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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十三章
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八十五駅目 真美とサフラン

 真美の昔の話というのはこの世界に来てからのことかと思ったのだが、そういうわけでもなく、主に日本の話が中心だった。

 誠斗としても日本の話をする相手というのはいなかったのですっかりと二人そろって盛り上がってしまった。


 そうしている間に時間は一気に過ぎていって、話がちょうど近所の路線での蒸気機関車の記念運転に移ったころ、誠斗に膝枕をされていたサフランが目を覚ました。


「………………何やっているんですか? あなたは……」


 目を覚まして、誠斗の姿を確認するなり、彼女は煩わしそうな表情を浮かべて、ため息をつく。


 彼女はそのまま体を起こすと、ゆっくりと首を回して真美をにらんだ。


「………………あなたですね。これを仕掛けたのは」

「何をかしら? 別に私としてはちゃんと魔力切れに対する対症療法で治療をしただけですが?」

「………………もういいです。それよりも、それよりもですよ。私はどれくらい寝ていたのでしょうか?」


 サフランが尋ねると、真美はかるく顎に手を当ててから部屋に置いてある置時計に目を向ける。


「……そうね。一時間程度かしら? 安心してくれていいわ。あなたの質問については予想される内容も含めて話はしていないわ。それにしても、あなたも随分と危ない橋を渡るのね」


 真美の言葉にサフランは小さく首をかしげる。

 どうやら、彼女には真美の言葉の真意がくみ取れていない様だ。


「………………危ない橋?」

「そうよ。気付いていないの? もし、私が亜人追放令を出す前だったら結構危ない質問だと思わない? まぁもっとも、私が亜人追放令を出したのはこの屋敷に移る前だから、それは正解かもしれないけれど、例えば、なんであんなところで死んだの? みたいな質問してみなさい。歴史が変わるわよ」


 真美の指摘にサフランはようやく自分がした質問の危うさに気づいたらしく、はっとしたような表情を浮かべて、顔を伏せる。


「………………申し訳ありません。その、質問を一つ追加していいですか?」

「どうぞ」

「…………今は何年でしょうか?」

「えぇ。それこそあなたがきくべき一番の質問ね。統一国歴でいいかしら?」


 真美が尋ねると、サフランは小さくうなづく。


 それを確認した真美はソファーから立ち上がり、書斎机の上に置いてあった羊皮紙を手に取って戻ってきた。


「今年は統一国歴428年。日付は9月10日ね。ほら、この書類に今日の日付が書いてあるでしょう?」


 サフランと一緒にその書類を覗き込んでみると、確かに右上に“T428.09.10”と表記されている。

 わざわざここで過去の書類を出すわけないし、おそらくこれは真実なのだろう。


「…………これは統一国歴428年にシャルロ領とシャラ領の間で交わされた共同声明の文章ですね。確かに歴史的価値も含めて確かな証拠になりますね」

「そうでしょう? この共同声明がのちに残っていてよかったわ。さて、せっかくだから私からも聞いてもいい? あなたたちはいつから来たの? 知り合いに頼んで時間操作魔法を部屋に仕掛けておいたのはいけれど、それを使ってどこから誰が来たっていうあたりは検知できないものだから。もっとも、あなたちの言動からそれが確実に発動して、どこかの時代からあなたたちが来たという確証は持てたからそれでも十分なのだけどね」


 彼女はどこかばつの悪そうな表情を浮かべながらサフランに尋ねる。

 サフランは自分の体を触ったりして、証拠となるモノを探していたようだが、それもすぐにあきらめて真美に向き直った。


「…………統一国歴1260年の1月30日です」

「へー八百年後から……えっ八百年後?」

「………………はい。八百年後です」


 サフランから提示された答えがあまりにも予想外だったのか、真美はポカンと口を開けて固まってしまった。


「そっそうなんだ。八百年後ね。そりゃ私がどうして亜人追放令を出していたかなんて調べようがないわよね」

「………………えぇ。まぁこの質問を抜きにして、いきなりあの事を聞いた点については謝罪をします。ですが、私はそうなるほどにそのことについて関心があるということです。そこのあたりはどうなのでしょうか?」


 真美は空になったカップを置いて小さくため息をつく。

 彼女はしばらくそうしていたが、やがて何かを決心したように小さくうなづくと、その場から移動してサフランの横に座る。


「………………何のつもりでしょうか?」

「いえ、別に……わざわざずっと先の未来から来てくれたあなたのことが気になっただけよ。本来なら、会うはずないもの……随分と血が混じったのね。私の面影なんて全くないわ」


 彼女はゆっくりとサフランの頭をなでる。

 そうされたサフランは不快感をあらわにしながら真美の顔をにらむ。


「そんな表情しないの。せっかくだからいいじゃない」

「………………ごまかさないで話をしてください」

「……はぁせっかちね。まぁわざわざ部屋に仕掛けた魔法使って来るぐらいだから必死なのかもしれないけれどね。あなただって、この魔法の事ちゃんと知ったうえで来ているんでしょう? そんなに焦らなくても……」


