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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十三章
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九十駅目 聞き取り調査

 シャルロッテ家の屋根裏にある秘密書斎。

 夕陽が差し込む中、サフランと誠斗、ノノンは重苦しい沈黙に包まれていた。


「………………ノノン。黙秘するだけでは何も始まりませんよ。ついでに伝えておきますけれど、あなたの行動と大妖精の意向が必ずしも一致していないことは先日、カノンと接触して確認しているのでそれも考慮してください。もっとも、別件のついで程度で聞いたのでどこまで信憑性が持てるかどうかはまた別ですけれど」


 いったん、沈黙を破って発せられたサフランの言葉はこの場の沈黙をよりひどくするものであった。


 カノンの意思とは関係のない行動とすれば、大妖精とはまた別の黒幕が存在しているということになる。

 そうなると、今回の出来事は誠斗が想像している以上に厄介なことになっているのかもしれない。


 当初、ノノンが落ちてきたときはサフランの言動も含めて大妖精とエルフが手を組んで仕掛けている程度にしか考えていなかったのだが、大妖精の長であるカノンから一応は否定されているとなると、話は百八十度変わってくる。サフランがどういう聞き方でカノンからその言葉を引き出したのかも分からないので今の誠斗からすれば判断材料があまりにも少ない。


 ただ、その言葉はノノンを追い詰めるには十分だったようで、彼女はまるで逃げる機会をうかがっている被捕食者のように目を泳がせて周りを見回している。


 その状況がしばらく続いているあたり、ノノンはいかにして黒幕を隠しながら言い逃れをするか、もしくは黒幕について話してしまおうかという判断をしかねている状態が長く続いていることを意味する。

 カノンではない黒幕というのはノノンからして相当大切な存在、もしくは恐ろしい存在なのだろうか?


「…………………………いい加減話して楽になろうとかは考えないのですか? こうしている間にも無駄な時間が過ぎているのですよ。でしたら、質問を変えましょうか。マーガレットはどこですか? 彼女は今回の件に関係あるのですか? それとも、あなたが何かしらの方法で彼女を排除したのですか?」

「どういうこと?」


 サフランの言葉にようやくノノンが口を開いた。

 だが、それはあくまで質問に対する答えではなく、サフランの真意をただすようなものだ。


 サフランは小さく息を吐きながらもゆっくりとした口調で説明し始める。


「…………私がおもうにあなたは私たちがあの光で気を失っている間にマミ・シャルロッテが存在しているかのような幻影魔法をお仲間に使わせただけであって、移動はしていないと考えています。なぜなら、私たちを移動させようとするとそれなりに労力がかかるし、魔法で人間を転移させることは不可能だからです。そうなると、そばにいるはずのマーガレットが何もしないのはおかしい話ですよね? 仮に彼女の事を知っている可能性がある彼女を遠ざけたかったにしても、彼女が今回の事態を察知しないわけありません。しかし、それでも手を出してこないということは彼女が何かしらの理由によって行動不能もしくはここへと来れない事態が考えられます。そのあたりはどうなのでしょうか? あぁそうそう。先ほど、あなたが仕掛けた魔法は解除できましたのでここは元のマミ・シャルロッテの秘密書斎のはずですよ」



 サフランの言葉で誠斗は初めてこの場にマーガレットがいないのはおかしいという事実に気が付いた。

 人間をどこかに転移させられる魔法は使えないという前提条件に立てば、マーガレットは誰かの手によって連れ去らわれたということになる。

 念のためにとサフランの言葉の確認も含めて書斎机の方を見てみると、確かに古びたマミ・シャルロッテの肖像画がかけられていた。この事実がノノンの魔法が解除されているという事実を確かに証明していた。


 そうなると、ここは元の書斎ということになる。なら、マーガレットがここにいないというのはおかしな話だ。


「……そういえば前にマノンが使っていた魔法を使えば、ノノンにもマーガレットを部屋から運び出すことぐらいなら可能なのかな?」


 そのとき、誠斗が思い出したのは前にマノンがミニSLの資材搬入のためにつかっていた重力魔法だ。

 確か、そのときマノンは加えて妖精は重力操作魔法が得意だといっていたような記憶がある。


 彼女の体からすればそれなりの重量になるであろう荷物を軽々と持っていた当たり、その魔法の効能は相当に大きいとみることができる。となると、ノノンも大妖精であるならその魔法が使えるはずでそれを使えば人一人の運搬など簡単にできるだろう。

