カンとリクツ
徳吉は、じぶんの発言にたいして、ふたりが一体、どういうカオつき・表情をするのか、興味ぶかく見ていたのであるが、ふたりとも、とくべつ、おどろいたようすはなかった。
というか、むしろ、「ヤッパリ」とでもいいたそうな、カオつき・表情をしたのであった。
「ヤッパリですか。どうやらオレのカンは、あたったようですね」
マンゾクそうなようすで、高井がいった。
「オレも高井とおなじく、この書類をつくったのは、もしかして、徳吉さんじゃないかっておもえたんですよ。読んだときに、徳吉さんのカオとナマエが、アタマにうかんできたので」
「ヤッパリふたりとも、えらくカンがするどい。この書類を読んだだけで、オレのことが、アタマにうかぶっていうのは、理づめでかんがえたところで、まずムリだろうし。ソレはカンゼンにカンというか、直観だろうね。
ちなみに、この書類を読んだときに、なんでオレのことがアタマにうかんだのか。その理由って、聞いてみても良いかい?」
徳吉から、理由を聞かれたのであるが、いかんせんカンなのである。そのために、ふたりとも、うまくコトバにできそうになかった。
「正直なところ、うまくいえるかわからないんですよね。オレも高井も、なんせカンだったので。でも、あえていえば」
「あえていえば?」
「徳吉さんを、強制労働施設に送った、支所にいた元上司っていたじゃないですか。ソイツは、じぶんがつかまったあと、徳吉さんがつくった書類を、強制労働施設のニンゲンに見せて、じぶんは罪をかるくしよとした。でも、その結果として、かえってヒドイ目に遭って、処刑されたじゃないですか。
その徳吉さんがつくった書類って、たしか、最初のスタートと、さいごのゴールは、ハッキリと、ぐたいてきに書いてあるけど、途中の経過っていうものが、ほとんど書かれてなく、抜けてたというか、欠けてましたよね。
その書類を読んだときに、今この目のまえにある書類のことが、アタマにうかんだんですよ。コレと真逆だけど、似たような発想で書かれてると」
「真逆というと?」
「なんていえばいいんですかねえ。今ここにある書類って、一見すると、さいごのゴールというか、けつろんまで書かれてますよね。でもたぶん、ここに書かれてることが、終わりじゃないとおもったんです。
おそらく、ここに書かれてあるゴールっていうのは、実は、途中地点に過ぎないんじゃないかと。
書かれておらず、隠してありますが、この先にも、まだつづきがあるとおもうんですが。ソレをあえて、つまり、意図して書いてないんじゃないかと。
チョット意地のワルイ表現というか、いいかたをするか、不用心なバカにはわからないように、もっとも重要でたいせつなことを、つまり、ホントウのイミでのさいごのゴール・けつろんを、わざと書かなかった。
用心ぶかくて、チャント熟考というか、深く思考をするタイプのニンゲンであれば、この先にあることが、うっすらかもしれませんが、気がついて、察知するように書かれてるんじゃないかと。そう感じたんです。
徳吉さんの元上司が、強制労働施設のニンゲンに渡した書類も、あえて、途中経過が省かれて、まったく書かれておらず、読んだニンゲンが、不用心なバカかどうかを、テストするようなカタチになってましたよね?
ここにある書類も、ソレとにたようなニオイというか、印象をうけたんです」
「おどろいたな、ホントウに。そのとおりなんだよ。匿名で書いたとはいえ、ホントウのゴールやけつろんを、あからさまに書いてしまうと、カナリの確率や可能性で、キケンでアブナイと判断してね。
だから、そこにいたる、すこし前のだんかいで、わざと書くのを止めた。つまり、さいごの前のだんかいを、仮のゴールやけつろんとして、書類のないようをまとめたんだよ。
でも、まさかホントウに、このことに、気がつくニンゲンがいるとはね。しかもソレが、じぶんの知りあいで、しかも、じぶんのイノチを救ってくれたニンゲンっていうのは、なんというか、フシギな縁を感じる」
「コレで決まりだ」
徳吉の発言を聞いて、高井がとつぜんいった。
「決まり?なにがだい?」
徳吉は、おもわず聞きかえしてしまった。
「われわれが、徳吉さんをたすけだした動機や理由、狙い・もくてきは、ここに書かれてあることをおこなうのに、ひつようなタイプのニンゲンじゃないかって、おもったからなんです」
高井が答えた。そして、ソレにつづいて、というよりも、高井のコトバを補足するようにして、藤柴が話しだした。
「高井が今いったとおり、この書類を読んで、オレも高井も、まったくそのとおりだと、内容に共感して、納得や賛同をしたんです。
でも、正直なところ、オレと高井のふたりだけでは、うまくやれる自信がなかったんです。オレたちは、キホン的に、うごくタイプのニンゲンだとおもってます。
うごいて、なにかをおこなって、実行していくっていう役割・担当のニンゲンなんです。でも、それだけじゃあ、ダメなんじゃないかとおもいまして。
