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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十三章
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八十六駅目 誠斗の決意

 シャルロッテ家の屋根裏に広がる広大な空間。

 初めて誠斗がそこを訪れたときと同様に蒸気機関車が中央に置いてあるその屋根裏は心なしか普段よりも薄暗く感じた。


 誠斗はゆっくりと歩いて蒸気機関車に近づいていき、かけてあったはしごを使って蒸気機関車に乗り込む。


 ちょうど上った地点から反対側にある運転席にサフランの姿があった。


「やっぱりここか……」

「………………よくわかりましたね。大した付き合いがあるわけでもないのに」

「友永さんが言っていたんだよ。ここから降りるほど馬鹿じゃないだろうし、屋根裏で座れるのは床かここの運転台ぐらいだからって」

「…………まぁそうでしょうね」


 サフランは窓枠に肘をついたままため息交じりに返答する。

 誠斗はサフランの方へ行くわけでもなく、反対側にあたる入り口側の席に腰掛け、彼女がしているように窓枠に肘をついた。


 そうしてから、少しの間沈黙が発生するが、気まずくなったのか、先にサフランが口を開く。


「………………やはり、ここにいた。という言葉の割には時間がかかっているようでしたけれど、何か話し込んでいたのですか?」

「まぁそうだね。いろいろと聞いていたよ。友永さんがなんであんなことを言ったのか、それに亜人追放令をなんで出したのか……他にも聞きたい事があるのならボクを通じてでもいいから聞いてみたらどう?」   

「………………遠慮します。せっかくの機会であるのか確かですが、どうもそういう気分になれないので」


 サフランがどこかすねたような口調で答えると、誠斗は苦笑を浮かべながら体を背もたれに預ける。


「……あの時間操作の魔法。一回だけしか使えないんだって。そして、効力は二日。そうすれば、自然と元の時代に帰れるんだとか……それにそうじゃなくても、きっと友永さんと話しができるのは今日が最後だと思うよ」

「………………どういう意味ですか?」


 表情こそ見えないが、彼女の声には訳が分からないとでも言いたげなニュアンスを色濃く含めていた。

 それはそうだろう。時間操作の魔法が一回きりというだけで会えないというのは十分すぎる理由なのだ。仮にサフランが現代に帰ってから改めて高度な時間操作魔法を使える魔法使いに頼んだのなら話は少し変わってくるかもしれない。それでも、誠斗が二度と会えないと言及するのにはちゃんとした理由がある。運命のいたずらなのか今の時間に……正確に言えば、この日より後の友永真美に……マミ・シャルロッテに会えることはないのだということを彼女本人の口からきいてしまったからだ。


「友永さん。明日、ドラゴンの関連行事に出席するって言っていた。明日は忙しいから話を聞くなら今日のうちにしてくださいって伝えてほしいって……さっき、そう言ってた」


 向こうの方からサフランが息をのむ音が聞こえた。

 彼女とて、そのドラゴンの関連行事で何が起きるか知っているということなのだろう。


「………………あなたはそれを知ったうえでこんなところにいるのですか?」

「まぁそうなるね。それを聞いたらそれ以上、あのまま普通に話していられないような気がしてさ……でも、だからこそ彼女から聞き出したい事はちゃんと聞いておかないと。ボクを通してが嫌ならさ、ボクはここで待ってるから、さっさと行って来たらどう?」

「………………止めたりはしないのですか? 放っておけば、彼女は明日、死にますよ」


 どこか冷静さを欠いたようなサフランの声に誠斗は小さくうなだれる。


「無駄だからだよ。そんなことしても……仮にドラゴンの一件が暗殺だとした場合、彼女は遅かれ早かれ暗殺されるだろうし、何よりも……」

「歴史への干渉はするべきではない。知らせたところで彼女は歴史を重視して死を選ぶ。そう言いたいのでしょうか?」

「……そうなるね。それにこの時間から見て未来のことについて聞くなって釘をさされたばかりだしね」 


 今の誠斗の言葉は半分本心で半分は建前だ。

 歴史をむやみやたらと変えてはいけないというのは理解できるし、歴史への干渉がどんな影響を及ぼすのかわからないというのもまた事実だ。

 しかし、しかしだ。その一方で知り合いである真美を救えるかもしれないという可能性が頭の中をよぎる。どんなリスクをはらんでいるかわからないし、真美自身が同意する可能性も低いが、友人としてそれをしたいという思いが心の底にある。