 もちろん、マーガレットが暴れたり魔法を使って逃れたりすることのないようにある程度の措置は施す必要はあるだろうが……


「………………なるほど、重力操作魔法による移動ですか。それなら確かにマーガレットを他所に動かすことは可能です。そうなると、あなたは誰かにマーガレットを拘束して引き渡すように要求された。つまり、私たちにマミ・シャルロッテの幻影を協力者の力を使って見せていたのは自分たちをこの空間から出さないようにするため。まぁ協力者がどこまで知っていたかはかなり怪しい部分ではありますが……どうですか? そろそろ私の話していることが正解か不正解かだけでも話してもらえませんか?」


 サフランの言葉にノノンは今度はうつむいて、両手で顔を覆う。

 そのとき、秘密書斎に第三者の声が響いた。


「……いい加減話したらどう? 私としても黒幕とやらが気になってきた」


 聞き覚えのある声に振り向いてみると、そこには声の主と思われる人物……シルクの姿があった。

 彼女はどこかあきれたような表情を浮かべながらノノンの横に座り肩をたたく。


「情けないことにすっかりと私も利用されてしまったわけだが、だからこそ、私も真相を知りたい。誰に言われてこんなことやったんだ?」

「……はぁあなたまで敵に回るの?」

「そりゃ契約では私は出てきた時点で違反していることになるかもしれないけれど、そっちも全部話したわけじゃないんだ。これでお互い様じゃないのか?」


 シルクは優しい口調で声をかけながらノノンの頭をなでる。

 その言葉から、シルクはおそらくノノンの真意を知らないまま利用されていたのだろう。だが、彼女はそこに関して怒るようなそぶりを見せずにむしろ巧みに情報を引き出そうとしている。そのあたりこそが彼女が情報屋たる所以なのかもしれない。


 ノノンはそのまま二言ぐらいつぶやいた後にゆっくりと顔をあげた。


「……言えません。今回の事だけは本当にご勘弁願ってもいいでしょうか」


 いつもの明るい態度とは打って変わって深刻そうな表情を浮かべて、彼女はそういった。

 その答えにサフランもシルクも落胆を隠せない様子だ。


「……だったら、せめてマーガレットをどこへやったかぐらいは答えてくれない? 彼女は今どこに?」


 その質問にもノノンはゆっくりと首を振る。


「その質問への答えを提示することも禁止されています」


 彼女はそういいながら自身の服に手をかけてそれを脱ぎ捨てる。


「いきなり何を!」


 シルクは大声を張り上げたが、その直後。ノノンの体を見た途端に驚いたような表情を浮かべた。


「…………どうかしたのですか?」


 その様子にサフランも誠斗もきょとんとしてしまった。

 しかし、ノノンが背中を見せるとサフランも一瞬、驚いたような表情を浮かべた。

 誠斗からすれば、ただ真っ白な背中があるだけなのだが、彼女たちから見れば何かあるのだろうか?


 しかし、サフランは一切説明せずに納得の声をあげる。


「…………なるほど。呪術ですか。これはまた厄介なようですね」


 サフランがそういうと、ノノンは近くに置いてあった服を着る。


「これで納得した?」

「………………えぇ、納得しました。要するにあなたの体に直接刻み込まれたその呪術のせいで今回の事は話すことはできないと……わかりました。このことについてはまた後日話をしましょう。マコト、シルク、ついてきてください。ノノンはこの部屋にとどまっていてください。それは問題ありませんか?」

「ないわ」

「わかりました。マコト、ノノンの背中のモノについては後で説明するのでおとなしくついてきてくださいね」


 ノノンの返答を聞いたサフランは、誠斗に対してくぎを刺した後に誠斗とシルクを連れて部屋の外に出る。

 誠斗は部屋を出る間際に部屋の中にいるノノンの様子を見ようとするが、彼女はうつむいていてその表情をうかがい知ることはできなかった。


「…………マコト」

「うん。今行くよ」


 誠斗はサフランに対してそう返事をした後、部屋の扉を閉じてその場を後にした。

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