の店主であるシルクだ。

 思えば、一時よりも来る頻度が減ったために久しぶりにここまで尋ねた気がするが、シルクとはつい先日会ったばかりなので何とも複雑だ。

 誠斗はゆっくりと店内を見ながら歩き、カウンターの前まで来るとリュックを床に下ろす。


「ちょっと、いくら何でも床はないでしょ。せめて、いすの上においてよ」


 リュックから何やら声が聞こえてくるが、とりあえず気にしないでおく。

 そうしていると、ノノンは体を軽く揺らしてリュックを倒し、そこからはい出てくる。立ち上がってから、服を軽くはたいて服装を整えると、リュックを元の体勢に戻して誠斗が立っている場所の横に置いてあるいすにちょこんと腰掛けた。


「ノノンもいたのか」

「まぁね。ちょっとした事情でさっきまでリュックに入っていたけれど」


 リュックの口から顔を出していたとはいえ、さすがのシルクもノノンの存在に気付いていなかったらしく、彼女は珍しく目を丸くしている。


「いたわよ。まったく、広々空間で自分の足で歩く必要がないから楽でいいけれど、入り口が狭いのが欠点ね……いちいちはい出ないといけないと考えると、ますます出るのが面倒になってくるわ」

「だったら入らなきゃいいのに」

「それとこれとは別よ」


 彼女はそう言いながらそっぽを向いてしまう。本当に何を考えているのかわからない。いや、別に理解しなくてもいいような気もするのでそっとしておいた方がいいのかもしれない。

 視線をシルクの方へと戻すと、彼女は彼女でノノンがどこから現れたのか気になっているらしく、身を乗り出してノノンの様子を見ている。このままでは本題を切り出せそうにないのでリュックを持ち上げて指をさしてみせると、数秒の間をおいてシルクはようやく納得したような表情を浮かべた。


「なるほど、面白いバッグを手に入れたんだな。それはマーガレットのモノか?」

「ん? あぁ違うよ。そこの市場で買ったんだよ。ちょっと、怪しかったけれどノノンがちゃんと本物だって言ったから買ったんだ。結構、便利だね。こういうのって」

「あぁそういうことか……まぁ謎も解けたところで本題を聞こうか? どうせ、これを見せるために来たわけじゃないんだろう」

「まぁね」


 誠斗はそういいながらリュックを床に戻す。

 そういている間にノノンは椅子から立ち上がり、物珍しそうにあたりを見回しながら店内を歩き始めた。


「……フウラ・マーガレットについての情報だったらすぐに引き出せないよ。そもそも、先に依頼された情報も今のところさっぱりだし」

「あぁいや、今日はそっちじゃなくて……調査用の紙とインクがほしいだけだよ。まぁついでに旅路で気を付けるべきこととかご教授願えると助かるけれど」

「そっちか……最近、自分の本業を忘れかけていたよ」


 いいながら、シルクは自身の後頭部に手をかける。

 彼女は少し天井をあおぐと小さくため息をつきながら立ち上がる。


「まぁいい。それならそれで調査にちょうどいい紙をいくつか選んでくるから待っていてくれ」


 シルクはカウンターを離れて、商品である紙が陳列されている棚に向かう。

 誠斗はこの世界の紙の種類のことがよくわかっていないので、選定はシルクに任せるほかないだろう。


 なんとなく、カウンターの奥に視線を向けた誠斗の横に店内を一通り見たノノンが戻ってくる。


「ねぇマコト」

「なに?」

「……やっぱり何でもない」

「そう」


 そこから二人の間に沈黙が訪れる。

 先の件から日が浅いということもあって、二人の間にはいまだに気まずい合間が存在している。これから二人で旅をするにあたり、それが悪影響を与えないか不安になるが、一昼夜で元の関係に戻るというのもそもそも無理な話だ。

 そうしているうちにシルクは手早く紙の選定を終えて戻ってくる。


 いくつかの紙の束を抱えた彼女はそれらをカウンターの上に置いて、自身は再びカウンターの向こう側にある椅子に腰かけた。


「……とりあえず、ここにある三種類に共通しているのは、屋外調査向けの紙として作られている点で、水をはじく魔法だったり、書き込んだ内容が特定の方法以外で消えない魔法がかけてある紙だ。まぁ値段によってその効能の強さが違うけれどな。一番おすすめは真ん中に置いてあるやつ。値段はそこそこで効果もひどい扱いしない限りは問題ない。まぁ値段がというなら、最低限の機能だけ持った一番安い奴も持ってきたが、サフランが金を出す以上はそこまで気にしなくてもいいだろう。あとは少し高価な値段設定の上で効能も高い奴も持ってきたが……私としてはここまでいらないとは思う。という三つだが、どれがいいか考えてみてほしい。私は店内の掃除でもしながら待っているから」


 そういうと、シルクは再び立ち上がり、どこからから取り出したはたきを持ってカウンターから離れる。

 シルクの言った言葉からして、彼女はあからさまに最初に紹介した紙を買わせようとしているのだろうが、一応、自分の目で改めてそれぞれの紙を確かめる。


 それぞれの紙の束の上にはご丁寧に紙の効能と値段について書かれた紙が挟んであり、誠斗はそれを見ながらじっくりと紙を選ぶ。


 まず、シルクが最初に勧めた紙は「防水性:中、防火性:低、書き直し:条件付きで可能、注意:水中への放置を行った場合等で使用できない可能性あり、値段:一束あたり500G」と書かれている。他のものと比較してみると、確かに三つの中ではちょうど中間にあたるような内容だ。

 値段もまずまずで選ぶのならちょうどいいかもしれない。ちなみに高い紙も一瞬、検討したが、いろいろと詰め込まれすぎていて、ちゃんと使える自信がない。


「はぁ確かに選択肢は真ん中しかないかな……」


 結局、並ばれたものを見たうえで誠斗はそんな結論へと到達した。

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