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婚活ゼクシィ編

 

 うららかな午後、ミュリエッタが部屋の真ん中で水晶玉を前に唸っていた。

「えーっと、違うの、クレームじゃなくて、前に買ったガーゴイル召喚用蝋石をもう一回買いたいんだけど……え? 品切れ中? ……え? 次の入荷は未定?」

 はー、とミュリエッタがため息をついてなでなですると、水晶玉の光が消えた。

「在庫なしだわ」

 それをきいたガゴちゃんが風呂敷にまとめた荷物を長い棒の先に結わえようとしている。

 翼があるくせに、それを肩にかけてとぼとぼと歩いて出て行く気なのだ。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

 もう振り返りもしないガゴちゃん。

 気持ちはわからなくもない。

 不運にもミュリエッタにピンで召喚されてしまったガーゴイルのガゴちゃん。本当はコンビなのに、と職場環境の改善を訴えてごねている真っ最中だ。

 どうやらガーゴイルは門番として二対必要らしい。ガゴちゃんが言うには、それは嫁でなくてはならない、と。

 本当かな。

「だから、相方、じゃなかった嫁が見つかるまで門番はしなくていいから! それでいいでしょ? ね?」

「…………」

 しぶしぶといった様子でガゴちゃんが荷物を置いた。

 そして、ハートのイヤリングを着けたクロンにぼそぼそと囁く。

「三食昼寝付きかってきいてますけど?」

「いいわよ」

 あっさり答えたミュリエッタに目を剥いたのはクロンだった。

「ちょっと待った! それって三食用意するの俺だからですよね!?」

 まったく悪びれた様子もなくミュリエッタがクロンに言った。

「そうだけど?」

「はあ? なに気軽に、いいよ、なんて言ってくれてんすか」

 もっとも悪びれたところなんて見たことがなかった。

「君は、ガゴちゃんがかわいそうとか思わないわけ?」

「ガゴちゃんの飼い主は先生でしょう? 世話は自分でしてくださいよ」

「ペットの世話は弟子の仕事よ。あたしなんか修業時代、ハゲタカの世話してたんだから!」

 ハゲタカ?

 どんな魔法使いの元で修業してたんだろう?

「あんたたち、ハゲタカの世話したことある!? すっごく大変なんだから!」

 でしょうね。

 そこに異論を挟むつもりは全然ないです。

 そのまま無視していると、ミュリエッタはかまわず、ハゲタカはとにかくデカい、という話をしていた。

 気が済んだかというタイミングでクロンは口を挟んだ。

「ガゴちゃんの相方、というか嫁問題は一旦置いておくしかないですね」

「そうね、こればっかりは次の入荷を待つしかないもの」

 不満そうなガゴちゃんにミュリエッタがあわてて言った。

「ちゃんと次の入荷のお知らせを受け取るようにしといたから!」

 なんでこんなにしてまで特に役に立っていないガーゴイルを引き止めているのか、本人気づいてなさそう。

「じゃあ、次はあたしの番よね」

「なにがです?」

「あたしの婚活!」

 ああ、婚活……正気か?

「でも、結婚するといっても、どうするんですか? なんか当てとかあるんですか?」

「当てってなに?」

「友だちの紹介とか」

「……そのいじり何回やるわけ?」

 忌々しそうに睨めつけられたが、すぐに気を取り直したようにミュリエッタは続けた。

「いまはいいものがあるのよ」

 これよ、これ、とミュリエッタがまた水晶玉を撫ではじめた。

「なんですか? 通販以外に使い道あるんですか、その水晶玉」

「失礼ね、鏡にもなるのよ」

 ムッとしたミュリエッタの表情が逆さまになって水晶に映される。

 そして、その表情が得意げなものに変わりミュリエッタが言った。

「これはね、マッチング魔法が使えるのよ」

「……それ魔法なんすか?」

 そうよ、とミュリエッタがしれっと答える。

 まあ、深くものを考えないタイプなのはわかっているが……。

「この水晶を買ったら使えるサービスでね、出会いをマッチングしてくれるのよ。まあ、対象はこの水晶を持ってる人限定だけど、なんと成婚率は二十八パーセント!」

 ビミョーな数字。

 高いの? 低いの?

