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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十三章
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八十九駅目 サフランの推論

 シャルロッテ家の屋根裏部屋にある西向きの窓から差し込む夕日が部屋を真っ赤に照らしていた。

 真美は夕食を持ってくるいって部屋から出て行ってしまったので今、書斎にいるのは誠斗とサフランの二人だだけだ。


 結果から言えば、真美はこの世界に来てからのことは語らなかった。その代りに鉄道の話やら日本の話をしている間にすっかりと時間が過ぎてしまったのだ。


 なぜ、彼女がこの世界に来てからのことを語りたくなかったのかわからないが、それには彼女なりの事情があるのだろう。


 その一方で少なからず収穫もあった。


 真美が建設予定だといっていた鉄道関連施設のうち、いくつかがシャルロ領内に存在している建物と同一の可能性が出てきたのだ。

 ただ、サフラン曰く過去の建築物についてそのような目的だという記録はないので、偶然建物の図面か何かが発見されて建設されたという可能性もあるので、計画通りに鉄道施設に転用できるかどうかはちゃんと見極める必要がある。


 中でもすでに真美の時代において作られている可能性があるのがシャラ領中心街シャラブールの地下にある広大な地下通路だ。

 真美はその存在を確認していない様だが、サフランはその場所を訪れたことがあるらしく、一緒に同行していた人物から亜人追放令が出た年から存在していたという説明を受けていたそうだ。


 シャラブールの地下に存在している地下通路は町のありとあらゆる場所と町の中心部の地下にある巨大な地下空間と接続しているらしく、地上に移住用の地域を作る陰でこっそりと造り、完成させていたらしい。


 なぜ、真美がそのことを把握していないのか、さらに言えば、真美の時代ですでに大きな港町を抱えているはずのシャラ領とシャルロ領をつなぐルートに需要がないといったのかはわからないが、その結論にも、彼女なりの事情があるのだろう。


 そう考えてみると、この世界に来てから新しく知れたことというのは少ないように感じる。


 そもそも、真美が説明した亜人追放令についてもいまいち現実味がない。亜人から提案されたのなら、本当に亜人追放令などという名前で納得してもらえるのだろうか? いっそのこと鉄道建設などで亜人から過剰な要求があったので遠ざけたとでも言ってくれた方がすっきりとするぐらいだ。

 何か裏があるのではないか? 誠斗は心の中で彼女の発言を整理していくが、それが何なのか理解できない。だが、どうしても、彼女の口から出た一連の話が腑に落ちないのだ。ある意味で違和感を感じているとも言えるかもしれない。


「………………どうしたんですか?」

「……ん? あぁまぁ……さっきの友永さんの話……サフランはどう思う?」

「……………………どうでしょうね? 私には判断しかねます。ただ、彼女の話の信憑性もいまいちわからないというのも事実ですし、この空間が異常だというのもまたまぎれもない事実ではあるのですけれど……」

「空間が異常?」


 誠斗の言葉にサフランは小さくうなづいてから立ち上がる。

 彼女は書斎机の方まで真っすぐと歩いていき、誠斗たちの時代に肖像画がある場所の前に立つ。


「…………………まず、ここにあるはずの肖像画。明日、マミ・シャルロッテはこの世を去り、この部屋ごと忘れ去られる可能性すらあるのに誰がその絵を置いたのでしょうか? まさか、死んだ彼女が亡霊にでもなって、この部屋に肖像画を置いた何てことはありえないはずです。まぁ数代にわたってこの部屋の存在は知られていたという可能性も否定はしませんが……」


 彼女はその場を離れると、今度は誠斗の前に真美が資料として置いた羊皮紙を手に取る。


「………………次にこの資料をはじめとしたデータ。ほとんどのモノは正確だと思われますが、それにあたって彼女の話にいくつかの矛盾点といいますか、不可解な点があります。まずはシャラ領の中心街シャラブールと港町シャラハーフェンの状況。これに関してはマミ・シャッロッテが領主をやっている時代にシャルロシティとともに重要な交通の要衝として発展し、北大街道はすでに限界を迎えつつあったと歴史書には記されていました。しかし、それに対してシャルロ領の領主である彼女が北大街道沿いのルートには需要がないと言い切るのは違和感があります。彼女は日本で鉄道がどのような場面で活躍しているのか見ているはずなのにです。それに、あなたの頭の中にある彼女の記憶……本物だという証拠はありますか?」

「いっいや、だって、サフランも信じていたんじゃないの?」

「………………いえ、最初から疑ってかかっていました。マーガレットあたりにでも聞いてみればわかるでしょうけれど、現状では一流の魔法使いであるマーガレットの実力をもってしても人間を瞬間移動(テレポート)させることはできません。しかも、時空を超えるとなると……たとえ、エルフのように魔法を得意とする種族の力を借りたとしても不可能に近いということができます。それにこの部屋全体に妙な魔力を感じます」


 彼女は顔色一つ変えることなく手元に氷のナイフを出現させてそれを思い切り天井へ向けて投げた。

 すると、一拍置いたぐらいのタイミングで“キャッ”という小さな悲鳴が聞こえて、目の前に少女が落下してくる。


「………………どうでしょうか? 私の推論は当たっていますか?」


 サフランは落ちてきた少女……ノノンに向けて問いかける。

 落下した際に思い切り頭を強打したらしいノノンは、手首に刺さった氷のナイフを抜くことなく、頭をさすりながらノノンが立ち上がる。


「いきなり何するのよ……」


 抗議の視線を送るノノンに対して、サフランはひどく冷たい視線を彼女へ向ける。


「………………私は私の推論が当たっているのかと尋ねたのです」

「推論? 何の話かな?」


 ノノンはやや視線をそらしながらサフランに尋ねる。

 サフランは小さくため息をついてから、ノノンのそばを離れてソファーに腰掛ける。


「………………そうですね。もう少し詳しく語れば、カシミアが適当にマコトから引き出した情報を基にそれらしい記憶をねつ造。それをあらかじめ仕込んでおいた記憶操作魔法の再発動とともに仕込むことにより、真実だとマコトに錯覚させたのですよね? それこそ、念には念を入れて、“彼女の行動に関する記録が一切残っていない死の直前”という状況を選んだのも様々な意味でプラスとなるでしょう。ただ、あなたはどうしても知ることができない情報がある。それは、私がした最後の質問に答え……“どうやって、領主になったのか”こればかりは歴史上最大の謎だといわれるほど、記録が残っていない出来事として有名なのはあなたでも知っていますよね? つまり、そこに関しては調べようがないからどうしてもごまかしたかった。そんなところでどうでしょうか? これに反論できるならどうぞ。もちろん、あなたがここにいる理由も含めてですよ」


 サフランは小さいながらも得意げな笑みを浮かべる。

 ノノンは冷や汗を流しながら視線を必死に彼女からそらし続け、助けを求めるかのように誠斗へと視線を移す。

 しかし、誠斗にはこの状況をどうしようもできない。誠斗自身かなり衝撃を受けているからだ。


「………………それで、あなたの意見を聞かせていただいてもよろしいですか? どうして、この場にいるのか、そして、首謀者は誰なのか……早めの回答をおすすめします」


 今のノノンからすれば間違いなく、死刑宣告のようにも聞こえるサフランの言葉はいやに静まり返ったこの部屋のなかで必要以上に響き渡る。

 誠斗はその中でただただ黙っていることしかできなかった。

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