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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十三章
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八十八駅目 真美の考え方

 シャルロッテ家の屋根裏にある書斎。

 サフランの質問の後、真美はあそこでもない。ここでもないとつぶやきながら書斎にある書類をあさっていた。


 どうやら、机の上に山積みにされた書斎の中に鉄道に関する資料があるらしい。この調子だといつ見つかるかわからないが……


「真美。手伝おうか?」

「いいの。大丈夫……ここのことは私が一番理解しているから」


 そういいながら懸命に書類を探す彼女の姿は、なんだかとても懐かしいものに見えてならない。

 真美の失踪期間とこの世界に来てからの時間とを合わせて一年ほどしか経っていないはずなのだが、それほどまでに自分が真美といた時間というのは過去のモノになってい待っているのだろう。


「……うん。あったあった」


 ようやく、資料を見つけたらしい彼女が、その書類を本の間から引き抜く。

 一瞬、崩れるかのように見えた本の山は微妙なバランスを保ったまま少し揺れただけであった。


「これよこれ。まぁ大したものはないというか、この時間の時点では存在していないんだけど、これから作っていく予定の施設と現状計画している鉄道のルートね。最終的な目標は大陸横断鉄道だけど、私一代だけじゃそれは無理だろうし、単発の公共事業じゃ意味がないからかなりの時間をかけて作る計画になっているのだけどね……」

「まぁそうだろうね……」


 鉄道計画というのはどうしても時間がかかるモノだと聞いたことがある。

 近隣住民の説明に始まり、土地の買収、線路の敷設、線路ができてからもテスト走行を行って、初めて開通となる。

 日本の場合、一番時間がかかるのが土地の買収だろう。さらに言えば、これらの事よりももっと前段階……シャルロッテ家の主導で進められる以上は公共事業になるから議会を通さなければならない。


 おそらく、彼女はそのあたりまですべて見越したうえで長いスパンでの計画を練っているのだろう。


 真美が目の前に置いた鉄道計画に関する書類にサフランと二人そろって目を落とす。


 その書類には大陸鉄道の大まかなルートからシャルロ領内の鉄道の具体的な計画などが盛り込まれていた。


「あっこの路線って……」

「…………どうかしたのですか?」


 誠斗がある路線を指さすと、サフランが誠斗の方を向いて疑問を述べる。


 誠斗の指の先にあるのは、シャルロ領から北大街道沿いにシャラ領方面へと伸びるシャラ線(仮称)だ。

 多少の違いこそあれど、これこそまさに誠斗やマーガレットの頭にある路線である。


「それはシャラ線ね……今のところ大きな需要はないけれど、シャラ領内は港町として発展しつつあるし、将来的にシャラの発展具合によっては重要な路線になるでしょうね」

「確かに貨物も鉄道の重要な要素の一つだからね。というか、この路線網って全部友永さんが考えたの?」

「さすがにそれは違うわよ」


 誠斗の質問に真美は笑いながら首を横に振ってこたえる。


「このシャラ線はエルフ商会会長のカシミアが提案したものよ。最初こそ、エルフが商売なんてって渋っていたけれど、なんだかんだ言って商売人になっているわね」

「そうなんだ……」


 この路線は誠斗たちの時代においてもカシミアから提案されたものだ。

 それを考慮すると、彼女はかなり昔からそのルートについて考えていたということになるのだろうか? そうなってくると、真美が死んだあと、八百年もの間にわたり鉄道計画が実現しなかった理由が気になってきてしまう。仮に真美が倒れても、それなりに協力者がいれば鉄道を走らせることは不可能ではないからだ。


 そうなってくると、鉄道計画にはほかに何か実現できない理由でも存在していたのだろうか?


「………………あなた。亜人との関係をかなり大切にしているようですね」


 しかし、誠斗がその質問をするよりも前にサフランが口を開く。

 誠斗も過去に亜人と人間の共存は可能かという質問をぶつけられたこともあることので、それを考慮すると、サフランは亜人と人間の関係に関する各々の考え方というあたりが気になっているのだろうか?


 真美は少しだけ間をあけてから答えを提示する。


「……そうね。私は亜人と人間は積極的にかつ平等に接する必要があると考えているわ」

「………………それは本心ですか?」


 サフランは真美の目をまっすぐと見つめて、返答をせまる。

 それに対して、真美は目をそらさずにまっすぐと、サフランの目を見ながら、ゆっくりとした口調で答える。


「私は心のそこからそう思っているわ。この世界の住民がどうか何てことは知らないけれど、相手はちゃんと話ができる相手だもの。こっちを異様に敵対視していたり、見境なく襲ってくるわけじゃないでしょ? 私だって、亜人が明らかに人間にとって脅威ならこんな平和ボケした発言はしないわ。だから、これはちゃんとした私の本心よ」

「………………なるほど。その様子を見る限り、心のそこからそれを望んでいるようですね」


 しばらくの間、真美の目を除きこんでいたサフランが顔を離す。

 なぜ、サフランが亜人と人間の関係にそこまでこだわるのかわからないが、そのあたりについては、現代に帰ってから聞けばいい事柄だろう。


 真美は真美でサフランの態度から誠斗たちの時代において亜人と人間の関係に何かしらの問題が発生していると考えたのか、少し不安げな面持ちだ。


「えぇ。まぁ歴史書を見れば、私は亜人追放令を出した悪人なんて言う感じに乗っているのでしょうし、あまり評判も高くないでしょうから仕方ないかもしれないわね……亜人追放令なんて言う単語のせいで余計にそれが独り歩きするかもしれないわね」


 彼女は小さくため息をついて、コーヒーを飲む。その動作には最初の方にあった震えや戸惑いといった雰囲気は感じられず、むしろ落ち着いているように見える。

 ゆっくりと時間をかけて、何かを一緒に飲み込むかのようにコーヒーを飲み終わった後、真美は改めてサフランの方を見た。


「それで二つ目の質問を聞いてもいいかしら?」

「………………いえ、亜人についてどう思っているかというのは聞こうとしていたことの一つなので今から聞くのは最後の質問になります」

「そう。何かしら?」

「マミ・シャルロッテ……いえ、トモナガマミさん。あなたは何者ですか?」


 サフランの質問のあと、部屋の中に一気に沈黙が訪れた。

 何の前触れもなく、唐突に何者か? などと聞かれたらすぐには答えられないだろう。


 真美としても名前は名乗っているし、サフランもここに来る前から彼女の事を知っているので、サフランが求めているのは単なる自己紹介でないことはたしかだ。

 そうなると、サフランが求めている回答というのはある程度絞れてくる。


「……私の出身地の事でも知りたいのかしら?」

「………………いえ、それはマコトから聞けばいいことなので問題ありません。私が知りたいのはあなたがこの世界に来てからの話……なぜ、単なる鍛冶屋であったあなたが現状のような立場にいるのかという点についてです。もちろん、話したくないのなら無理にとは言いませんし、話したいことだけ話していただいて結構です」


 真美からすれば、サフランが何を考えてそういう発言をしているのか理解できないでいるのか、首を少しかしげてから疑問を口に出す。


「そんなこと知ってどうするつもり?」

「………………個人的興味。という回答では不十分でしょうか?」

「……十分ね。どうせ、前二つの質問も“個人的興味”でしょうから」

「…………そういう理解で結構です」


 サフランは不敵な笑みを浮かべて真美の姿を見る。

 その視線に当てられた真美は“少しだけ考えさせてほしい”といって立ち上がり、本日三杯目となるコーヒーを注ぎ始めた。

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