「この水晶って一般人は持ってないですよね? じゃあ、マッチングするのも魔法使いとかなんですか?」

「そうよ。そういう業界に絞らないと、一般人とは寿命が違うもの」

「ああ、となるとやっぱり結婚するなら魔法使いの相手は、魔法使いがいいんですか?」

 何気なく口にした疑問に、ミュリエッタが目を剥いて叫んだ。

「いいわけないでしょ、魔法使いと結婚してなにが面白いのよ!」

 面白いかどうかなのか、結婚って。

 というか、どういうこと?

「でも、魔法使いだけじゃないわよ、ヒーラーとか、魔物使いとか、盗賊とかいるわよ」

 盗賊?

 結婚相手の職業としてどうなの、それ。

「そもそも先生って、どういう人がタイプなんですか?」

 正直、クロンとしてはまったく興味はないが、成り行き上きかないわけにはいかない。

「そうね……」

 かなりの時間が経った。

 ガゴちゃんはとっくに昼寝をしている。

「もしかして、考えたこともないんじゃないすか?」

「あるって!」

 ムキになってるけど、ないんだと思う。

 なんかかわいそうになってきたな。

「わかりました。じゃあ、やってみましょう、とにかく」

 クロンはミュリエッタから渡された水晶玉を撫でた。

 『素敵な出会い! マッチング☆魔法』という黄色にピンクの縁取りの文字が浮かび出てきて、少したじろいてしまう。

「まずはプロフィールを埋めましょう。名前は……ミュリエッタっと」

 次の項目を見てクロンは言った。

「先生、そういえば何歳なんですか?」

「何歳かって? もう忘れたわよ。誕生日、誰も祝ってくれないし……」

 またきいてはいけないことをきいてしまった。

 ミュリエッタは、すっかり項垂れて床を見つめてしまっている。

 だが、おそらく、これが一番大事な項目だ。

 回答なしではまずいだろう。

 ここは、適当に……見た目で……何歳だ?

 クロンはじっとミュリエッタを見つめた。

 実年齢はかなりいっているのだろう。

 なんといっても大魔法使いだ。

 クロンよりはるかに年上なのは間違いない。

 うーん、若い、というより年齢不詳、といったほうがぴったりのような気がする。

 まあ、二十六歳……いや、もうちょっとウソでもいいだろう、二十二歳……さすがに無理がある。ここは、おまけして二十四歳くらいでいいか。

「あと、確か、蟹座でしたよね」

 どうでもいい情報だが、ないよりましだろう。

 なにしろ他に書けることがない。

 あとは、飼ってるペットはガーゴイルとか?

 やっぱりまずいかな。

 職業が盗賊系の登録者には避けられる要素かもしれない、門番だし。

 とはいえ、空欄が目立つよりは……ガーゴイル……翼もあるし、広い意味では鳥だろう、多分。

「ペットは鳥……と」

 ギリ、ウソではない。

 まあ、どうせみんな多かれ少なかれ自分をよく見せようと嘘をついているはずだから、お互い様だ。

「えーっと、次の入力の項目は?」

 特技の欄……確か紅茶占い……アピールポイントか、これ?

 だんだん面倒になってきた。

「あれ? 職業って、選択肢しかないんだ。えーっと、勇者、戦士、魔法使い、あ、あったあった」

 選択したあと、他にどんな職業が羅列されているのか、興味が湧いてきた。

 水晶を撫でると次から次に選択肢が湧いてくる。

 僧侶、魔物使い、格闘家……。

「そういえば、先生って、なんで魔法使いで魔女じゃないんですか?」

 なにか違いがあるのだろうか、という素朴な疑問だったのだが……。

「先生?」

 俯いていたミュリエッタが顔を上げた。

「別にいいでしょう……どっちだって……」

 全然、別にいいって顔じゃない。

 目が据わっている。

「でも……」

 ゆっくりとミュリエッタが杖を手に立ち上がった。

「これ以上追及するなら、そのどてっ腹に風穴開けるわよ」

「なんか脅しが古くないすか?」

 余計なお世話とは思うが、アップデートしたほうがいい。

「そんなムキになるなんて、なんなんですか。魔女と魔法使いの違いって」

 突然、きらきらり~ん、とどこからか音がした。

「?」

 音の出所をさがすと、水晶玉がぺかぺか輝いている。

「え?」

「っ!」

 立ち上がったミュリエッタが杖で水晶玉にフルスイングしようとしている!