 だが、誠斗はある意味で真美を見捨てるという答えを出した。


 理由はひどく単純だ。おそらく、真美はそれを望まないだろうし、歴史への干渉のリスクが計り知れないからだ。なんとなく、彼女も歴史干渉へのリスクを恐れているような印象を受ける。

 サフランが寝ている間に話していたのは主に日本の話題が中心であり、自らの子孫にあっても魔法がちゃんと発動したうえで来たのか確認したぐらいで蒸気機関車やシャルロッテ家がどうなったのかなどといった話題は基本的に振ってこなかった。


「…………あなた。意外と冷たい人間だったんですね」


 内容の割には責めるような口調ではない。

 サフランも誠斗と同様の考えに至っているのだろう。ここにいる相手が飛翔あたりだったら、感情的になってつかみかかってくるかもしれない。


 一瞬、浮かんだ友人の顔を思い浮かべながら誠斗はできる限り平静を保ちながら言葉を紡ぐ。


「さぁ? どうだろうね。どちらかというと臆病者かもしれないね」

「………………奇遇ですね。私もそうです」


 向こうからため息が聞こえてくる。


「………………あなた。いろいろと話したいこととかあるんじゃないですか? 久しぶりの再会ですよね?」

「……なんだかそういう気分になれなくてね。というか、さっきは三つ聞きたいことがあるとか言っていたのにどうしちゃったの?」

「………………なんだかそういう気分に……とこれでは永遠に堂々巡りを繰り返すだけじゃないですか」


 その言葉の直後に向かいの運転台から物音がする。

 どうやら、サフランが立ち上がったようだ。


「…………気分は乗りませんが、せっかくの機会ですからシャルロッテ家当主代理としてちゃんと話を聞くことにします。そうでもしないと、無駄な話が永遠と続くだけだと思われますので」

「そうだね。じゃあ、有意義な話し合いが行われることを願っているよ」

「…………そうですね。少なくとも、この時間を無駄にしないぐらいにはするつもりです」


 言いながらサフランはゆっくりと歩き始める。彼女はそのまま誠斗の背後まで来ると、ぴたりと立ち止まった。


「…………何をやっているのですか? さっさと、初代領主様に姉様を愚弄したことを謝ってもらったうえで話の続きを聞きに行ってやりますよ。ついてこなかったらこの時代に置いて帰りますのでそのつもりでお願いします」

「……置いて帰るもなにも、時間がたてば、勝手に帰れるって伝えたと思うけど?」

「………………言葉の綾です。せっかくですし、なんとかして置いていく方法を探ってみますか?」

「……わかったよ。まぁボクも話したいことはいくつかあるし、一緒に行くか」


 誠斗は一つため息をついてから、深呼吸をして立ち上がる。

 そのまま振り返ると、どこかあきれたような表情を浮かべながら腰に手を当てて立つサフランの姿があった。


「…………覚悟はできていますか? 途中で変な態度をとって話しが中断するようなことがあってはなりませんから」

「それぐらいはわかってるよ。大丈夫。歴史へ干渉するようなことはしない。これがボクの結論だ」

「………………奇遇ですね。私もです。お互い、自分がかわいい臆病者なのですね」

「ボクに対する感想はどうぞご自由に。サフランの想像に任せるよ」


 そんな会話の後に誠斗とマーガレットは蒸気機関車から降りて薄暗い屋根裏を歩き始める。


 二人の足取りは先ほどの雰囲気など感じられないほどしっかりとしたものになっていて、真っすぐと真美の書斎へと向かっていった。

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