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召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第2部:信仰の崩壊期

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第11話「勇者の暴走、国の沈黙」

夜の城下町には、いくつもの酒場が灯りを灯していた。


その中でも「金色の麦」は評判の良い店で、常連客たちが毎晩のように集まっている。店主のグレン・マーシャルは、カウンターの奥で客たちの様子を見守りながら、グラスを磨いていた。今夜も店は賑わっており、商人たちや職人たちが酒を酌み交わしている。


しかし今夜は、特別な客がいた。


店の奥のテーブルに、勇者たちが座っていた。ハル、レン、ミカの三人だ。クロウは同行しておらず、おそらく図書館にでもいるのだろう。三人は酒を飲んでおり、特にレンは既にかなり酔っているようだった。


「うぇー、この酒うめー!」


レンが大声で笑った。その声は店中に響き、他の客たちは少し離れた場所で固まっている。勇者たちの近くに座る者は、誰もいなかった。


グレンは、その様子を見ながら不安を感じていた。勇者たちが来ること自体は光栄なことかもしれない。しかし――彼らの周りには、常に緊張が漂う。まるで、爆弾のそばにいるような感覚だ。


隣のテーブルには、商人のダニエル・ホフマンが座っていた。四十代の男で、布地を扱う商人として長年この町で暮らしている。しかし最近の増税で商売が苦しくなり、今夜は酒で憂さを晴らしに来ていた。彼の隣には、友人である別の商人が座っている。