「わあ!」

 こんなに機敏に動いているところはじめて見た!

 クロンは咄嗟に水晶玉に飛びついてかばった。

 髪の毛の先を杖がかすり、手加減なしの攻撃に寿命が縮まった気がした。

 こういう場合にミュリエッタが魔法をぶちかましてくるタイプではなくて本当によかった。

 なんで魔法を使わないのかという気もするが。

 そうして守った水晶玉が不自然なイントネーションでしゃべった。

『お応えします。魔女と魔法使いの違いは、魅力の呪文が使えるか、使えないかです』

「え? 魅力の呪文?」

 それってつまり?

『男を夢中にさせ、虜にする呪文です』

 それがミュリエッタには使えないってこと?

 ハートのイヤリングはしてないが、ガゴちゃんが、本当にやばい、と訴えているのがわかった。

 クロンも背後からひしひしと殺気を感じる。

「え、えっと、人には向き不向きが……」

 おそるおそる振り返るとミュリエッタが杖を振りかぶるところだった。

「コロス」

 話の通じない殺人鬼みたいになっている。

「わ!」

 脳天目がけて振り下ろされた杖を辛うじて避けると、すかさず横になぎ払おうとしてきた。

 その流れるようなコンボ、本当に魔法使いの戦い方か?

 退路を確認しようとしたクロンの目に水晶玉が見たことのない輝き方をしていることに気づいた。

 よく見るとハートマークが点滅している。

「あ! マッチングした!」

「ええ!?」

 必殺の一撃を叩き込もうとしているミュリエッタの動きが止まった。

「ウソでしょ……?」

 ミュリエッタがぽろりと杖を落とした。

 全員、同じ表情でぺかぺか光る水晶玉を見つめている。

「ど、どんな人なの?」

「どうぞ」

 水晶玉を渡そうとすると、ミュリエッタが手をばたつかせて拒んだ。

「み、見てみて! 自分じゃ見らんないわよ!」

 さすがにクロンもその気持ちが少しわかったので、代わりに読み上げることにした。

「えーっと、お相手は、戦士アルデバラスさん、二十五歳……得意な武器は斧」

「斧?」

 ミュリエッタが怪訝そうに眉を寄せた。

「力自慢ってことですかね?」

 この時、全員思った。

 なんか変だな?

「趣味は、ダンジョン攻略……腕におぼえのある方がタイプです」

「ダンジョン攻略のパーティメンバー募集じゃないの!」

 ミュリエッタがクロンの持っていた水晶玉を叩き落とした。

 にぶい音がして水晶玉がゴロゴロと床を転がっていく。

「はぁ……はぁ……ふざけんじゃないわよ……誰がダンジョンなんて行くもんですか。あたしは、魔法使いをやめたいのよ!」

 昔、ダンジョンでなにかあったの?

