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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十四章
115/324

九十一駅目 マーガレットの行方

 シャルロッテ家の屋敷の一角にある客間。

 誠斗はその部屋で呆然と窓の外を眺めていた。


 その背後にいるのはサフランとシルクだ。


 マーガレットの姿はない。


「ねぇ何がどうなっているの?」


 そんな中でようやく誠斗が口を開く。

 これまでの心情をすべて集約したようなそんなつぶやきだ。


 その言葉にサフランもシルクも視線を伏せる。

 二人とも状況が理解できていないというのが一番の理由だ。


 そんな状態が十分ぐらい続いた後、シルクが静かに口を開いた。


「……そうだな。私も状況はわかっていない……ただ」

「ただ?」


 誠斗に促されるような形でシルクが続きを口にする。


「……ただ、マーガレットを連れ去りそうな人物になら心当たりがある。おそらく、ノノンの背中にあったモノにもかかわれるような人脈も持っているであろう人物に……残念ながら確証はないけれども……」

「……マーガレットを連れ去りそうな人物って? それにノノンの背中にあったものって何の話なのさ?」


 誠斗の一言に顔をあげた二人は目を丸くして、きょとんとしている。

 そんな妙なことを聞いてしまったのだろうか?


「…………もしかして……何も見えてなかったのですか?」

「うん。まぁそうなるかな……」


 誠斗の返答を聞き届けたサフランは小さくため息をつく。

 どうやら、あの時に何か見えていないとおかしかったらしい。


 だが、マーガレットを連れ去りそうな人物もそうだが、ノノンの事情というのも気になってしょうがないのだ。

 シャルロ領の東部とシャルロシティを調査しているときに彼女は怪しい動きを見せず、むしろ純粋にそれを楽しんでいるようにすら見えた。

 なのになぜ、彼女があんなことをしたのだろうか? マーガレットと彼女がそれほどまでに不仲だったようにも見えなかったし、彼女が接触したであろう人物もあまり多くないはずだ。


 それに妖精は排他的な種族なのだから、外部とのつながりというのはそうそうないはずだ。


「……いや、本当にそうなのか?」


 しかし、そうなると一つ疑問が生じる。

 マミの幻影を見せいてたノノンないしシルクが話していた内容が本当だとすれば、妖精は十六翼評議会と……少なくともマミ・シャルロッテと接触して様々な議論をぶつけたということになる。となれば、必ずしも排他的とは言い切れなくなるのではないだろうか?

 仮に完全に排他的で自分たちの森に他者が侵入するのをよしとしていないなら、そもそも交渉すら持たないのではないだろうか?


「どうかしたのか?」


 突然、誠斗が黙ってしまったのを不審に思ったのか、シルクが声をかける。

 しかし、誠斗はそれに気づけないほど思考の海の底へと沈みつつあった。


「マコト! マコト!」


 シルクに大きな声で名前を呼ばれて誠斗は初めて自分が名前を呼ばれているという事実に気付いた。


「どうしたの?」


 誠斗はシルクの方を振り向く。

 彼女は一瞬、目をそらした後に再び誠斗の方を見る。


「……マコト。いろいろと考えることはあるだろうけれど、とりあえず落ち着いて話を聞いてくれ」


 シルクの言葉に誠斗はゆっくりとうなづいた。


「さて、まずはノノンの背中にあったもの……マコトには見えていないようだけれど、彼女の背中には呪術と呼ばれるものの文様が刻み込まれていた。これは東方に住む民族が使う術で強力な呪いを封じ込めることができる術式だ。ノノンが言っている内容と合算すれば、黒幕の名前をしゃべったとたんに彼女の体に何かが起こるようになっているはずだ。さて、そこまで踏まえて、今度は黒幕の候補の話になる……」


 そこまで言うと、シルクは誠斗に自分の方へ来るようにと手招きする。

 その行動に多少疑問を持ちながらも誠斗はゆっくりと彼女の方へと歩み寄る。


「……といったところでこの先の情報いくらで買う?」

「えっ? こんな時にお金取るの?」

「いや、残念ながらここから先は商売だからね。私も苦労して手に入れた情報だから……安くしておくよ。それに今すぐじゃなくてもいい。そうだな。鉄道が成功した後に支払ってくれればかまわないから」