もしも、少人数でうごくだけだったら、オレと高井、あと何人かいれば、ソレでいいかもしれませんが、でもそれだけだったら、ちいさなことしかできない。
オレと高井がうごいて実行し、おこなったあとに、うしろから、ソレをまとめて、かためて、組織化していくタイプのニンゲンが、ひつようになるんじゃないか。ってかんがえたんです。
ソレで、オレたちが知ってるニンゲンのなかで、そういうタイプがいたかなと、イロイロとかんがえたときに」
「オレのことが、アタマにうかんだと」
「そのとおりです」
「なるほどねえ」
「直観を重視して、ソレを基にしてかんがえて、判断し、うごくことがおおいオレたちは、正直なところ、『理づめでものごとをまとめて、かためて、組織化して、組織的にものごとを進めていく』っていうことが、どうにもニガテというか、不得意なんですよ。事務や実務っていうものが、どうにもできない」
「だろうね。ひさしぶりに、君たちに会って感じたオレのイメージも、まさにそのとおりだった。
高井くんは、直観が異常にするどくて、決断、判断、意思決定が素早い。ただその分だけ、というよりは、ソレに反比例するようにして、リクツを積みあげていく、理づめの思考がすくない。
たぶん、直観だけっていうことは、さすがにないにしても、オレの見たところ、大体、直観が80%くらいで、のこり20%が理づめにおもえる。
藤柴くんは、高井くんほど、つまり、『異常なまでに直観がするどい』というワケではないが、フツウのニンゲンよりも、カナリ直観がするどい。だから、リクツがほとんどない、高井くんの直観も、すぐに察知して理解する。
そして、直観とリクツのわりあいが、大体、五分五分に近いとおもう。つまり、直観が50%、リクツが50%でバランスが良い。あるいは、直観が60%で、リクツが40%かもしれんか。
こうかんがえると、藤柴くんは、うごいて実行していくニンゲンだけじゃなくて、相談役というか、参謀・ブレーンみたいに、組織のソトにいて助言し、意見・アイデアをいう役割・担当も、もしかしたらできるかもしれん。
いずれにせよ、リクツがすくなすぎて、たにんにたいして、コトバをつかってせつめいしたり、内容をつたえることが、おそろしくニガテで不得意な高井くんのことを、うまく補佐したり、サポートすることができる。
キホン的に、ニンゲンっていうのは、直観がするどくて、リクツがすくないほど、かんがえて判断し、決断し、意思決定するのがはやくなる。
だからこそ、その分だけ、うごきだすのもはやい。クルマでいえば、直観はアクセルで、リクツはブレーキといえるか。
そして、フツウのニンゲンの直観っていうのは、キホン的には、ほとんどハズレる。だからこそ、直観だけっていうのは、ホントウだったらダメなんだよなあ。
でもたまに、ごく少数ながらも、直観がするどくて、良くあたるニンゲンっていうのが、マレにそんざいしてる。
こういうタイプのニンゲンは、もしかしたら、ときには超能力者やエスパーだとか、霊能力者のように、あつかわれてるのかもしれん。
でも、いくら直観がするどくても、アクセルだけしかなくて、ブレーキのないクルマっていうのは、いずれかならず、大事故をおこすことになる。
ソレと、100%カンペキなニンゲンはいない以上、どんなに直観がするどくても、ときには、間違えることがある。
ほんらいだったら、じぶんのアタマにうかんだ直観が、間違ってたり、ハズレてるのかどうか、一個ずつ、理づめでかんがえるひつようがある。
つまり、直観をリクツでもって精査して、あたってるのかチェックするひつようがある。でも、『天は2物をあたえず』で、なぜか直観がハズレす、間違えることのすくないニンゲンっていうのは、リクツがすくないというか、理づめでの思考ってものが、ほとんどできないケースがおおい。
だから、直観があたってるときは、ズバズバあたるもんだから、すぐにうごける。だから、ドンドン前に進んでいける。
でも、イザ直観をハズシてしまって、間違えてしまったとき、それこそ、致命的なミスや失敗、敗北を招きかねない。
バクチでいえば、大アタリばかりを狙って、毎回毎回、大金をつかって勝負して、勝ってるときは調子が良いが、負けたときに、すべてを失って、破産してハメツするのに似てるんだよなあ。
こういう視点や発想に立って、アレコレかんがえてみると、直観がするどいニンゲンがいたら、ソイツの直観を理解することができる。
あるいは、ソイツほどはムリだとしても、一定以上のするどい直観を持っており、かつ、あるていどは理づめでかんがえて、リクツでもって、その直観があたってるのか精査して、チェックする。
さらにいえば、リクツでもって、ほかのニンゲンにたいして説明して、つたえるニンゲンがペアになって、補佐してサポートするっていうのが、一番良いかもしれん」
ここまでいうと、徳吉はふたりのカオを、ジッと見ながらいった。