 そう思いたくもなるくらいミュリエッタは激高している。

 こうなったら、落ち着くまで待つしかない。

 クロンがあたたかく見守っていると、肩で息をしていたミュリエッタが気を取り直すように頭を振った。

「やめやめ、婚活なんて。こんな方法でまともな男が捕まるわけないわよ」

 自分の方がまともじゃない、という考えには至らないようだ。

「でも、先生って、魔法使いとしては需要があるんですね」

「魔法使いとして『は』?」

 反論しようとして、その材料が自分の中からも見つからなかったのだろう。

 結婚相手として、望まれそうな要素はない。

 強いていえば『女性』という最低限の要素しか満たしていないような。

「そ、そうよ。あたしを誰だと思ってるのよ。そんじょそこらの魔法使いじゃないんだから」

 いちいち言い回しが古いんだよなあ、と思いながらクロンは水晶が転がっていった先を見た。

「割れなかったかな」

 棚の下に転がっていった水晶玉を手探りで掴んで取りだそうとした。

「ん? なんか紙が……」

 水晶玉のついでにその紙もひっぱりだしてみた。

「なんすか、これ」

 見ると、魔方陣らしき図が書いてある紙だった。

 ミュリエッタの落書きかと思っていると、ガゴちゃんがわたわたとなにか言いたそうに手を動かしている。

「なに? ガゴちゃん」

「ほら、あれよ、あれ」

 ちょんちょんと自分の耳を指さしアピールするミュリエッタが憎たらしい。

「ああ……あれですね」

 ハートのイヤリングだ。

 ポケットをさぐってイヤリングを取りだした途端、クロンはふと気づいた。

「これって、ガゴちゃんが着けてもいいんじゃないの?」

 さっとガゴちゃんがクロンから目を逸らした。

「もしかして最初から気づいてたのに、黙ってたわけ?」

 クロンはこの機会にもうひとつ気になっていたことを口にする。

「つーか、前からちょっと思ってたんだけど、まあまあ言葉通じてない?」

 首を振ろうとしたガゴちゃん、はっとしてしまう。

 あわてて身振り手振りで言い訳をはじめた。

「でも、しゃべれない。ふーん……」

 本当かなあ?

 クロンが疑いの眼差しでガゴちゃんを見ているとミュリエッタが言った。

「しゃべれるようにもなるのよ。ほら、ここ」

 留め具をひねるとピンクのハートが赤になった。

「どう? おしゃれでしょ」

「おしゃれかどうかはどうでもいいです。ガゴちゃん、はい、これ。やってみて」

 ハートのイヤリングを差し出すと、ギャッと鳴いてガゴちゃんが跳びすさる。

 いまさらいかにも魔物です、みたいなリアクションしても無駄なのに。

「悪いけど、ここじゃ人間の数の方が多いんだから、仕方ないと思ってよ」

 クロンだって、ガゴちゃんにこのハートのイヤリングを身につけさせるのは酷だと思う。

 それでも、自分が助かるためにはガーゴイルも犠牲にするってだけだ。

 差し出したイヤリングを見てガゴちゃんが息をのむのがわかった。

 そして、ついにごほん、と咳払いしてからガゴちゃんが口を開いた。

「それは必要ない、しゃべれる」

 めちゃくちゃ低音のイケボでミュリエッタとふたりしてぎょっとしてしまった。

「なにか?」

 怪訝そうなガゴちゃんにクロンたちはあわてて首を振った。

「しゃ、しゃべれるんだね?」

「ただ、とても疲れる」

「無理しないでいいのよ?」

 見た目と声のギャップがすごい。

 もっと甲高い声で乱暴にぎゃあぎゃあしゃべるイメージなのに。

 そしてなにより、ハートのイヤリングをつけるよりも、後々不利になるかもしれないのにしゃべれることを自白する方を選ぶなんて。

 大丈夫?