 シルクはいたって真剣な表情で真っ白の領収書を誠斗の前に出す。


「半ば忘れていたと思うが、私は情報屋だからな。多少は対価をもらわないとやっていけないんだよ。べらぼうな値段を請求するわけじゃない。安すぎない限りは文句を言わないよ」


 彼女に促されて、誠斗はペンを手に取りそして動きを止める。


「……相場ってどれぐらい?」


 そう。誠斗はこの世界の物価すらちゃんと理解していなかった。それなのに情報屋で情報を買ったときの対価の相場など知るよしもない。

 これまでかかわる人数も少なかったし、そのあたりのことをちゃんと学んでいなかったので完全に困惑してしまっているのだ。


 シルクは小さくため息をついてから、さらさらと請求書に値段を記入する。


「これぐらいでどう?」


 目の前に提示された金額はパッと見て高いように見えたが、横からこちらを覗くサフランの様子を見る限りおかしな金額ということはなさそうだ。

 少し迷ったが、誠斗はその値段で同意して領収書にサインする。


 それを受け取ったシルクは満足げにうなづく。


「うん。とりあえず、支払期限は書いていないからいつでもいいわ。というわけでこの先の話をしましょうか」


 領収証を懐に収めてシルクは代わりに一枚の羊皮紙を誠斗の前に差し出した。


「今回のマーガレット連れ去りの容疑に関りがある可能性のある人間というのはどうしても限られてくる。まずは何かしらの形で大妖精と関りがある者、そして東方の民族と何かしらの形で関りがある者……私が知る限りその両方の条件を満たすのはたった一人だ」


 彼女はいったんそこで言葉を切り、羊皮紙に何かを記入していく。


「……十六翼議会関連の組織の一つ……翼下準備委員会委員長のフウラ・マーガレット。あなたが“水色の少女”と呼んでいた人物だ。もうすでに思い出したりはしているだろう?」

「えっ……」


 そのことを告げられた瞬間、誠斗はそのまま動きを止めてしまった。

 水色の少女がかかわっていたという点が問題ではない。誠斗が気になったのは水色の少女の名前だ。


「フウラ・マーガレット? 彼女ってもしかして……」

「そう。マコトが言うマーガレットの双子の妹だ。マーガレットはあくまで家名らしい。まぁ本人から聞いたわけでもないから、どこまで本当か知らないがな」


 シルクはそういいながら羊皮紙に書かれた名前を誠斗に示す。

 そこには確かに“フウラ・マーガレット”という名が書かれていて、その容姿の特徴はマーガレットにも誠斗の記憶にある水色の少女にも一致するような内容だ。


 なぜ、彼女はマーガレットを連れ去ったのだろうか?

 実の妹が姉をさらう……どこかで見た構図に似ているような気もするが、理由がいまいちわからない。


 水色の少女と会った際にマーガレットがひどく気分を害していたことと関係があるのだろうか? 二人の間に何かあったのだろうか?


「……水色の少女が……フウラとマーガレットの間に何があったのかは誰も把握できていない。あるきっかけで再会するまでマーガレットは彼女は死んでいると思ってた節もあったから、そこで何かあったのかもしれないな。残念ながらそこのあたりは彼女たち個人間の問題だから干渉できないからな」


 シルクはそういいながら立ち上がる。

 そして、懐から一枚の地図を出すと、それを誠斗の前に置いた。


「……フウラはシャラブールに本拠地を置いている。まぁ今もそうかはわからないけれどな……せっかくだから、シャルロからシャラまでの間のルートの検証も含めて行ってみるというもありかもしれないね。もちろん、あの大妖精を連れてさ」


 そう言い残すと、シルクはひらひらと手を振りながら立ち去っていく。

 それが終わると、これまで静かに話を聞いていたサフランがようやく口を開く。


「………………私は何も聞いていません。もし、シャルロからシャラまでの間の路線計画のための調査を行うのなら旅費ぐらいは出しますよ。ゆっくりと考えてください。私は次の公務がありますので失礼します」


 サフランはそのまま立ち上がり部屋から退室していく。


 扉が大きな音を立てて締まると、客間には誠斗がただ一人残されるような形になった。

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