「もう...やってられないよ」


ダニエルは、酒を飲みながら小声で愚痴を言った。友人が慌てて制止する。


「声が大きい。やめろ」


しかしダニエルは、酒が入って抑えが効かなくなっていた。


「増税のせいで...店が...」


友人が、さらに強く制止しようとする。しかしダニエルは続けた。


「勇者が浪費するから...俺たちが...」


その瞬間、店の空気が変わった。


「あん?」


レンの声が響いた。彼は、酔った目でダニエルを見ている。店が、一瞬にして静まり返った。


「今、何て言った?」


レンは立ち上がった。ダニエルの友人が、慌てて前に出る。


「すみません!酔っているだけです!何でもありません!」


しかし、レンはダニエルに近づいていく。店の客たちが、息を飲んで見守っている。グレンは、カウンターから出ようとしたが――足が動かなかった。


「お前、勇者様を批判したな?」


レンの声には、怒りが滲んでいた。ダニエルは、恐怖に顔を青ざめさせながら答える。


「い、いや、そんなつもりでは...」

「嘘つくな。聞こえたぞ」


レンは、ダニエルの目の前に立った。ダニエルは椅子から立ち上がろうとする。


「レン、やめろって」


ハルが声をかけた。しかし、レンは聞いていない。


「酔ってるだけだろ。ほっとけよ」


ハルの声は、どこか他人事のようだった。本気で止めようとしているようには見えない。


「勇者様を侮辱する奴は、許さない」


レンは、ダニエルの肩を掴んだ。




次の瞬間、世界が止まったように感じられた。


レンの拳が、ダニエルの顔面に叩き込まれた。鈍い音が響き、ダニエルの体が宙を舞う。彼の体は、まるで人形のように軽々と吹き飛ばされ、店の壁に激突した。


轟音。


壁が揺れ、棚から食器が落ちて割れる。


ダニエルは、床に崩れ落ちた。


そして――動かなくなった。


酒場が、完全に静まり返った。誰も、声を出さない。呼吸すらするのを忘れたかのように、全員が固まっている。


グレンは、震える足で前に出た。ダニエルの元に駆け寄り、肩を揺さぶる。


「お、おい!大丈夫か!」


しかし、返事はない。グレンは、ダニエルの首に手を当てた――脈がない。そして、その首の角度が――不自然だった。明らかに、折れている。


「死んで...る...」


グレンの声は、かすれていた。客たちが、悲鳴を上げた。何人かが椅子から立ち上がり、店の出口に向かって走る。


「...あれ?」


レンが、自分の手を見ながら言った。酔っているため、状況を完全には理解していないようだった。


「レン、お前...」


ハルの声が聞こえた。彼の顔は、珍しく青ざめている。


「マジで死んだの?」


ミカが、ダニエルの体を見て呟いた。その声には、恐怖よりも――困惑があった。


グレンは、震える手で立ち上がった。夜警を呼ばなければ。これは――殺人だ。しかし、その時。


「やめろ」


客の一人が、グレンの腕を掴んだ。中年の男は、恐怖に満ちた目でグレンを見ている。


「夜警を呼ぶな」

「しかし、これは――」

「相手は勇者だぞ」


その言葉が、グレンの動きを止めた。相手は――勇者。神の使い。この国で最も力を持つ存在。


グレンは、その男を見た。男の目には、諦めと恐怖があった。


「...訴えても、無駄だ」


男の言葉は、真実だった。グレンは、それを理解した。


店の中で、誰も動けなかった。床には、ダニエルの遺体が横たわっている。そして、その傍らに――勇者たちが立っていた。




翌朝、王城の謁見の間には重苦しい空気が漂っていた。レオニス王は玉座に座り、宰相ヴァルクは傍らに控えている。二人の前には、夜警の報告書が置かれていた。


「事件の詳細を報告せよ」


レオニスの声は、低く抑えられていた。夜警の隊長が、震える声で答える。


「昨夜、城下の酒場『金色の麦』にて――勇者レン殿が、市民を...」


隊長は、言葉を続けられなかった。レオニスが、厳しい声で促す。


「言え」

「殺害されました」


その言葉が、謁見の間に響いた。レオニスは、拳を握りしめた。ヴァルクが、冷静に尋ねる。


「被害者は?」

「商人ダニエル・ホフマン。四十二歳。妻と二人の子供がおります」


レオニスは目を閉じた。妻と、子供。彼らは、これからどうやって生きていくのか。


「...状況は」

「被害者が、酒に酔って勇者様を批判する発言をしたようです。それに対し、勇者レン殿が――」


レオニスは立ち上がった。


「レンを、今すぐここに呼べ!」


その声は、怒りに満ちていた。しかし――。


「父上」


扉が開き、王女フィリアが入室した。彼女は落ち着いた様子で、レオニスに近づく。


「既に事情は把握しております」

「フィリア...」


レオニスは、娘を見た。


「これは殺人だ。レンは、人を殺したのだぞ」


フィリアは、微笑んだ。その笑みは、美しかったが――冷たかった。


「いいえ、父上。これは正当な処罰です」


レオニスは、娘の言葉を信じられない思いで聞いていた。


「何を...」

「被害者は、勇者様を侮辱しました」


フィリアはきっぱりと言った。


「勇者様を侮辱する者は、国家反逆罪に等しい。レン様は、国を守るために行動されたのです」

「それは...それは詭弁だ!」


レオニスが叫んだ。しかし、フィリアは動じない。


「法よりも、勇者様の御心が優先されます」


ヴァルクが、一歩前に出た。


「王女殿下、しかし法治国家として――」

「宰相」


フィリアはヴァルクを見た。その目には、冷たい光がある。


「貴方も、勇者様を疑うのですか?」


ヴァルクは、何も言えなくなった。


その時、扉が再び開き、ハルとレンが入ってきた。レンは、どこか眠そうな様子だ。


「王様、呼んだ?」


レンの声は、いつもと変わらない軽い調子だった。レオニスは、その様子を見て――怒りが頂点に達した。


「貴様...人を殺したのだぞ!」

「え?」


レンは、首を傾げた。


