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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十三章
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八十一駅目 記憶の違和感

 シャルロシティから少し離れた場所にある平原。

 どこまでも広がるやや傾斜のある大地に一本の線を引くようにして北大街道が北へと伸びている。


 かつては人間が足を踏み入れることすら許されていなかったその大地にはたくさんの町があり、そこでたくさんの営みが日々繰り返されている。

 町を出て一時間ほどで前をゆっくりと進んでいた馬車二つを中心に構成された旅団を追い抜き、そのあともいくつかの旅団を追い抜いたり、すれ違ったりしながら進んでいく。


「相変わらず、ここは人通りが多いわね」


 行者台に乗り、馬車を操るマーガレットがぽつりとつぶやいた。

 確かに先ほどから見る馬車の数も多いし、歩いている人々の数もかなり多い。


 その風景を見ていると、改めてこの街道がいかに重要な役割を果たしているのかということがよくわかる。

 初めてこの街道を通ったときは町を町をつなぐ主要な街道はこれぐらいなのではないかと考えていたのだが、シャルロ東街道でシャルロシティへ向かうときにこれほどの数の馬車や旅人を見なかったという事実が余計にそうさせているのかもしれない。


「ねぇマコト」

「んっ? どうかしたの?」


 そんなことを考えているとき、横に座るノノンが誠斗に声をかけた。

 誠斗は考え事をしていた関係で少し反応が遅れたが、すぐに彼女の方を向く。


「ねぇ……マコト」


 ノノンはこちらをじっと見つめて、もう一度マコトの名前を呼ぶ。


「えっと、どうしたの? ボクの顔に何かついてる?」


 その不可解な行動に誠斗は行動の意図を聞き出そうとするが、ノノンはそのことなどお構いなしに左手を誠斗の頬に手を伸ばす。

 ノノンは何かを確かめるようにさらにぐっと顔を近づける。


 普段、あまりないような状況に誠斗は思わず動揺してしまうが、ノノンはあくまで真剣な表情を崩さないままだ。


 お互いの吐息がかかるほどの距離になったとき、ノノンは何かを確信したように小さくうなづいて顔を離す。


「あの……ノノン?」

「ねぇマコト。あなたって魔法は全く使えないはずよね?」


 そんなことは当然だ。

 この世界に来てから一番最初にマノンに魔法が使えないと否定されているし、アイリスカードにもその旨はしっかりと記載されている。

 誠斗はそんな事実を元に首を縦に動かす。


「うん。そのはずだけどどうかしたの?」

「だったらおかしい。うん。あまりにもおかしい……マーガレットはマコトに魔法をかけたりしてないよね?」

「えぇ。もちろんかけたりしていないわ。そんなことする理由なんてないしね。付け加えれば、今も魔法は使っていないわよ。もしかして、あなたはマコトの体に残っている魔力痕のことを気にしているの?」

「それ以外に何かあると思っているの?」


 マーガレットは小さくため息をつき、手綱を握ったまま空いているいる方の手で頭をかく。


「そうね。確かに私も気になっていた当たりなのよね。別に少し感じるぐらいだったら周りからの影響を多少受けたのかと思うけれど、これほどの時間が経っても魔力の残留があるっていうことはマコト自身に何かしらの魔法がかけられている可能性が高いわね」

「えっ?」


 マーガレットの言葉に誠斗は思わず驚愕の声をあげる。

 思わず自分の体を見てしまうが、もちろん誠斗には魔力痕のことなどわからないのでいつもと違う点など見つけようがない。

 その様子を見ていたノノンが小さくため息をつく。


「魔力がからっきしのあなたがそれを見つけられるわけないでしょう……とにかく、マコト。どこかで魔法をかけられたとか、それに近い体験があるとかそういうのはないの?」

「いや、まったく……昨日も普通に宿で寝ていたはずだし……」

「そうよね。あれ? 朝、何かなかったかしら?」


 マーガレットが小さく首をかしげる。

 それに続いてノノンも同調するように二度うなづいた。


「それなのよ。朝、何かあったような気がするのに思い出せないというか……何かあったかな?」

「あぁそれはボクもあるというか……みんなして、こんな状態って珍しいよね?」


 三人は同時に唸り声をあげるが、当然ながらそれだけで答えが出ることなどありえないので結局、三人そろって首をかしげるだけだ。

 マーガレットは何かしらぶつぶつとつぶやき始めたが、そうしたところで答えは出てこない様だ。


「うーん。もしかしたら、記憶操作魔法の類かな?」

「いや、でもそれだけの魔法だったら私だって気づくし、魔力痕もマコトだけじゃなくて、私たちからも感じないと説明がつかないわよ」

「まぁそれはそうだけど……」


 二人はそれぞれお互いの表情を見ていないというのにまったく、同じタイミングでため息をつく。

 この辺りで無駄な連携が発揮される当たり、マーガレットと妖精は仲がいいということなのだろう。


 そんな風にして、関係のないことを考えつつも今朝の記憶の違和感について考えてみるが、その結論はなかなか出そうにない。

 先ほど、ノノンが記憶操作の魔法だとか言っていたが、そうだとすればなぜ、そんな魔法をかけられることになってしまったのだろうか?


 エルフ商会の本部では普通にこの辺りの土地柄について聞いていただけのはずでシルクと受付のエルフ以外には話をしていないはずだ。

 受付のエルフはどうか知らないが、シルクは今頃記憶操作の魔法を誠斗にかける必要はないだろうし、そうするにしてもそのための動作をマーガレットたちが見落とすはずがない。


 そうなると、本当に偶然三人そろって朝の出来事を忘れているだけなのだろうか? いや、そんな偶然は普通ではありえない。


「これってどういうことなんだろう?」


 口に出してつぶやいたところでその答えが出るはずもない。

 ノノンとマーガレットに関しては、いつの間にかとりあえず様子を見て考えるという結論に達したらしく、二人してまったく別のことを話している。

 誠斗もその風景を見ていると、自分一人だけ深く考えていても仕方ないと思考を中断した。


 今のところその魔力痕で害はないし、それがあるからといって問題があるかと問われても、誠斗には理解できないのでとりあえずは様子を見ておいた方がいいだろう。

 もしも、これが何かしらの害があるという判断が下せるような状況になれば、そのとき改めてマーガレットが何かしらの対処をしてくれるはずだ。


「ねぇマコト。やっぱり、紅茶には砂糖を大量に入れるに限りわよね?」

「いえ、紅茶は砂糖を入れないのが基本でしょ? マコトはどう思うの?」


 紅茶に砂糖を大量に入れる派であるマーガレットと紅茶はノンシュガー派らしいノノンの言い争いにちょうどいい具合に巻き込まれたので誠斗はそのまま話の輪の中に入っていく。


「そうだね。ボクは紅茶に砂糖は一つだけかな? ちょっと、甘いぐらいがいいと思うよ」


 そんな風にして話の輪の中に入るころにはすっかりと、記憶の違和感や魔力痕のことなど忘れていて、馬車の中は紅茶の話でしばらく盛り上がっていた。

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