「……その魔方陣の見本図があれば、蝋石は必要ないと思うのだが」

「え? 召喚用蝋石って必要ないの?」

「魔方陣が書ければなんでもいいはずだ」

 ミュリエッタがぴくりと眉を動かして叫んだ。

「ちょっと待って。じゃあ、なんで蝋石がセットで売ってるのよ! 特別な蝋石だから高いんだと思ってたんだけど?」

 クロンはぎりぎりと奥歯を噛みしめているらしきミュリエッタを横目で見た。

 まあまあ騙されやすいんじゃ……と心配になる。

「蝋石ってこの家にあります?」

「あるわけないでしょ」

 あったところでどこに仕舞ってあるかはわからないだろう。

 さがすより買った方がはやい。

 水晶で星☆グループの商品ラインナップでさがしたが、蝋石はどれも在庫切れだった。

「なんで? 誰か買い占めた? 転売?」

 転売するようなものなのか、蝋石って。

「じゃあ、結局魔方陣見本はあったものの、蝋石の入荷を待つしかないんですね」

 やれやれ、とクロンは息をついた。

 いつものことだが、なんて無駄の多いやりとりなのか。

 この話はひとまずこれで終わり、と思った時、ガゴちゃんが言った。

「外の地面に書けばいい」

「え? 地面に?」

 クロンが驚くとミュリエッタが手を叩いた。

「そうね! 野外で魔方陣を書くことなんてよくあることよ」

 言われてみれば、魔法使いが魔法を使う場面は屋外が多いはずだ。

 室内で使うには危険すぎる。

 なるほど、と思ったところでふと気づいた。

「最初にガゴちゃんを召喚した魔方陣はどこに書いたんですか?」

「地下室よ」

 クロンは驚いた。

「この家、地下室なんてあるんですか?」

 クロンはこの家の掃除も押しつけられているが、地下室のことは知らなかった。

「あるわよ、あたしをなんだと思ってるの? 魔法を使うための場所は、隠し部屋にしてるに決まってるでしょ」

 自慢げに顎を上げてミュリエッタが言う。

「ええ、じゃあ、大鍋があったり、どくろの燭台があったりするんですか?」

 クロンはミュリエッタの弟子になって、はじめてわくわくしてきた。

 なにしろこれまで魔法使いらしい様子を目にしたことはまったくないのだ。

「……あるには、あるわよ」

 そこで察してしまった。

 おそらく大鍋は空っぽ、どくろの燭台は床に転がっている……とかだ。

 隠し部屋というより、見せられない惨状の部屋になっているとしか思えない。

 気まずくなったのか、ミュリエッタが言った。

「じゃ、外で書きましょうか……」

 そうしてミュリエッタが重い腰をあげ、ガゴちゃんが続いた。

 外に出て、家の前の空き地でミュリエッタが杖を構える。

「その杖で書くんですか?」

「そうだけど?」

「杖が痛むんじゃないですか、地面なんかガリガリやって」

 それならその辺に落ちているただの木の枝でやってもいいはずだ。

「魔法使いの杖は丈夫で、なんにだって使えるくらいじゃないと話にならないわよ」

 まあ、確かに武器(物理攻撃)としても使ってるからいいのか。

 見本をしげしげと眺めてからミュリエッタが杖を構えた。

「まずは円を描いて……」

 ガリガリと杖で地面を削っていくミュリエッタをクロンはガゴぢゃんと見守った。

 しばらくするとひとつの円が描けた。

「なんか真円じゃない気がしますけど……」

 ところどころ歪んだ円になっていてクロンとしては気になる。

 そもそも、線がへろへろしているのだが、大丈夫なのか?

 魔方陣とは正確さが要求されるもの、という印象なのだが。

「大事なのは、この呪文よ、呪文」

 ミュリエッタはまったく気にした様子もなく円の中に書かれている呪文に取りかかりはじめた。

 その大胆さだけは評価したいが……。

「先生、そこ間違ってます」

「え? どこよ?」

 振り返ったミュリエッタの足がざっといま書いたところを消してしまった。

「あ!」

 足元を見たミュリエッタの動きが完全に止まる。

 これ以上、不用意に動いて文字を消したくない……じゃないだろうなー、多分。

 絶対に、もうやめようかな、と迷っているに違いない。

「あの、ガゴちゃんを召喚する時、この魔方陣って本当に先生が書いたんですか?」

「書いたからいまそこにいるんでしょう!」

 ミュリエッタがビシッとガゴちゃんを指す。

 気まずそうなガゴちゃん。

 こういう時、確かに反応に困る。

「それにしてもこんな複雑な魔方陣……」

 クロンはあらためて魔方陣の見本を確認する。

 円の中には不吉な形の文字や図形や紋章(?)が書かれているが、意味はまったくわからない。

 ただ、わかるのは、こんな複雑な図、よく描けたな、ということだけだ。

 不審に思っていると、杖を支えに立っていたミュリエッタがぼそっと言った。

「……ねえ、もしかして、あの蝋石って魔法がかけられてたんじゃない?」

「え?」

「前はもっとスラスラ書けた気がするのよね」

「でも、書き間違えて一本無駄にしたんですよね?」

「あれは……書いてる途中でくしゃみしてボキッて折っちゃって……」

 そういうことだったのか。

「だが、丁寧に描けば必ずできるはずだ。間違えてもすぐに消して書けるのだから……」

 ガゴちゃんの言うことはもっともだったが、大変な作業になるだろう。

「その間違わずに書ける魔法って、先生は知らないんですか?」

「知ってたらお金払って買わないわよ!」

 そうやって揉めているとクロンの頬になにかがぽつりと落ちてきた。

「ん?」

 空を見上げると暗雲が垂れ込めてきていて、差しだした手に大粒の雨がぽつぽつと降りはじめた。

「あ……雨……」

 降り出した雨がすべてを洗い流していく。


 クロンたちの努力とやる気も。


誰も得しない更新再開!

あれから本業で二十万字書いてたから滞ってたけど

本人は楽しく書いているのでまだ続くよ~。

ゲームはいつだってソロプレイ!

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