「でもあいつ、俺たちの悪口言ってたし」


その言葉に、レオニスは言葉を失った。レンには――罪悪感がない。まるで、虫でも潰したかのような反応だ。


「まあ、レンもやりすぎたけど」


ハルが苦笑しながら言った。


「でも、仲間を守っただけだし」


レオニスは、二人を見つめた。そこには――人間の心がなかった。




同日の午後、城下広場には多くの民衆が集められていた。王女フィリアが、公式発表を行うという知らせが広まったのだ。パン屋のトーマスも、息子と共にその場にいた。


広場の中央に、王女フィリアが現れた。彼女は純白のドレスを纏い、まるで聖女のように見える。民衆が歓声を上げた。


「皆様」


フィリアの声が、広場に響いた。


「昨夜、不幸な事故がありました」


民衆がざわめく。トーマスは、不安を感じながらその言葉を聞いていた。


「商人ダニエル・ホフマンが、勇者様を侮辱し――」


フィリアは一瞬言葉を切り、そして続けた。


「勇者レン様が、国を守るために行動されました」

「ダニエルの死は、自業自得です」


その言葉が、広場に響いた。トーマスは、耳を疑った。事故?自業自得?あれは――殺人ではないのか。


民衆の反応は、分かれた。


「勇者様は正しい!」

「侮辱した方が悪い!」


一部の民衆が、そう叫んだ。しかし――多くの者は、沈黙していた。トーマスの隣にいた男が、小声で呟いた。


「おかしいだろ...殺人だぞ...」


しかし、周囲の視線が男に集中した。冷たい、敵意のこもった視線だ。男は、慌てて口を閉ざした。


トーマスは、その様子を見て――背筋が凍るのを感じた。


これが――この国の姿だ。


真実を語れば、睨まれる。


疑問を持てば、敵とされる。


恐怖が、全てを支配している。


フィリアは、さらに演説を続けた。


「今後、勇者様を侮辱する者は、厳しく罰せられます」

「これは、国の秩序を守るための措置です」


民衆は、ただ黙って聞いていた。歓声を上げる者もいたが、それは少数だった。多くの者は――恐怖で、何も言えなかったのだ。




数日後の夜、貴族アルフレッド・フォン・ケストナー伯爵の邸宅に、異変が訪れた。五十代の温厚な貴族である彼は、ヴァルクの反勇者派組織の一員だった。彼は密かに、信頼できる仲間たちと勇者の問題について話し合っていた。しかし――組織の中に、密告者がいた。


夜、邸宅の門が激しく叩かれた。執事が扉を開けると、そこには王国騎士団が立っていた。先頭に立つのは、騎士団の副長――王女派の人間だ。


「アルフレッド・フォン・ケストナー伯爵はいるか」


副長の声は、冷たかった。執事が慌てて答える。


「何の御用でしょうか」

「呼べ。今すぐだ」


アルフレッドは、書斎で本を読んでいた。執事が慌てて報告に来て、彼は不安を感じながらも玄関に向かった。そこには、完全武装の騎士たちが立っている。


「これは...どういうことかな」


アルフレッドは、努めて冷静に尋ねた。副長が前に出る。


「アルフレッド・フォン・ケストナー伯爵、貴殿を逮捕する」


その言葉が、アルフレッドの心臓を凍りつかせた。


「何の罪で!」

「国家反逆罪。勇者様への不敬罪」


アルフレッドは、理解した。密告されたのだ。


「証拠は?」

「複数の証人がいる」


副長は冷たく答えた。アルフレッドは、抵抗しようとした。しかし、騎士たちが彼を取り押さえる。


「やめろ!私は貴族だぞ!」


しかし、騎士たちは容赦なかった。アルフレッドの家族が、奥から駆けつけてくる。妻が泣き叫び、娘が悲鳴を上げた。


「お父様!」

「心配するな」


アルフレッドは、家族に向かって言った。


「すぐに戻る」


しかし、その言葉は――嘘だった。彼自身、それを理解していた。


騎士たちに連行されながら、アルフレッドは悟った。


これは――見せしめだ。


反対する者への、警告だ。




翌日、城下広場には再び民衆が集められていた。しかし今日の空気は、昨日とは違っていた。広場の中央には――処刑台が設けられていた。


宰相ヴァルクは、王城の塔から遠くその光景を見下ろしていた。彼の心は、深い悲しみと怒りに満ちている。


広場には、数千人の民衆が集まっていた。パン屋のトーマスも、息子と共にその場にいる。息子は、恐怖に震えていた。


やがて、アルフレッド伯爵が広場に引き出された。彼の手は縛られており、騎士たちに両脇を抱えられている。民衆が、息を飲んだ。


王女フィリアが、演台に立った。


「皆様」


彼女の声は、冷たく響いた。


「この者は、勇者様を侮辱しました」


民衆がざわめく。フィリアは続けた。


「国家反逆者として、ここに処刑します」


民衆の一部が「当然だ!」と叫んだ。しかし、多くの者は――沈黙していた。


執行人が、前に出た。アルフレッドは、処刑台に立たされる。彼には、最後の言葉を述べる権利が与えられた。


アルフレッドは、広場の民衆を見渡した。そして――叫んだ。


「私は...真実を語っただけだ!」


その声は、広場中に響いた。


「勇者は...災厄だ!」


その言葉が、完全に響き渡る前に――。


処刑が執行された。


民衆は、恐怖に震えた。誰も、声を出さない。ただ――沈黙だけがあった。


ヴァルクは、塔の上で拳を握りしめた。


「すまない...アルフレッド」


彼は、仲間を守れなかった。トーマスは、息子の手を強く握った。息子は、泣いていた。


「父さん...」

「...これが、この国の姿だ」


トーマスの声は、震えていた。


広場の民衆は、静かに散っていく。誰も、何も語らない。語れば――次は自分かもしれないから。


恐怖が、全てを支配した。


ヴァルクは、窓から広場を見つめ続けた。そして――暗い決意を固めた。


「もはや...正攻法では止められない」


彼の声は、誰にも聞こえなかった。しかし、その決意は――確かなものだった。


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