 真美は首をかしげながら聞いているが、誠斗とサフランはお互いに顔を合わせてきょとんとしてしまう。

 今回の事例ははっきり言ってしまえば単なる魔法の事故である。この様子だとサフランも真美がいう魔法の発動方法は知らないし、もちろん誠斗も知る由もない。

 その様子を見た真美もある程度事態を察したのか、それとも何も考えていないのか元の体勢に戻って顎に手を当てる。


「えっと……もしかして、ただの事故?」

「…………えぇ。あなたが私たちを呼ばなかったのならそうなるわね。でも、魔法発動のためには結構煩雑な操作が必要だし、ちょっと何かしたぐらいではこの魔法は発動しないはずだけど……ねぇその事故が起きたときにあなたたち以外に部屋にいた人物は?」


 真美の問いかけに誠斗とサフランはお互いを確認しながら質問に答える。


「そうだね。確か、魔法使いのマーガレットと大妖精のノノンがいたよ。ちょっと、いろいろ話し込んでいたから部屋に入ってから事故が起こるまで時間的には二時間以上かかっていたかな?」

「…………そうね。大体、そんなものだったはずよ」


 二人の言葉を聞いて真美はようやく納得したような表情を見せる。

 今度は誠斗とサフランが首をかしげる番だ。


「あぁごめんなさいね。実を言うと、この魔法の発動方法を知っているのは限られていてですね。その方法を知っているのは歴代シャルロッテ家の当主……まぁ引き継がれていればです……続いて、エルフ商会会長のカシミア、ドワーフのミライと大妖精のカノン……そして、同じく大妖精のノノン……これで十分じゃないの?」

「あぁうん。そうだね……確かにあの時、ノノンっていろいろと部屋の中のモノをいろいろといじっていたような気もするし……」

「…………あの妖精の意図はともかく、私は何も知らないのに魔法を使えるものなの? いや、知らず知らずのうちに魔法を完成させたのならともかく……」

「あなた、部屋の中で何か魔法を使った?」


 サフランの言葉を遮るような形で真美が質問を重ねる。

 一瞬、戸惑ってしまったサフランであるが、すぐに冷静な表情を取り戻して真美の方を真っすぐと見据える。


「…………使いました。魔法的効力を持った契約の締結のためのもので大したものではありません」

「……それで十分よ。あの魔法はそういう仕組みだから」


 一人だけで納得したようにコーヒーカップを傾ける。

 先ほどまで空だったはずのそこにはすでに真っ黒なコーヒーが注がれていて、彼女はそれを冷ますこともなく、涼しい顔で飲んでいる。


「………………どういう意味ですか? あなたの言葉の意図が読み切れません」

「ちゃんと意味があって言っていることよ。仕組みは単純。部屋のモノの配置を特定のモノにして、シャルロッテ家の血筋を持った人間が何かしらの魔法を使ったときに発動する仕組みよ。誤作動の可能性については考慮していなかったわね。普通に使っていれば、絶対に起きないであろう配置とその順序、方法を使っているのだから」


 彼女はそのまま笑い声を上げ始める。


「………………何がおかしいのですか?」

「クスッだってそうでしょう? 時間が経てば魔法の使い方がすたれるのは仕方ないでしょうけれど、だからといって妖精にまんまとはめられてしまうなんてね……そうなれば、本来の当主様も大したことないのでしょうね。まったく、私が残した布石もまともに利用せずに情けない。ちゃんと、私がこれまでとこれからの時間をかけて用意する布石を使っていたらあなたは真っ先に亜人追放令の事なんて聞くはずない! はぁ……ったく、まぁいいわ。これで謎は解けたし、話しぐらいは……」


 真美が言葉を最後まで紡ぐよりも前にサフランが勢いよく机をたたく。


 それに対して真美は大して気にする様子は見せないが、サフランを挟んで逆側に座る誠斗は体をびくりとふるわせる。


「…………あなたは、姉様を愚弄するのですか! 姉様は懸命に領主の仕事こなしていました! あなたは何も知らないのに!」

「何も知らないから客観的な判断をしているだけです。そもそも、これまでの領主たちがちゃんとしていれば、私の布石が八百年も放置されることもなかったのではないですか?」

「…………もういいです。結構です」


 サフランはそのままソファーから立ち上がり、そのまま部屋から出ていく。


「ちょっと、サフラン!」


 誠斗は一瞬、彼女を追いかけようかと迷ったが、すぐに彼女について部屋から出ていった。


「誠斗君。ちょっと待って」


 そんな誠斗の背中から真美の声がかかった。

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